最終話 未来

 魔王城の戦いから1ヶ月後。


 ロナ達はエメラルダスへと帰還していた。到着した頃には既に戦闘は終了しており、王都は活気を取り戻していた。


「よくぞ……よくぞ無事に戻った勇者よ……」


 エメラルダス王、オウンスはその眼を潤ませながらロナ達を見た。


 ロナとブリジット……そしてエオルが王へと跪く。


「王様こそよくぞご無事で……」


「ああ。それもロナ殿のおかげだ。魔王軍の侵攻時にサザンファム軍が参戦してくれたのだ」


「サザンファム軍が?」


「ああ。使者から伝言があった『勇者の信じる物を私も信じよう』と。アゾム女王の言葉だ」


「女王様が……」


「過去の遺恨はあったが、再び共に歩み出せる。全て其方達のおかげだ」


 ロナ達はオウンス王から顛末てんまつを聞いた。サザンファム軍が参戦したことで形勢は逆転。その後魔王の死を知った魔族達は散り散りとなり逃走していったと。


 その後、ロナ達への再びの賛辞が始まり……長い長い王の話が続いた。


「王様、そろそろ」


 1時間ほど経った頃、大臣のパトリックが王へと耳打ちする。それを聞いたロナは内心安堵した。話を切り上げようとしたオウンス王は、何かを思い出したかのように再び口を開いた。


