⨕32:開眼ェ…(あるいは、SHOw取りオプス/彼岸悲願も現世まで)
生身ではありえないほどの「上空」を飛んでいるとそう自覚できる、そして速度も高度も方向も自分の思うにままならない歯がゆさも有していることからそういった「夢」なんだろうなという実感もある、そんな爽快感ともったりしたまどろみが共存するといった、極限まで身体が疲労した時に陥る、金縛り一歩手前の状態に今自分があるということだけを、脳がじわりじわと認識しつつある……
「……」
いや、内に内に、とか意識を向けている場合じゃあねえ。てめえだけじゃなく大事な
意識が戻ってきた。そして、あ、いや
恐る恐る目線を上げてみると、お互い装着していたはずの黒細板は衝撃で上側に外れ飛んでいたため横たわっての上から目線の素の目と目がかっきり合った。ことを視認した。のですかさず峰打ちでござる、との極めて殊勝なる言の葉と共にそそくさとその場を辞そうとした俺だが、いつの間にか腰回りに回されたしなやかな両脚のロックにより離れることが出来ない。
「
ゴツツ、と機体が何か硬いものに当たった感触があった。正気に返って、いやそうだぜ、ことここに至って
ズルルルズコッと機体が何かに擦られる感触と共に、全身を覆っていたに違いない質量があるのか無いのか分からない「砂粒子」みたいのがざらり流れ落ちる感覚も受け取っている。聴こえていたのは「
「……」
湧き上がる歓声の中、復帰した通信窓が細い視界の右隅に開くと、珍しく安堵し弛緩した表情を見せる、端正な男前顔と向き合うのだが。
<オッイェ~、お楽しみ中のところ申し訳ありませんでしたが、一旦昇天の際に
うん……社会的制裁はこれからだと思うがまずは命あっての物種、素直に感謝する他はありようもないものだね……というスカスカする空気のような返答が口を突くが、とにかく本当に感謝しかねぇ……再び目線を下げてみると、呆れも交えた柔らかな微苦笑顔と目と目が合う。思わず同じような
だがまだ、嫌な予感というのは拭えてはいない。先ほど沼の奥底で
「……」
しかして、意外なほどに静かな対峙となった。先ほどまで俺らを呑み込もうとしてた「沼」の、その全土の「粒子の濁流」のような動きは今や鳴りを潜めていて、砂漠のような砂丘のような、無機質極まる光景が視界半分を覆うくらいだった。その先に、
「……こうまで思い通りにならないと、かえってすがすがしい気分にもなろうというものだね……」
不気味に落ち着いた壮年声。相変わらずの芝居がかった物言いであったものの、そこには今までに無かった諦観だとか達観だとかに分類されるニュアンスがまぶされているような気がした。こいつらに感情があるのかは未だに判らなかったが、何らかの情動のようなものは流れているんだろう、それが俺らとは違って、電気信号の類いじゃあなくて別の「粒子」の流れだってだけなんだろう。その肚の中に呑まれたからか、そんな納得感みたいなものが俺の腹の底にもすとんと落ちてきたようにも思えた。が、その上でまだ何か未練たらしくやろうってことかよ。尻を地べたにつけたままだった機体をそろりそろりと自分の呼吸も整えながら膝立ち、そしてゆっくりっと立ち上がらせる。このくらいの速度の挙動であれば、精一杯の深呼吸をしながら光力を紡いでいけば何とか動かせることは把握できた。そしてそれと共に全身に感じるようになっていた「違和感」についても徐々に把握はすることは出来ていた。
目の前。「画面」を通して視えるのは、「砂丘」の中心にずぞぞと現れたるかっちりとした人影。その体高は目測だがおよそ十mほど。最初に「巨大化」カマしてきた時と同じくらいの巨人度だ。だがその
「……!?」
白い、真っ白い、光を全て反射しているのかと思うくらいの現実味の無い、発光しているのかと思えるほどの完全な「白色」を呈してくるその異様な質感を持った「巨人」は、張り出した肩部、長大な両腕部、そして猫背/ガニ股/真ったいら
「『記憶粒』は……いくつかの箇所が乱れ混じってしまったようだ……それだけなんだが、それだけで最早ほぼ全てが役に立たない
そしてその白テッカイトから流れてくるひび割れた音声は、その物言いだけは
「『光力』……それが未知、それが正解、だったのかも知れんな……『ケイ素』『炭素』『鉄』……『鉱物』『金属』……『無機』『有機』……選択肢は様々、無限に近いほどあったが……それを取捨していくには、遥かに試行の時間も回数も足らなかったと、そういうわケカ……」
断末魔直前の、悪あがき
「……もう何モ理解モ把握も出来ナいが……『光力』とやらだけは最後に『試行』ヲしておきタい……貴様ラで、ナ……」
へいへい、そう来るんだろう予感はその姿で現出した時から消臭できてねえほどに感じられたぜ。そういう
「オメロさんッ!?」
ナディルカの驚きの声を背中に受けながら、俺はもう行動を開始している。球形操縦席の非常用脱出口開閉ボタンのようなものの位置は先ほど見つけていた。真上の天井に当たるだろうところに黄黒の枠で区切られたその赤色の四角い突起物を、立ち上がり軽く上に跳躍して押し込む。プシューギコ、というような重い金属音と共に、球体の前面が真一文字に割れると瞼を開いたかのような隙間が開いた。その上瞼下辺りを両手で掴むと、躊躇せずに身体を振って両脚を突き入れていく。うん、身体がやっぱり自在に動くようになってるぜぇ……ずっと首肩腰を中心に重質液体を満タン注入させられていたような、カラダが今軽い……
興奮と高揚感で熱が回っていた時とはまた違う、突き抜けるような「何も無さ」だ……何の障害も無く、身体が動かせる感覚……久しく忘れていたその感触に俺は今、静かなる感動を覚えている……
身体を操縦席の隙間から外へ滑り出させた瞬間に、腕と脚で反動をつけて上空へ。鮮やかな後方二回宙返りをカマしたところで、割れ砕かれていたテッカイト側の操縦席へとぴたり着到する。おうおう、やっぱここが俺にはしっくり居心地がいいぜ。玉葱状の
オメロさん、何を? ……と
「……」
あれやこれやの
「光力デ……キサマラを……斬り裂」
まだ何か言ってくるヤロウの音声を遮って、
「おーおー、さんざか勝手やってくれて最後にゃあ
俺は俺でちょいと古めの芝居がかりな
「引導をッ!! 渡してやんぜぇぁああああッ!!」
決着を、つけるッ!!
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