セックスしないと出られない因習村殺人事件〜人外青年座敷牢編〜

あるいは曖昧模糊とした働く車の冒険譚


 俺は鈴木一郎。カクヨムのBL小説の登場人物で攻めである。俺は地の文が読めるタイプの登場人物なので攻めの自覚もあるし、なんならタイトルも読める。つまりこれから先の展開もある程度メタ読みできる。多分これから人が死ぬし、俺の行先にはまだ見ぬ俺の受けがいるのだろう。楽しみだなぁ。

 プワープワーと適当にクラクションを鳴らしながら険しい山道を自動車で走らせていく。どんな色の車だとか細かい車種だとか、そういうのは今これを読んでくれている君である読者がパッと自動車と言われて脳裏に思い付いたやつ、そう、それだよ、それが正解。俺はそれに乗っている。別に俺は自分がどんな車に乗ってたってかまいやしないんだ。君がいいなと思うやつに決めてくれよ。

 兎に角、バイクでも自転車でも徒歩でもないってことが肝心。だってこれから出る予定の受けを乗せて帰ってやらないといけないからな。二人で乗って逃げられるなら別にカローラだろうがコンバインだろうがバゲットホイールエクスカベーターだろうがなんだっていいんだよ。舞台が因習村なんだから逃亡するシーンが出てくるのは必然だからな。

 まあ、そうやって適当に険しい山道を意味もなくクラクション鳴らしながら走ってたわけだよ。誰もいないクソ田舎の山道だからクラクションを鳴らしたくなる。これで俺の稚気みたいなところも読んでる読者はなんとなく察するだろう。道交法クソ喰らえだぜ。俺は大人げがないタイプの攻めなのだ。プワープワー。

 そんなこんなでなんらかの車種を走らせているうちにクッソ寂れた集落を見つけた。出た出た。やっぱタイトルに因習村ってついてるだけあるな、出ると思った。とりあえず侵入してみないことには話が進まないし受けにも出逢えないというものだぜ。コインパーキングとか多分ないだろうし、適当にある、ちょっとなんらかの車種を止められそうな場所にコイツを置いておく。どのくらいの広さの場所かも読者である君が想像して決めたやつでいい。でもバゲットホイールエクスカベーターに乗ってる派の人は、ちょっと心持ち広めのスペースを想定しておいてくれよな。じゃないと俺の愛車を停められないぜ。

 さて、集落だ。古びた看板が立ててある。…ックス…ない…出……ない村。所々文字が霞んでいて読めないがどうもそう読める。俺は考える。例え俺がタイトルと地の文が読めようとここで安易に「ここはセックスしないと出られない因習村なんだなぁ」とか思い込むと大変なことが起きてしまうかもしれない。だってもしかしたら「エックスしないと出られない村」とかかもしれない。元ツイッターのアカウントを所持してない者にめちゃくちゃ厳しい因習村の可能性を否定してはいけない。常に最悪の事態を想像すべきなのだ。

 俺は思慮深く、そろっと集落に忍び込んだ。そこら辺で村人達がセックスしまくっとる。ワォワォ。盛り上がってる最中の人にちょっと話しかけてみよう。


「こんにちは〜!」

「あっ見たことない顔。余所者だ!!」

「どうも村人ですセックスしてまーす」

「なんでここの人達はこんなにそこら辺でセックスしてるんですか?!なんかの祭りですか?!」


 因習村と来たら祭りだ。そして祭りの童歌になぞらえて人が殺される。そうに決まってる。真実はいつもひとつ。


「いやいや!そんな祭りなんて大層な!セックスしないと村から出られないもんでリモートワークにできない村民はみんな日常的にそこらでセックスしとるんですわい」

「せやせや」

「なるほどなぁ」

 

 謎は全てとけた!ここで繰り広げられてるのはハレの日のセックスではなくケのセックスなわけね。そしてエックスしないと出られない村の線は消えた。


「お前さんの探しとる座敷牢のある屋敷は北に25歩、東に39歩行ったところにあるよ」

「なんて親切な村人達なんだ。ありがとう」


 きっとタイトルが読めるタイプの村人達なのだろう。話が早くて助かるなぁ。


「なんなら地の文も読めるよ」


 地の文も読めるのか。まあ、そういう村人がいておかしいという理屈は別にないよな。うんうん。

 俺はテクテクと進んだ。屋敷が見えてきたので多分、北に25歩、東に39歩ほど移動したのだろう。こういう場合の何歩とかいうのは普通にテクテクと歩いた場合の何歩ではなく、もっと別の基準となんらかの原則に基づいた距離の判定が為されているのだがここでは詳しくは説明しない。

