⨕31:清冽ェ…(あるいは、清廉/それは/キミが見た陰∽陽の遅延さ)

 機体テッカイトの内部に組み込まれるようにして「格納」された機体ノガシター……二身一体ニコイチとなったこの究極機体ダルイダーからは何か、途轍もない力を感じるのは気のせいだろうか……


 その腹腔内にいくつも設置された受け口ジャックは、既にノガシター下部と接続が為されている底面の極太いやつの他にも幾つか点在する。それぞれ機体各所の動力やらを上げるため「後から増設」を可能とした順応適性フレキシボゥなる設計思想に裏打ちされた機構なのだがそれが今、役に立った……若僧くん発案だったかと思うが、こうまで見越していたのかどうなんだろうな……とにかく、四肢稼働へと個別につながるジャックへと、それぞれに対応する姐ちゃん機の四肢を「繋ぐ」ことを促し試みる。


「ちょいと無理な姿勢になっちまうが、ケツをぺたり着けたまま、正座みてえな形で両脚を斜め後方に向けるような感じだな。そこの爪先辺りに『脚部』と直結するジャックがあるはずだ。両手は水平方向、その機体を腰から背筋から思い切り伸ばせばちょうど『腕部』に連なるやつに届くはず」


 頭ん中で両機の体長などを計算してイメージしながらそう指示を出していく。うん、両腕を左右で拘束されてお姉坐りのまま拷問だの凌辱だのを待つ態勢スタィルと言えなくもねえが、これが最適……それよりも俺の腹上で機体ノガシターに動作を促すために開脚拘束というそれ以上のなまめかしさをもって蠢く操縦者の方が気になるのだが。俺の下っ腹の上に熱を帯びた箇所が心地よい体重と共に遠慮なく乗せられておる……が、そんな俺の霧散しがちな意識と裏腹に、姐ちゃんナディルカの操縦は的確であり、ぴたり四か所、その四肢がテッカイトのジャックそれぞれに嵌まったことを脊髄で感知した。これで、動く。内部機ノガシターを経由して確かに外部機テッカイトにその挙動が伝わっているのを感じるぜ。一体感……そうだ正に一体となったこれこそが究極ダルイダーってわけだぜ……


 わけの分からん昂揚感に支配されている場合でもねえ。同じく接続を確信しただろう腹上の小顔から、目顔にて頷かれる。ぶっつけの方法は、一体となったこの機体を、俺とナディルカが呼吸を合わせて残るわずかな光力を細心の注意をもって紡いでいかなけりゃあならねえ。行くぜ……と黒細板越しに視線を交わらせたらちょっとびっくりしたような顔をされたが次の瞬間、いつものきりとした表情に改まった。よし、と思いまずは両脚に稼働を……とか思った、その、


 刹那、だった……


「……マダここニ、読み取らセナい『異物』がイタかぁ……ドウなってイるんだァ……? 何故ココまで呑み込マレて何事モ無ぃぃいイイ? やハリ、それモまた『光力』ト、そうイうわけナノかぃぃイイイ?」


 頭の中に不快に響き渡るのは、もはや音声とも認識することは難しかったが、その言葉繰りで何とか「壮年」であろうことは分かった。いや、壮年それも多分に含んだ、何十あるいは何百くらいの「意識」の塊みてえな得体の知れない何かのように感じ取れた。やっぱ嗅ぎつけてきやがったか。ま、このまま何とも無しにいけるとは当然思っちゃあいなかったぜ。どのみち決着はつけなきゃなんねえんだ。それも込みでカマしてやる。


「……さぁ~なぁ~? お前さんの大好きな『学習』とやらを駆使してもピンとは来てねえんだったら俺らにもさっぱりだわなぁ~。ひとつだけ言えんのは、そいつを今からお前さんにぶちかましてやるっつうことだけだけどよぉ~」


 「黒細板」を通しての視界やや奥。「粒子」がまたぞわぞわといった感じで集まったと思うや、そこにもはや見慣れた第一壮年のツラ。そういうカタ構成しつくらねえとこっちに「言葉」も放ってはこれないってわけか? でもそのバタ臭いツラァ、もぁう食傷気味なんだよなぁぁああ……


