エピローグ③ END

「なあゲイル。この大陸もあらかた探索しつくしたぞ。次はどうするつもりなのだ」


 最果ての迷宮と呼ばれる地下三百階層にも及ぶダンジョンを攻略して地上へと戻ってきた俺達は、近場の町の宿屋のテラス席でくつろぎながら話をしていた。


「ああそれな。実はラー・ブレスカから相談されていた事があってな」


「なに、わらわのところにそんな連絡なかったぞ」


「ほらあれだ、お前には過去の因縁もあるから相談し辛かったんだろう。多分そんなに他意はないから気にするな」


「うむ。ゲイルがそう言うなら……で、相談と言うのは?」


「ああ、何でも一番近い異相世界の神から救援要請がきているらしくてな」


 ラー・ブレスカに聞くまで俺も他の世界がある事を知らなかったのだが、ネロがそれほど驚いていないことを見ると知っていたのかもしれない。


「なるほど、それでわらわ達に助っ人に向かえと」


「ああ、なんでもそこの敵対者に世界が奪われるとこちらの方にも侵略の手を伸ばす可能性が高いらしい」


「ふむ。穏やかではないな。ただ向こうに行けばわらわ達の権能は使えなくなる。そうなると自力の勝負になるということだろう」


「そうだ。どうする? ある意味で力が思う存分に振るえるこちらの世界で戦う方が利点は大きいぞ」


「そんなのつまらぬ。わらわが圧勝するに決まっているだろう」


 相変わらずの自信。だがあえて力を抑え戦い続けた事で、権能に頼らない戦闘技術そのものを高め合ってきた。おそらく神の権能を使わない勝負になれば俺かネロのどちらかが最強だろう。


「なら、決まりだな」


「ああ……」


 ネロがそう頷いた時に飛び込んでくる人影ならぬ狼影。


「今度こそ俺を連れて行って下さいネロ様」


 最近、ようやくリンガミルの万魔殿を単独攻略しネロから名前呼びを許されたデュランが大声をあげて懇願してくる。

 これでもリンガミルでは生きる伝説となった男なのだがネロの前では形無しだ。

 そんなデュランに気になって頼んでおいた事を尋ねる。


「ところでデュラン。孤児院は」


「勿論ちゃんと確認した。ニーナが亡くなった後も彼女の子供たちが商会と合わせて上手く切り盛りしているぞ」


「そうか子供達がか……」


 ニーナの子供達といっても血の繋がった子では無い。結局ニーナは生涯伴侶を持つことは無かった。

俺には、結婚して子供が生まれれば、孤児達よりそっちを優遇してしまうからと言っていたが、あの優しく微笑むようになったニーナなら、自分の子供と孤児の区別なく育てていたと思う。


「なに、あれはあれで幸せだったろうさ、よくニーナは言っていたぞ、血の繋がりだけが家族ではないと。だからこそ多くの子供達に慕われ、惜しまれながら見送られたのだろう」


「ああ、そうだな」


 ニーナが亡くなった時の事を思い出す。それはとても穏やかで笑っているようにも思えた。


「うむ。しかしクラリスも逝ってしまって、ゲイルが人間だった頃の縁が深い者は居なくなってしまったな……やはりこの世界を離れて、乗り込むのに良い機会かもしれぬな」 


 ネロの発言に何か言いたそうな視線を送るデュラン。言いたいことは分かるがあえて放置し俺はネロの言葉に乗る。


「ならばラー・ブレスカには要請を受諾すると伝えるぞ」


「んんっ、構わないがいつの間にラー・ブレスカと連絡出来るようになったんだ?」


「直接は俺も直接連絡してるわけでなくてな息子のラー・カイラルに仲介してもらっている」


 ラー・カイラルとは何度か会ってるうちにさらに親しくなり良好な関係を築けている。


「そうか、直ぐに向こう行けるよう、リンガミルには転移で飛ぶか?」


「なに受諾すれば向こうから使いを寄越すだろう。それまではのんびりと旅しながらリンガミルに向かえばいいさ」


「なるほどさすがゲイルだ。と言うことでデュラン。わらわはゆっくりとリンガミルに戻るゆえ、お前は先に戻って異界攻略の準備を進めろ」


「えっとネロ様。それはつまり……」


「喜べ、今回はお前も連れて行ってやる」


 ネロの発言に遠吠えをあげて喜びそうな勢いのデュラン。尻尾をブンブンと振りながら、一足先にリンガミルへと転移を使い戻って行く。


「なあ、良かったのか」


「まあ、一人でリンガミルの迷宮全てを攻略したのだろう。なら神格位を得ても大丈夫だろう。そこまで足手まといにはならぬさ……多分」


「おいおい、本当に大丈夫か?」


「なにわらわ達がついているのだから問題なかろう。この世界最強の二人『サードタイム』と共にすれば」


 ネロが俺達のパーティ名を口にする。

 いつの間にか俺たちに付いていた通り名だが、ネロが気に入り自分たちのパーティ名として使うようになった。


 実は俺もなんとなくだが気に入っている。

 偶然ながら俺とネロは、二度裏切られて、それでも出会ってしまった、三度目こそは裏切らない人と……そう運命の相手としての意味合いもあるからだ。


 それこそお互いに特殊な状況下だった。

 それでもいつの間にか惹かれ合い、信じ合う事が出来た。強い絆で結ばれる事が出来た。


 運命の神とやらはもう存在しないらしいが、この出会いが運命そのものだったと感謝したい。


 この出会いがなければ俺は自分の価値すら見いだせなかったのだ。


「ありがとなネロ。お前と出会えたことが俺にとっての何よりの幸運だった」


「急に何を言い出すのだ。ビックリするではないか……まったくお前はいつも……でも、その、わらわも同じだぞ、ゲイルに出会えたのはこの世界で一番の僥倖だ」

 

「ああ。ありがとう。嬉しいぞ」


 俺はそう言って優しくキスをする。

 いつまで経ってもうぶなネロはそれだけで顔を真っ赤にして少女のように取り乱す。


 そんなネロを落ち着かせるように優しく抱きしめながら、もう一度オデコにキスをする。

 途端に体から力が抜けふにゃふにゃと脱力したネロを抱えると、超一流の冒険者に相応しいロイヤルスィートのベッドへと誘う。

 潤った瞳で俺を見つめるネロを見つめ返しながら。

 心の中で思いを巡らせる。

 今後絶対にネロの顔を曇らせることの無いようにと。

 それこそ、どんな事が起きようが、


『四度目こそは裏切らない人と…………』


 なんて事にならないように。



【完】


――――――――――――――――――――

あとがき


最後まで読んで頂きありがとうございます。

評価をしていただいた方には感謝を。

コメント、誤字報告もありがとうございます。


試験的な意味合いも強い作品でしたが、予想以上にたくさんの方に読んで頂き嬉しく思います。


今回は一話、一話を短くした分

書き手としては書きやすかったですが、その分読者の方には負担を掛けてしまいました。

申し訳ありません。


相変わらず反省点は多いですが、これに懲りずに色々なお話を書き続けたいと思います。


あと最後のエピローグの順番は正直悩みました。

余韻を残すならクラリスの話で終わらせた方が良かったかなとは思ったのですが、やっぱりこの物語はゲイルのお話なので、最後は主人公でと言うことでご褒美的な意味合いも持たせました(笑)



あと、いつもながら最後まで読んでくださっている読者の方々には感謝しきれません。


改めて、お礼を申し上げます。


『ありがとうございました!』

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三度目こそは裏切らない人と……【完結済】 コアラvsラッコ @beeline-3taro

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