 屋敷の中に入ってみる。村長的な存在がメイドさん的な存在にお尻を弄りまわされて大変気分がよさそうにしていた。


「こんにちは!余所者です!」

「やあ余所者こんにちは。私は村長だよ」

「やっぱり!村長さんも出勤のためにセックスしているんですか?」

「バカを言うんじゃないよ君!私はリモートワークだし、そういう強制力とかではなく、自分の自由意志でセックスしとるのだ!!」

「なるほどなぁ。リモートワーク中にセックスしていいのか?」

「セックスは自由でないといかんのだ……だというのにこの村と来たら……!不自由なセックスが蔓延ってるのは許せない!!こんなクソ村爆破しちゃおかな」

「村長の言うことじゃねえだろ」

「まあ、そんなわけで私は現状の村に不満がある。よって余所者の君に、うちの座敷牢の中で村にセックスしないと出られなくなる呪いをかけとる人外を連れ出して欲しいんだわ」

「ははーん、ソイツが俺の受けってことね」

「ご明察」


 この村長もタイトルが読めるタイプの村長だったか。話が早くて助かるなぁ。


「なんなら地の文も読めるよ」


 地の文も読めるのか。まあ、そういうタイプの村長がいておかしいという理屈は別にないよな。うんうん。

 許可も出たことだし座敷牢に行こう。……着いた!どういう道順で行ったとかはマジで俺は全然重視してないので読者である君が想像したやつが正解ってことでいいぜ。

 そこには人外の青年がいた。ワォワォ!美形である。いっそ紙のようですらある血の気を感じさせない青白い肌。口元は強く引き結ばれている。耳はやたら長く、そして先端は刃物の鋒を連想させられるような尖り方をしている。額から生えている二本の角は不吉なほどに禍々しく黒い。常人ならば白いはずの白目も、その青年のものは丑の刻の夜空のような昏い色を静かにたたえている。それでいて瞳は燃えるように紅く、こちらを見据えて、俺が来たのを見てニィッと笑った。そのとき慎ましやかな唇の隙間から肉食の獣のような尖った歯が垣間見えたので、もうすっかり俺は骨抜きになってしまった。すっごい好みの見た目。もうこの見た目は外せない。愛車は適当なものを想像しててくれて構わないけど受けの容姿だけは描写されてることが絶対。間違っても普通の白目だったりとか角が生えてなかったりだとかで想像されては困るのだ。頼むよ!


「どうもこんにちは、余所者」

「こんにちは!俺は君の攻めの鈴木一郎です。いや、よく考えたら俺の名前とか割とどうでもいいな……車種くらいどうでもいいわ……好きに呼んでください!!」

「ふーん、じゃあ攻めでいいや」

「はい!!俺は攻めです!!」

「ぼくはここを出て村長を惨たらしく殺してそれで恨みを手打ちにしようと思っているのだけれど」

「いいね!」

「この座敷牢はセックスしないと出られないんだよね」

「よっしゃ!じゃあセックスしようぜ」


 そんなわけでセックスした。受けはめちゃくちゃかわいかったのでハッピーだぜ。不自由なセックスがなんだ!でも次にセックスするときは自由意志でやりたいね。

 座敷牢を出て、さあ村長を惨たらしく殺そうか〜と戻ったらもう死んでた。童歌に見立てられ、お尻の穴にカエンタケを突っ込まれて死んでいた。これは殺人事件だ!


「犯人は……貴方だ!メイドさん!!」

「はい、私が犯人です」

「やっぱりね〜」


 どうも探偵が来ていたらしい。近くに助手も見えるぞ。多分別の物語の登場人物なのだろう。あちらの地の文とタイトルは読めないので詳しくはわからないが。


「これで事件は解決したので探偵と助手の私でセックスしてこの村を出て話はオチがつくね!」

「ごめん!その呪いかけてた人外、さっき解放したからこの村もうセックスしないと出られない因習村じゃないんだわ」

「そ、そんなことって……」

「なんてことしやがる!!」


 バチギレした探偵と助手がロケットランチャーを担いで俺らに攻撃してきた。息ピッタリである。でも俺達はこの作品の主人公なのでこういう場面であっさり被弾して死ぬとかそういうことにはならない。なんらかの、詳細不明の愛車に乗って逃げる。流れ弾が通りすがりの村人達に向かってあたりはもうめちゃくちゃだ。クラクションを鳴らす。プワープワー。

 やっぱ不自由な強要されるセックスの状況が必要とされる場合もあるけどそれに頼り切ってたら人類ダメになるなぁ。


「で、受けよ。お前の復讐の対象の村長はもう死んでたがいいのか?」

「よくはないけど、まあ、村が滅びちゃったしもういいよ。クソ因習村爆発しろ」

「間違いない」

「なんならタイトルの時点で『殺人事件ってことは人が死ぬ理由は怪異じゃないってことだからぼくは関与できないな』と思ってたくらいだし」


 この受けもタイトルが読めるタイプの受けだったか。話が早くて助かるなぁ。


「なんなら地の文も読めるよ」


 地の文も読めるのか。まあ、そういうタイプの受けがいておかしいという理屈は別にないが……


「じゃあ俺が受けの容姿に色々思ってるのも」

「全部お見通しです」

「そ、そっかぁ……なんか恥ずかしいなぁ……」

「熱烈だね」


 と、いうわけでここで『それから二人は幸せに暮しました』と付け加えておく。地の文は絶対で、こう書いておけばこれからの俺達のハッピーライフは完全保証されたも同然なのだ。

 めでたしめでたし。

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