短歌・俳句・川柳
思へども(大伴坂上郎女)
こんにちは。お元気ですか?りりです。
今回は、私の好きな短歌を一首解説して、その後小説に起こしていきたいと思います。初の試みだ、いやー楽しみだなあ、、(重めのプレッシャー
注意にはなりますが、私は一介の文学オタクです。今からお話しさせていただくのは、専門家のような周辺環境などを踏まえた正確な解釈ではなく、あくまでも自分が感じたものに過ぎません。それでもいいよ!という方は、ぜひ楽しみながら読んでいただけると嬉しいです。この短歌を元にした短編小説も、お楽しみに。
では、今回ご紹介する短歌は、こちら!
思へども 験もなしと 知るものを なにかここだく わが恋渡る
(どれだけ想っても叶うことはないのに、どうしてこんなにも私の恋は募るのでしょうか。)
……うーーん、いい!!!!ステキ!!素晴らしすぎる!!!
この短歌は、『万葉集』に掲載されている、大伴坂上郎女という女性のものです。叶わないと頭では分かっていつつも止められない、そんな恋心が、繊細に表れていますね。
私がこの短歌を知ったのは、ある小説(下に載せているものとは別です)のネタを探している時でした。「叶わない恋」に関するものを探していた私に、この一首はクリティカルヒット。
そもそもどうして、何百年も前の人の想いが、現代になってもなおこんなにヒシヒシと伝わってくるのでしょうか。口語訳が一つもいらない短歌なんて、珍しいですよね。ここまでど直球に想い伝えられちゃったら、もうyesって言うしかないじゃん!!なんで叶わないかなあ!!
それでは、この短歌をモチーフにした小説をどうぞ。
今日、僕の恋は終わった。
『ねえねえ、あたし、彼氏できた!』
いつもと何ら変わらない、講堂の中。そんな一言が、女子グループの中から不意に飛んできた。ハッと視線を上げたその先では、いつもより丁寧に髪を巻いた彼女が、自分のスマホをあたっていた。
『えーーかっこいい!どんな人なん!?』
『顔見してよ!』
『分かっとんよ!今写真出すけん待って!』
彼女が伸ばした指を左右に動かすたび、髪についたリボンがわずかに揺れる。上を向いたまつ毛も、弓形に細められるその瞳も、漫画の主人公のように整った横顔も、全部全部、誰かのものになっていた。
僕ではない、誰かのーー
『ええーイケメンやん!いくつ上?』
『よん!バイト先のセンパイなんよ』
『よな!絶対年上やと思った!』
微かに見えるその画面の奥では、少し浅黒い肌をした茶髪の青年が、彼女の肩を抱いているらしい。寄り添うように身体を傾ける、写真の中の彼女は、見たこともない、艶かしく大人びた顔をしていた。
(…っ)
居た堪れなさに、思わず俯き、両手をぎゅっと握りしめる。背伸びして買ったワックスも、話を合わせるために始めたソシャゲも、全てが何だかとても憎らしくて、悲しくて、愛おしい。
(…ああ、それなのに)
「思へども、験もなしと、知るものを」
彼女の笑う顔が、声が、頭にこびりついて離れない。
「なにかここだく、わが恋、渡る…」
どうしてこんなにも、彼女が好きで好きで、仕方がないのだろう……?
ーーはい、以上になります。いかがでしたか?
個人的な話にはなりますが、実は私、こういう「実らない恋」というものが大好きです。自分ではどうにもならない無力感と切なさが、読んでいて心に刺さるんですよね。
それでは今回はこの辺で。これを通じて、和歌、ひいては文学のことが少しでも好きになっていただけたら嬉しいです!
お読みいただき、ありがとうございました。またお会いしましょう!
文学はいいぞ りり @drizzlingrain
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