⨕∞⨕:日々是毎日ェ…(あるいは、昂がれども/燃ゆるとも/そらぁシビベもウナヴォルタ)
入院はしなくて済んだ。が、五か月ばかりが瞬で過ぎ去った。で、突然だが、会社を興している。
<おうおうおうおうオメ
ああまあまあ、おやっさんは相変わらずも相変わらずだなぁ。とは言え、我が社の超重要な現場監督だ。ようやく軌道に乗りつつあるこの仕事、悪ぃがもうちょいと頑張ってもらうほかは無ぇんで、そこはもう、ひとつ頼んますとしか言えんが。無論、一杯は奢らせてもらうが。勿論、本日の作業がハケたその後でのことだが。言葉の中身よりはやけに張りのある弾んだおやっさんのしゃがれ声の合間に、風の巻く音が聴こえる。
青々とした天の蓋。雲は右から左に刷いたように三筋四筋……陽の光は穏やかにもじりじりと、機体の表面の擦り切れてテカテカになった箇所のそこらここらで爆ぜている。春の足音、なんて言うとありきたりに過ぎる表現かも知れねえが、そうとしか言えないような、四方から押し寄せてくるような木々のひしめきのような、草花の芽吹きのような。地面からの息吹のような。
「……」
今まで人生の大半を過ごして来た
<
そんな中、通信機を通して響いてくるのは、いつも通りと言やあ言えばの、穏やかながら金切る、不思議な音色の声なのだが。
あの時。
場の最終局面、壮年
<ちょっとッ!? そこ明らかに一歩半分くらいズレてるんだわぁぁあッ!! ちょいちょいちょいちょぉいッ、曲がってんのはアンタの粗末棒だけに留めておいてほしい次第なんだけどぉぉおおッ!?>
うん……見知ったというか「共闘」した面子が、この雄大さの中に緻密さを縒り込んだような端正綺麗な「すり鉢状」へと現時点でつつがなく掘削が進んでいるこの「現場」にて散見されるのにはまあワケがあって。端的に言うと、黒い輩がいなくなったから、仕事が無くなった、ということらしい。それならそれで他の紛争地域とかに行ったり仮想敵でも見つけて何かやりゃあいいじゃあねえかと言ったものの、なんかなし崩し的に詰め寄られ、担ぎ上げられ、今に至る。
<しゃ、社長ッ!? あたしはただ作業効率を上げるためにの『注入』を
うん……喋らねえと作業出来ねぇのかな……ま、俺も独り言とか多くなってたけど、そんな他者に指向性の向いた言葉述べながらは、mm単位の細かい駆動は出来ねいぜぇ……
<社長は……社長って言いながらほとんど現場に出張ってますけど……それで心なしか私の側で
うん……まあこの三人娘は機体の取り回し方が長けてんだよなぁ……特に細かい作業においては。だからこその仕上げを任せてんだが、何しろ初めての「石質」、いや「砂質」と言った方がいいのか、未だその破砕とか摩砕の挙動が読めない「岩盤」のような奴が相手だ。何かあった時のために責任者たる俺が現場に陣取るのは普通だろ。と、
<私語ハ……慎ミナサイ?>
凄く凄い仄暗い地の底のような所から、こちらの足裏を共鳴させてきたのかと聞きまごうほどのそんな掠れ不気味声が響いてくる……瞬間、
はいィィィィッ!! ととても良い声でハモった三人がそれぞれの機体をこれまで以上に滑らかに迅速に動作させると、それぞれの持ち場の此処よりいちばん遠いと思しきところまで綺麗に散っていくのだが。俺の機体の左斜め背後辺りに差し込んで来る細い影。
<進行に遅延は見られないですけど……ようやく『第一層』という感じのところを終えただけ……これからはより細心の注意にて進行する必要があると思います>
うん……相変わらずだな。その沈着さ……ありがたいはありがたいんだが。
「……まあ『骨董品』にぶち当たるかもって話があるってこったろ? まぁ、あんだけもったりよったり自然対流する『沼』みたいに長年に渡って
一応俺も分かってますよ風を強調すべく、あえてのそんな説明を垂れ流す。「壮年」が霧散したのち、「沼」から「砂漠」みたいになっていた湖沿いの「黄色い一帯」は、何故だかはいまだに全く分かってないが、急速に「硬化」を始めた。見た目「砂」であるのに、それが生半可な力では崩れない。硬質岩盤にあたる時のように精密な掘削が必要で、それでようやく皮一枚くらいずつが削れていくってほどの厄介な硬度と性質の物体と化していたわけで。そんなわけで諸々は省くが、鉱石量の先が見えていた前の