「ああそうだ。其方達の希望通り、捉えた元幹部は捕虜として丁重に扱っておる」


「イリス……ありがとうございます」


「して、彼女の処遇はどうする?」


「イリスは僕が連れて行きます」


「なんと……!? 魔王は死んだと言え、元幹部であるぞ?」


「王様。僕も生まれは魔族の身。イリスもきっと人と共存できるようになります。いや、僕がしてみます」


「む、むぅ……」


 ロナがオウンス王の瞳を真っ直ぐに見つめる。そんな様子を見ていたエオルが口を開く。


「ねぇ王様? 話しても良いかしら」


「魔導士殿か。如何されたのかな?」


「イリスは魔王討伐に協力してくれたの。彼女の強化魔法が無ければ魔王は倒せなかった。だから彼女自身にこれ以上人と敵対する意思は無いと思うわ」


「むぅ……確かに。だが完全に解放するというのは私の一存では決められぬ。時間を貰っても良いかな?」


「はい。僕達もしばらくこの街に滞在していますから」


「分かった。勇者の願い……希望通りとなるよう全力を尽くそう」




◇◇◇


 それから数週間。



 ロナ達はエメラルダスに滞在した。ロナとブリジットは宿へ。エオルは魔法学院へ戻り、夜には必ず宿を見に来ていた。


 その間に使いの者が宿へとおもむき、イリスの処遇が決まった。


 イリスはロナと共に出国するという条件で解放されることとなった。貴族達の反対はあったが、王と、そして……大臣のパトリックが説得したのだ。


「あの大臣殿が協力してくれるとは意外でしたなぁ……」


 ブリジットが宿のイスに腰掛け天井を見つめる。


「あれじゃない? 心境の変化でもあったんじゃないの? でもよかったじゃない。ロナの希望通りイリスが解放されることになって」


「うん。ちょっとだけイリスの気持ち分かるから。一緒に旅をすれば分かり合えるかもしれないし」


「……そうね。私もまた旅がしたいわ」


「エオルは魔法学院に残るの?」


「旅で得た経験を元に新しい魔法を作ってみたい気持ちも、ある。だけどねアンタが旅立つなら私はついて行くわよ」


「残ってもいいんだよ?」


 エオルが首を振る。 


「ううん大丈夫。これが私の意思よ」


「……ありがとう」


 ロナが寂しげな顔で窓を見つめる。



「師匠……戻って来ないね」



 もう、何日も何日もロナはジェラルドを待っていた。朝起きれば王都の門を見に行き、帰って来ては宿の外を眺める。そんな姿にエオルもブリジットも胸を痛めていた。


「早く帰って来なさいよ。こんなに心配してるんだから……」


「ホントであります。ジェラルド殿が戻って来ないと自分も残った仲間達を遺跡に連れて行けないでありますよ」


 涙ぐむエオルに呆れるブリジット。そんな彼女達を見てロナはうっすらと笑みを浮かべた。


「ごめんね。1人にして貰ってもいい?」


「……アンタもちゃんと休みなさいよ」


「無理はしてはいけないでありますよ」


「うん」



 ……。



 …。



 待ち続ける。



 何時間も、何時間も。



 少女は男を待ち続ける。



 やがて、窓からは夕陽が差し込むようになっていた。



 窓を眺めるロナ。窓の外に映るのは夕陽に染まる王都の姿。活気ある街並みが広がり、人々の騒がしい日常が流れていた。



 ロナは、ぼうっとそれを眺めていた。



 いつの間にか宿屋は客で埋まり、ざわざわと騒がしくなっていく。



 それでもロナは見つめ続けた。窓の外を。



「何を見ているんだ?」



 1人の客が、ロナへと話しかけた。



 後ろから聞こえる男の声。ロナは振り返らず、ぼんやりと窓の外を眺め続ける。



「大事な人を待ってるんだ。僕の大切な人を」



「ソイツとはどんな関係なんだ?」



「師匠と弟子。でも僕は……家族になりたい……と、思ってる」



 男性客が黙り込む。



 ロナが不思議に思い振り返ると、そこにフードを被った男が立っていた。



「あ、あれ?」



 困惑するロナ。それは、その姿に見覚えがあったから。




 その男がフードを上げる。そこには……。



 彼女の良く知る「眼帯」があった。




「待たせちまったな」



 眼帯の男が少年のような笑みを浮かべる。



「へへ。帰り道にちょ〜と怪我しちまってさ。村に寄ったんだが、そこに回復魔導士がいなくてよぉ」


 少女が大粒の涙を流し、男へ抱き付く。


「お、おい!?」



 狼狽える男。しかし、少女はその手を離さない。もう決して離したくないと、そう思った。



「……遅いよ」


「……悪かった」



 男が、少女を抱きしめる。そこで少女は気付いた。



 男から自分が想われていることを。


 この男こそが、自分の帰るべき場所であるのだと、そう言われているよな……。





 こうして、勇者ロナと仲間達の物語は終わった。



 しかし、男と少女の物語はどこまでも、どこまでも続いて行く。



 それは、私達の知らない未来へと──。




 外れスキルの大師匠 完。




―――――――――――

 あとがき。



ここまでジェラルドとロナの物語にお付き合い頂きまして本当にありがとうございました。これにて本編は完結となります。


実は、構想はありながら35話で一度完結させようと思っていた作品でした。ここまで書き続けられたのはひとえに皆様の応援あってこそだったと思います。



今後エピローグを書くかもしれませんので作品フォローはぜひそのままで。また、作者フォローを頂けると新作投稿時に通知が行きますのでぜひぜひ登録お願いします。




また、本作の魔王や魔王軍幹部に付いて深く興味が出たという方は↓の作品をどうぞよろしくお願い申し上げます。本作の魔王デスタロウズが元々いた異世界となります。



異世界征服〜会社員。女魔王とオープンワールドに似た世界で最強魔王軍を作る〜


https://kakuyomu.jp/works/16817330658289604189




最後になりますが、本当にここまで見届けて頂きまして、ありがとうございました。また機会があればお会いしましょう。



それでは。また会う日まで。



さようなら。

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外れスキルの大師匠〜スキル「にげる」しか持たないRPGの最弱ボス【悪役貴族】に転生した俺は、死にたくないので原作知識と知恵を駆使して勇者【ヒロイン】を最強に育て上げ、死亡イベントをクリアします〜 三丈 夕六 @YUMITAKE

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