 寝そべった姿勢のまま、砂と重油を詰めたような己の両腕を何とかほんの少しずつ上げていく。と、上に乗ったナディルカの両脛、いや両ふくらはぎ辺りにようやく指が届いた。この脚の角度とか動きとかで機体を制動するとか言ってたよな……直感操作になっちまうが、もうここまで来たらそれが最適解な気もしている。正にのてさぐり状態にてその薄いつるつるとした防護スーツにぴたりと包まれた流麗曲線をまさぐりつつ、それと連動しているであろうノガシターの、さらには外側のテッカイトの挙動を探り探り確かめていく。


 あっ、ちょダメぇ……と腹上でややそのしなやかな身体を一瞬硬直させたものの、意図は伝わった模様だ。緩やかな動きであったものの、確かに機体ダルイダーは上半身をナディルカ、下半身を俺、にそれぞれ操られながらギシリと鈍い音を立てつつ、「構え」の態勢へと移行シフトしていく。


「ははァ……そンナ風なコトも可能なんダねェ……いヤはヤ、十全に対応を考えテ『いざ』トいうヨウな感じダッタんだが……成程マダまダ奥は深イ。まあソレでコそ『学習』もまタ捗るってナもンさァ……」


 相変わらずの壮年じみた物言いだが、はっきりこりゃあ俺らを意識してらっしゃいますなあ……興味のないことを殊更に撒き散らしてくるってのはその逆が真、って本人以外にはバレバレの挙作ムーヴなんだわ。最後の最後に精神的にも優位に立てたと実感できて良かったぜ。んでもって、


 こっから、で最後にしてやる。


「……ッ!!」


 阿吽以上の呼吸感。俺が機体に「左脚を十一時方向に踏み込ませると共に、右脚は一拍遅れで真後ろに引く」という動作を促すのとほぼ同時に、ナディルカは「右腰後ろにぶら下げていた掘削機ドリッラーを右手でホルダーから抜き取り、その流れのままで人差し指一本で安全装置ロックを跳ね上げ解除、その勢いで後ろ手に回した左掌に逆手になるようパスして左手はその把手を掴んだ瞬間、左側から弧を描くようにして野郎の顔面をなぎ払うようにして同時に稼働ON」。高速回転を始める先っぽの駆動体には既に姐ちゃん発の「藍色光力」が「帯状」に纏わせてあるっつう寸法よぉ、これにて、


「!!」


 巻き込むようにしてシェイクして、吸い込むようにして叩き洗いして、その「粒」ひとつひとつが担っているんだろう「学習記憶」を全部、ぜぇ~んぶまっさらな状態に戻してやんぜぇぁッ!!


 白い光を背景バックに虚空に浮かんだ壮年の顔。その右こめかみ辺りをはするようにして超光速回転する「藍色」の駆動体がなぎ払う。周囲に浮遊する「粒子」ごと、巻き付けるようにして巻き込むそばから周囲へと吐き散らしていくそれは、吸引力を変えることなく、俺らの視界を左から右へと疾駆した。


「ゴォァッ!?」


 勿論それと共に壮年顔もその髪型オールバックのところだけ綺麗に切り取るようにして両断している。それだけで致命とは思っちゃあいないが、まあまあビビらせられたよなぁ……エネルギー残量、おそらくあと9ペルノサント。今ので牽制がなったんなら幸甚よぉ、ほんとの決着はこの「沼」から出てから存分にやってやっから……


 そこのけで行かせてもらうぜぇ?


