⨕33:決着ェ…(あるいは、自明足るヴォルタ/誰かと誰かが/愛でったら愛は出るもんダーネー)
ごぅんごぅん、という音は、俺の身体の周りで巻いている空気の音なのか、耳奥で鳴り巻いている血液の流れ来る音なのか、それは判別できなかったものの。
場は最終局面、と言っても差支えねえんじゃねえか、いやまだ何かあんじゃねえのかというような詮無し事が、脳から伝導して額の皮膚にも熱を与えているかのようで。同時にふと、若かりし頃の記憶の断片らが、一時的に突き抜けんばかりの極度の爽快さによって外界に向けて全・神経が張り出していってんじゃね、くらいに
「沼」化していたそこら目の前一帯は、黄土色味を帯びた「砂丘」のような静なる佇まいに変化している。が、波打つ多量の水を湛えた結構大きな「湖」のそのすぐ隣に展開、というあまり見たことのない、何と言うか「乾・湿」の波が激しいというか、「黄・青」のハレーションが気障りと言うか、そんな形容しにくい居心地の悪さ、坐りの悪さ、のような感覚を見る者にもたらして来ているようで。
「……」
そこに佇む一体の白い「機体」。の形態をしたアレか、「岩石生命体」か。ご丁寧に我が
<まえっ!!>
いきなり来た。全身に漲る全能感に浸っていた俺を咎めるような鋭い声が一閃、鼓膜を貫いたかと思った瞬間には、自分の意思通りに動くようになっていた身体の末端、現況では左手中指薬指と右爪先、が不随意にびくついたかのような反射反応を見せると、機体は半身にさせて頭部と狙ってきていた野郎からの「白い光線」の通過点から何とかずらすことに成功してはいるのだが。
っぶねえ……ッ、「撃って」きやがったよ。撃つと言ったらぷひょぷひょ言いながら弧を描いて飛んでくる杭だとか楕円砲弾だとかしか知らなかったから、そんな直線的な軌道で結構な速度にて来る奴に面喰らっちまったよ、いや気をつけろ。野郎は野郎で「学習」の達人じゃあねえか。今やその記憶野は喪われてしまってんだろうがなんだ、身体に染みついた「自然に適応・応用」思考/志向はまだ完全に死んではいないと思った方が吉だぜ。ま全然、吉では無いんだが。
俺にとっての本当の吉は、頼れる仲間がいてくれる、その一点に尽きるだろーぜ、気を抜くな。成り行きで単独最前線で出張った感じだが、そいつが俺は最善と見てる。割と「現場」での取り回し方は心得ているという自負の一方で、やっぱ大局は見えてねえというかそこまで気にしちまうと逆に即応の対応が出来づらくなるから意図的に避けているまである長年に渡っての行き着いた結論の自己分析から鑑みるに、後方でいろいろ手厚くサポートしてくれた上である程度の権限裁量を持たせてくれて自由にやらせてくれる……そんな環境が
<気絶とか……してませんよね? ちゃんとやってください?>
身体が好調だと、思考もそんな風になっちまうのか、立てなくてもいい
「!!」
再びこちらに向けて放たれる、一筋の「白光線」。
<みぎっ!!>
あ、いや、徐々に修正してきていやがる……単調に「光線」を撃ちつつも、それによる俺の挙動を少しづつそれによって測っているってな感じだ……仮説→試行→フィードバック、物事の基本をきちんとなぞって来やがってんじゃねえかよ、だから気をつけろっつうの。いちいちてめえのデカい感情を絡ませて悦に入ってる場合じゃねええ……
彼我距離、四十m弱。「砂丘」の中央付近にぽつり佇む「白い」テッカイト型の身体は、その無作為な部位から次々とこちらに向けて「光線」を放ってきているわけだが、その度にその体の「白の明度」みたいなのは失われてきているように視認できる。現れた当初は見た目にはそこまで眩しさを呈してこなかったものの、そこに「何も無い」んじゃねえかほどに透明感すらもって光る「白色」だったはずだが、今やそれが少しづつ、掠れるように、砂嵐が入る画面のように、チラついて視えるようになっている。本当に、削ってんだろう、てめえに残る全てを。そうだろう、多かれ少なかれ、誰もが常に削ってるはずなんだろう。自分の時間を、自分の人生を、そう自分の生命をぉぉッ!!
<ななめひだりっ!!>
危なかった。的確な通信が無ければいくらこの全能状態の俺でも
それでも。
自分にて考え、行動する、そこには間違えを挟む余地は無いはずだ。そして法や自社規範、依頼者や社会の要請に従いつつも、己の思考と志向を以ってして、正しいと思える道を切り開き歩んで行くが、真の、真の
<外角から手元に食い込む
危なかった。が、大丈夫だぜ、ナディルカ。
……野郎の適宜修正してくる軌道をも先読みにて見切り、一歩一歩悠長ながらも確実な歩様でッ!! 射程距離に入るそのギリの境界線まで、間合いを詰めていってんだからよぉぉ……
機体を掠める「白光線」。
「光力ッ……全開……ッ!!」
いま一度、
「……」
眼前まで迫ってきていた
……全てを問答無用に取り込んで、その借り物を組み合わせて作れば。何でも出来る。何でも生み出せる。そう、「たったひとつの意識」のままで、意のままに、何にでも適応でき、何ものも恐れずに君臨できる、最適な「進化」をその場その場で遂げられるんだろう。最強の個体。神か? そんなんはよぅ……?
間違っては無いんだろう。間違っては無かったんだろう。だが。
残念だが共存は出来なさそうだぜ。
とんでもなく面倒くさくて鬱陶しくて、嫌で憎くてイラついて無駄に傷つけ合って。
……それでもどうしようもないほど愛おしいんだろう。
「……」
おっとぉ……達観思考は止まらねえなぁ。ま、ま、大上段に振りかぶっちゃあいるが、要はこれも俺のエゴ。何十年と鉱掘場の暗い坑道の中でずっとずっと煮詰め溜め込んでいた。そう、あの出土した榴弾型の「
無駄ではなかった。無駄にはならなかった。そうだぜ無意味に思えた諸々も、今この場に立つための布石だったんだ……っていうのは流石に後付け過ぎるか? でもよぉ、そうだったしてもそうじゃなかったとしても、俺は俺で俺の今できることを粛々とやるまでだぜ。
ほぼ零距離。ここまで肉迫すると連発されてくる「白光線」に、我が
「……」
肝心なとこだけ残っていりゃあ万事無問題だ。俺は極めて自然に、既にその右手に握り込んでいた
「……ッ!! ……ッ!!」
テッカイトの形をした白色野郎の眉間(多分)目掛けて、いつもと同じ感じで突き当てていくわけで。
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