この物語は同じマンションの住人三人が、時同じくしてエレベーターに閉じ込められる場面から始まります。匣はエレベーターの常套句。ホラーとしての定番な舞台装置の認識で読み進めていくことでしょう。
しかし、その常識を打ち破るような状況変化、目を疑うような世界観がその先に待っています。この発想の転換が素晴らしく、それぞれの章立てに丁寧に組み込まれています。そのため移り変わる話の全容を理解しやすく、その美しい場面たるや、心情描写の数々がそれぞれのエピソードに映えるばかりでなく、最終章で上手く、短く、端的にまとめ上げられているため、未来志向でその先を追いたくなるような素晴らしい構成力を誇ります。
誰もが抱く後悔の念。そこから働く繊細な機微。それらを丁寧に紐解き、目の前の現実を見据える今の自分にとって、一体何が出来るのか。心を改め、想いを見つめ直す三人のドラマにご期待ください。