「経路オールグリーン、これより当機は両操縦者の光力を『交雑ハイブリッド』させ、両機体の接続部位よりそれを『相互交換クロスブリード』することにより、微小な光力を最大限の推進力へと変換する『ハイクロスブリッダー理論』に基づく脱出作戦へと移行する。二人の呼吸、そして二体の同期シンクロがmm単位にて必須となるので心してくれ。まずは陰と陽、体位ポジショォンはこのままで問題ないので、互いの足首を互いの手で握るような形で『循環体勢』を形成する、よいか」「ちょ、ちょっと待ってくださいっ? 私がのけぞるような体勢になってオメロさんの腰を両脚で挟むような感じになっていますが!? これって大丈夫なんですかッ?」「シグナルオールグリーン、身体の力を抜いて光力を『お互いの身体を行ったり来たりするよう』にイメージするんだ……ゆっくり、そしてそれが呼吸をするが如く、それが自然であるかのように……」「達観したかのような物言いとは真逆に下部から突き上げてくるような圧を感じるのですがッ!? というか何でつなぎの前が全御開帳フルオープンしてるんですッ? オメロさんとこの分身体ツハイダーさんが隙間から御登場こんにちはしてきているようですがッ!?」「光力授受に伴う副作用みたいなものだ、全く問題は無いッ!! むしろ五つ目の『循環口』として機能するまであァるッ!! しかるにもっと腰を落とし、上から圧迫するように体重を預けてそいつをきちりと抑え込んでおくんだ!! 逆に暴れ出したら万が一があるッ!! 気をつけろッ!!」「き、気をつけるも何もさっきから稼働と共に高周波を伴う超震動ヴァイブスが接触面から絶え間なく響いてきちゃってやばいっていうか、あと『副作用』って何か私も手足の指先から蕩けるように痺れが来ちゃってるっていうか」「『藍色』と『桃色』、相対する『光力』は決して混ざり合うことは無いが、逆にそれでいいんだぜ……『自分は自分、他人ヒト他人ヒト』、馴れ合い染まり合うわけじゃあなく、お互いを認めつつ、時に協力して時に反発し合って自分自身をそれぞれ高め合っていく……それこそがこれからの新時代このみらいって奴なんだぜ……ッ!!」「いいこと言ってる風で下世話を押し切ろうとする挙作ムーヴ……オメロさんが中年色の吐気ハきに包まれていってる……ッ?」


 互いの認識は成った(はず)。そしてそれに伴って光力の流れもごくごく自然に対流するようになってきたじゃねえか。平常心、そいつがいつだって重要よぉ、エネルギー充填率問題なし、射出角度良し、準備万端、万事ヨシ!だぜぇぁあああ……いくぞッ!!


「本時刻を以って本作戦を以降、『時雨茶沢臼一しぐちゃざわきゅういち作戦』、古き衆国の言葉にて『PROJECTプロジェクツKIJ ØWYケーワイ』と呼称するッ!! 発射五秒前!! 総員耐震動ショック耐昇天防御ッ!!」


 ええェ……という声が上から漏れて来るものの、滞りは無い模様だ、いける……自身の身体にも力を込めた、その、


 刹那、だった……


「……ッ!!」


 揺さぶる衝撃。が、操縦席を貫く。壮年ヤロウか、だろうな……機体ダルイダーの態勢は前方に二歩、たたらを踏まされちまった感じだ。が、続けざまに何発も、なりふり構わずめったやたらに「粒子塊」が背面だけでなく様々な角度から撃ち込まれてきやがる……野郎なめんなよ……ッ!!


「ナディルカ、緊急事態だ、『時雨茶沢伸一しんいち(次男)作戦』へと移行するッ!!」「しょ、初出の固有単語をさも共有のように言い放ってくる……ッ!! え、えと何? です?」「俺に覆いかぶさるようにして両手は俺の肩脇に突き、俺の股の間に両脚を伸ばして入り込めッ!! 接触面を増やして流量サイクルを稼ぐッ!!」「え、これもう完全にダメですよね、ほんのわずかな操作ミスで入っちゃいます!! つるっといっちゃいますから!!」「これに賭けるしかねえんだ……大丈夫、お前とお前の防護スーツの防御性能に賭けろ……ッ!!」「えぇ他力……そ、それにこのスーツの厚さは0.01mmメリリオン、スムースな装着を促す潤滑剤が全面に塗布されているため対侵入はともかく対挿入はむしろ受容カモンなとこが……」


 困難は百も承知だぜ、だがもう行くしかねえ、ねえんだッ!!


「……」


 揺れる実視界の中、ひと動作ごとに痛む両腕を伸ばし、腹上の細い肩を掴む。上気させた小顔の中で少し尖らせられる桃色の唇。それごと華奢な身体を引き寄せた。覚悟を決めたか、身体を合わせ、最適な体勢へと移行してくるその重みと体温を感じながら、今度こそ、とカウントを取ろうとする。が、その、


 刹那、だった……


 上下動および横揺れにだけ気を取られていた。それがいけなかった。激しい前後動。それに対応できなかった腹上の身体は一瞬、俺の身体の上を頭上方向へと滑り昇り、気筒先端点Kてんを超えてしまってからは逆揺れに振られると、元の位置まで勢いよく戻されてしまったわけで。


「「あ」」


 瞬間、極限まで圧縮された二人の光力は、藍色と桃色の二重螺旋を描く軌道にて増幅され、機体ダルイダーの重量を物ともしないほどの爆発力をもってして、遥か上方へと、俺らの意識ごと、


「……!!」


 吹っ飛ばしていったわけで。

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