第16話 番外編 義弟と親友

「ねえ。皐月に話があるんだけど。」


あずみの改まった顔に、私も真面目な口調になった。


「なあに?何でも言って?」


「アタシも五代君とサシで話してみたいんだけど、いいかな?お願い!」


「え?・・・うん。全然いいけど。どうしたの?」


まさか・・・あずみも廉が好きで・・・


「もしかして廉に告白したい・・・とか?」


「んーまあ告白と言えば告白かな?でも付き合って欲しいとかじゃないよ?」


私はあずみにだけは隠し事してはならないと思い、正直に打ち明けた。


「あのね、あずみ・・・私、実は廉と・・その・・・」


「付き合ってるんデショ?」


あずみがあっけらかんと言ったので、私は目を丸くした。


「どうして・・・?」


「アタシは皐月のことずっと近くで見て来たんだよ?それくらいわかる。」


「あずみ・・・」


「だから五代君に皐月のことよろしくって言いたいの。」


「うん。わかった。廉に話をつけておくね。」


義弟で恋人である廉と親友のあずみ。


私の一番近くにいるふたりなのに、今まで交わることがなかったのは何故だろう?


多少の不安はあるけれど、きっとふたり仲良くなれるに違いない。


私は廉に、放課後屋上で待っているから、来て欲しいとLINEした。






私とあずみが屋上へ行くと、もう廉は柵にもたれて待っていた。


廉は私の後ろにいるあずみを認めると、眉をひそめた。


「あんた・・・いつも教室で皐月と一緒にいる・・・」


「あずみです。ヨロシク!」


あずみが右手を差し出し、廉も仕方なくという風に右手を出してふたりは握手した。


「皐月。アタシ、五代君とふたりきりで話したいの。いい?」


「え・・・?」


私が廉の顔を見上げると、廉も大きく頷いた。


「俺もあんたとは話してみたいと思ってた。」


「じゃ、決まり。皐月は教室で待っていて。」


「あ・・・うん。」


私は仲間外れってわけか。


あずみは廉になんの話があるんだろう・・・?


そんな疑問を持ちつつも、私はふたりの元から退散した。






「さてと。」


俺はいつも皐月のそばにいる「あずみ」に声を掛けた。


「俺の義姉、皐月がいつも世話になってるみたいで。ありがとう・・・というのも変だけどな。」


「こちらこそ、アタシの親友皐月がお世話になってるワ。」


「で?なにが言いたいんだ?」


俺は不敵に笑みを浮かべる目の前の男をじっとみつめてその名を呼んだ。




安住恭二郎あずみきょうじろう




「あら。フルネーム知っててくれたんだ。ウレシイ!」


「いい加減、そのわざとらしい話し方やめろ。俺の目は誤魔化せないからな。」


「なんのこと?」


「お前、そのキャラ、フェイクだろ?」


「・・・・・・。」


「皐月のそばにいたいからなんだろ?皐月、男が苦手だもんな。でもお前のオネエキャラなら、皐月も心を開いてそばにいてくれる・・・そう思ったんだろ?」


「そうだけど?」


安住は俺の言葉にあっけなく頷いた。


「でも安心しろよ。お前、皐月と付き合ってんだろ?その仲を引き裂くような真似をするなんて一切考えてないからさ。俺は皐月が幸せならそれでいい。」


男言葉に戻った安住は、そう言ってにやりと笑みを浮かべた。


そして俺の肩を叩くと、その柔らかな笑みを引っ込め、厳しい表情でおれを睨みつけた。


「けどさ。お前、女どもにモテモテだろ?」


「知らねーよ。アイツらが勝手に騒いでるだけだろ。」


「もし皐月以外の女となにかあったり、皐月を泣かせるようなことがあったら、容赦しないから。それだけは覚えといて。」


「余計なお世話だ。俺が好きなのは皐月だけだから。」


「そっ!その言葉が聞きたかっただけ。」


「・・・・・・。」


「皐月は優しいからいつも自分を抑えて周りに合わせてしまう。両親の離婚のときだってそう。自分が一番悲しいくせに、家族のバランスを崩さないようにって心を砕いて・・・。」


「・・・・・・。」


「皐月を頼んだ。」


安住の言葉に俺も真面目に答えた。


「・・・了解。」


俺の言葉を聞いた安住は親指を立てると、背中を向けて屋上の出口へと向かって行った。


そして扉を開けると、振り向きざまに言った。


「でもアタシ、皐月の親友を降りるわけじゃないから。一生皐月の親友で居続けるから。これからはアタシとも恋人のように仲良くしましょ!オトウト君」


そして今度こそ、扉の向こうへ消えていった。


俺は大きく息を吐き、つぶやいた。


「マジかよ・・・」


そしてフッと笑う。


「ま、俺はオマエなんかに負けねーけどな。皐月は一生俺のもんだから。」







fin





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

義弟の恋人 ふちたきなこ @ayakoya223

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