解けない魔法を教えて

ゴオルド

魔法の言葉をお母さんに

 5時間目は道徳の時間でした。

 田川くんが教科書の朗読をすることになりました。


 私は5時間目はいつも眠くなってしまうので、田川くんのTシャツに書かれた英語はどんな意味なんだろうって考えることで、寝ないように頑張りました。oftenと書いてあります。オフテン?……オフトン……お布団? アルファベットは習ったけれど、英語の意味はよくわかりません。


「たかし君とそうたろう君は、友だちです。

 そうたろう君は、いつもたかし君を「チビ、チビ」と言ってからかいます。

 もちろんふざけているだけなので、悪気はありません。

 でも、たかし君はチビだと言われるのが嫌でした。

 たかし君はどうしたらいいでしょうか?」


 先生は、みんなで考えてみよう、と言いました。


 生徒がそれぞれ心の内側で静かに考えた後、先生が生徒に考えを発表させる時間になりました。私は自分に自信がないし、みんなの前で意見を言うなんて嫌だから、肩を丸めて小さくなって息を殺していたのに指名されてしまいました。

 私は早口で、

「たかし君は、背を伸ばしたらいいと思います」と言いました。


 クラスの皆が笑って、「たかし君は牛乳を飲め」「ねえ、セノビックって知ってる?」などと雑談を始めたので、先生が静かにしなさいと言いました。

 どうやら私の答えは不正解のようです。間違ったことを言ってしまった自分はなんて馬鹿なんだろうと思って、恥ずかしくなりました。

 ほかには、「そうたろう君にもチビって言ってやるといい」とか「そうたろう君のパパに言いつける」とか意見が出たけれど、どれも先生ののぞむ答えではないようです。


「じゃあ、先生の意見を言うね。たかし君は、お話をしたらいいんじゃないかな。チビって言われたくないよ、やめてよって、そうたろう君に言ってみたらどうでしょうか」

 みんなは「なーんだ、そんなことか」とガッカリしたように言いました。「当たり前すぎてつまんない」と言う子もいました。

 先生は軽く笑ったあと、こう続けました。

「やめては魔法の言葉です。嫌なことをされたら、意地悪をやり返すのではなく、やめてって言いましょう。また、お友だちがやめてって言ったら、やめようね。「やめて」は、みんなが喧嘩せずに笑顔になれる魔法の言葉なのです」

 みんなは先生の話を聞き流しているようでした。でも、私は魔法の言葉を教わって、とても嬉しい気持ちでした。



 走って家に帰ると、私はお母さんに「やめて」って言ってみました。

 お母さんはいつも私をブスって言うから、「やめて、ブスって言わないで」って言ってみました。

 お母さんは、かさかさに乾いてひび割れた唇をぐにょっと曲げて笑いました。

「あんたが美人になればいいだけじゃん」

「……でも、学校の先生がね……」

「はあ?」

 魔法の言葉なんだって……。

「また学校でろくでもないこと習ってきたの。さっさと忘れな、そんなの」

 魔法、だから、きっと……。


 きっと……。


(この魔法はあと十秒で解けます。)


<完>

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解けない魔法を教えて ゴオルド @hasupalen

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