戦いの後

「どうして!」

 負けが確定した瞬間、修斗は強くこぶしを握り締めた。

「あんなミス、おれがするはず……!」

「――――ふは」

 幹人は静かに笑った。そこに煽りの念は籠っておらず、シンプルな笑いだった。

「お前さ、今まで1/60秒の世界で戦ったことないだろ」

「……難易度MAXのCPUでもそこまでは求められなかったから」

 幹人は大きく頷いた。そしてコントローラを床に置く。

「お前はその圧倒的なセンスで俺の世界についてきた。凄まじいよ。でもな、俺の世界についてくるってことは――――所詮、俺の世界の住人ってことなんだよ」

「どういう――」

「攻防を重ねることで、1/60

「――は?」

「俺の中には絶対的な1/60秒がある。だがお前にはない。だから、俺の方で徐々にずらしたんだよ。最後の攻防の時、お前は0.9/60秒のタイミングで入力を行った。だから入力が受け付けられなかった」

 後ろで聞いていた寿人は、二人が何を言っているのか全く分からなかった。しかし修斗には伝わったようだった。

 悔しさを顔に浮かべる。


「……でも、負けは負けか」

 負けたら二度とスタブラをしない。この戦いはそういう約束だった。


「ありがとうございました。……おれはあなたが嫌いだけど、今日は楽しかったです。もう二度とスタブラができないんで、あなたと会うことはないでしょうけど」

 修斗が言うと、幹彦は少しだけ俯いて、ぽつりと言った。

「――――それは、嫌だな」

「え?」

「いや、約束は約束だ」

 幹彦の胸には生まれて初めて覚えた高揚感が残っていた。

 馬鹿ばっかりの環境で、生まれて初めて、もっと遊びたいと思った。

 こいつとなら、もっと楽しい遊びができる。

 ――――だから。

 彼の口から、言葉が自然に零れていた。


「俺が禁止したのは『大乱戦! スタイリッシュブラスターズ』だ。来年出る予定の新作、『大乱戦! スタイリッシュブラスターズ=クロス』に関しては言及してねえ」

「それって……」

「また俺と遊べ、



 この先二人は、永遠のライバルとして何度も戦うこととなる。

 彼らが伝説の日本人ゲーマーコンビとなり、世界中を熱狂させるのは、もう少し先の話だ。

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3.2.1..STYLISH!!! 姫路 りしゅう @uselesstimegs

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