いや、そんなことよりも、
「つうかお前さんこそ、こんな危ねえ現場に来てんじゃねえよ。それも
「そっち」の方がどう考えても細心さが必要だろうがよぉぉ……母体に何かあったらどうすんだっつうの。
<……自分の体の管理もちゃんと出来てますから平気です。おかげさまでつわりもここ二、三日くらいはそれほどでも無いし。少しは体を動かした方がいいってのもありますしね。ふふ……でもそうやって労わってくれるってのは嬉しいですよ?>
左方向の画面に映った、くふっと微笑をかましてきた小顔は、早くも母性が溢れんばかりに放射されて来ていて画面越しでも眩しいのだが。何だろう。ここ最近、今までとは別種の「強さ」「靭さ」みたいなのを備えてきたように思えて仕方が無ぇ。何か必死こいて光力を出し入れしながら戦っていた反動からか、あの後、俺の身体はすこぶる調子がよくなっていたのだよねぇ……自らが操っていた
そしてこいつもそうだが、最近俺は何かこう……周りの奴らの全部に全部、くるりと巻かれていってしまうような、そんなケツの坐りの悪いような感覚を受け止めることが多い気がする。不意に感じる寒気や強張りなんかは今は収まっているんだが、真綿で身体中の「首」と名が付く様々な箇所を擦られながら締め上げられているかのような……だが、
それもまた良い……
変な達観も、この頃よく脊髄辺りから脳の中心部位に向かって貫くような感じになって来ていた。まあなるようにしかならねぇ、そいつが真理というか、仕様の無い事と言うか。
人生は何が起こるか分からねえ。勿論目指すべき目標に向かって努力を積み上げ邁進する、それは良いことで正しいんだろうとは思うが。
……どうともならないことが体感七割くらいを占めてんのがこの、各々の人生とかいう奴なんじゃねえかと思い始めている。それで、ままならねえ同士が寄り添って、協力というか押し付け合いというかそんなあれこれをぐだぐだとやっていくのも、また悪くもなけりゃあ、間違ってもいねえんだろうとも思っている。
ともかく、
「さて、今日の作業をささと終わらせちまおうぜぇ、そんでもって今日も旬の肴で一杯、としけこもうやぁ」
そんな気勢の上がらない俺のスカスカな発破掛けに、気の無い返事がほうぼうから上がったところで、
「……」
何故だか腹の底からぼんぼこと湧いてくる笑いの奔流を、何とか鼻息を両の穴から間欠的にふんふんと発することでいなしていく。
今を生きる、ってそんな風に綺麗にまとめちまうには崇高でも高尚でも無い人生な気もするが、が、それでも、
確かに俺は俺の今を生きている、そんな気がしてならんわけで。
機体に指示を飛ばす。ぐり、と足元の「砂」を蹴って、階段状になったぐるりを回りつつ、現場全体が俯瞰できるとこまで俺とテッカイトは軽々とした跳躍を続けていく。視界に広がっていくのは黄色一色の、言うてみれば「黒の奴ら」の「記憶の墓場」。だがまあ、そいつからも何かを引き継いでいくぜ、貪欲によぉ。
生きるため、差し当たっては今日の糧のため、そして我が社の存続のため。そんなもんだよ人生は、俺だってさんざん搾取されてきたし、身に余るものを与えられてもきた。そしていつかは土に還って、はいおしまい。だからこそ、この一瞬も存分に生きてやるっつうわけだ。いつかの人生の締めへ向かって。いや、だが今日という日のシメもやらねばあかんめぇ……
意味不明の思考は、これは何者かに操られでもしてんのか? 分からねえが、悪くはねえ。最上段に上がる最後の一歩を殊更強く踏み込んで、とうっと跳躍。そして最高到達点にてこれでもかのキメ顔&キメポーズ。そして叫ぶ、腹からの、とてもいい声にて。
「……俺たちの人生はッ、っこれからだぜぇぁあああああああああッ!!」
――昂燃メモその31:説明しようッ!! 終わりよければ全て良しッ!! なのであるッ!!――
(終)
昂燃機⨕ダルイダー_(:eD∠. gaction9969 @gaction9969
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