第11話 カオスデート ⑤ 〜一難去って、また混沌〜




   ◇◇◇◇◇



 ――渋川区民図書館





「……エ、“エリーゼ・ラファエット・天城(あまぎ)”……。蓮華女子の2年C組。きゅ、弓道部です。アイスランド人の父と日本人のママ、いや、母ですけど……え、英語は喋れません。北海道生まれ旭山育ち、この春、東京に越してきました。あっ、えとえと……英語は喋れません……」


「…………」


「…………」


「…………」


「えと……、自己紹介がまだだったかな……って……、ス、ストーカーではなくてですね……。あ、いや。よくよく考えればそうなんですけど……」


「…………」


「……あの、清明(せいめい)君に助けてもらってですね……あの、その……。も、もしかしてご迷惑でしたか……? 隣に居させてくれてると思って、その……、楽しくて、嬉しくて……その……」


「…………」


「い、いま、顔見えないので、何を言いたいのかわからなくて……。あっ、ふ、普段はちゃんと表情から色々わかるんですけど……。ちょっと、あの……ごめんなさい……。今は恥ずかしすぎて……」




 消えたと思っていた美女が、綺麗な瞳を真っ赤にして帰ってきたと思ったら、突然の自己紹介だ。


(……え、英語は喋れないんだ……)


 なぜか2回言った情報しか脳が処理してくれない。なぜなら脳の9.8割は一つのものに支配されている……から。



(かぁあわいすぎんだろぉおおおおお!!!!)



 うるうるの紺碧の瞳で“えとえと”って言いながら必死な感じが堪らなく可愛い。うん。“可愛い”がすぎる。






 生者確定からのストーカー?

 詐欺とか宗教じゃなくてよかったねぇ……。




 じゃ、ねぇえええ!! 待て待て、何がどうなってる? ある日急に現れて、ガラガラの電車で横に座られて……幽霊かと思ってたらストーカー?!


 俺の《完全無視》の表情から何を言いたいのかわかるって? わかってるわけねぇだろ! ずっとナムナム言ってたわ!!


 “助けた”? なにを? どうやって!?

 こんな美女を助けて忘れるわけないだろ!?


 妄想に妄想を重ねて、もう2、3人くらい子供出来てる幸せな未来を築き上げてるに決まってる!!


 何がどうなってこうなった!!

 今更、自己紹介なんかしやがって。


 こっちがどれだけの覚悟でこの2ヶ月弱を生活してきたと思ってる!? 枕元の下には「遺書」が……。


 って……、こんな事じゃない。

 冷静になれ、俺。

 俺が恨みつらみを垂れ流してどうする?


 

「……えっと……あの……」



 目の前にはじわじわと泣き始めそうな美女がいる。

 彼女はこの世界に確かに存在していて、息をしている。



 もうそれだけでいいじゃない。可愛んだもの。



 『生者』ならウェルカァアムッ!

 待たせたな、青春。初めまして、リア充への扉。

 俺は多分、彼女ができる!!


 こんなクッソ可愛い彼女がッ!!



 長い長い脳内会議を繰り広げた俺は、『生者であるならオールオッケー』の結論を出し、現実に帰ってきたのだが……、




「……清明(せいめい)君……。嫌いって言わないで……。怖いって思わないで……。私、ちょっと抜けてて、周りに合わせられなくて……友達も少なくて……うぅぅ……」



 うん。ゲ、ゲロ可愛い……。可愛すぎて吐きそうだ。



「でも、でも……、頑張りたくて……。なんか順番が……変だけど……その……あの……よろしくです……」




 スッ……




 “美女幽霊”……もとい、“エリーゼさん”は震える手を差し出して来た。今にも泣き出しそうな瞳にはタプタプと涙が溜まっていく。




 スッ……




 俺は否応なく思考回路を破壊され、導かれるようにその手を取った。エリーゼさんはハッと顔を上げると、「うっ、ううっ」と口をへの字にして顔を真っ赤にする。



「……清明(せいめい)君……」


「……清明(きよあき)です……」


「……ふぇ?」



 俺はこんなに可愛い「ふぇ?」があるのかと白目を剥いた。初めての会話が「清明(きよあき)です」なんて、超控えめなツッコミになるとは夢にも思ってなかった。


 思考回路にはバグが大量発生しているのも原因だとは思うが、エリーゼさんの柔らかくて少し熱い手の感触は必然的に脳裏に刻みこまれる。



 おそらく勘違いに勘違いを重ね、俺ではない誰かに助けられたんだろうが……、コレはもう言わなくていい……? 言わなくていいよな! ごめん! ごめんな、本来出会うはずだった人!



 だって、可愛いがすぎるんですもの!!



「……清明(きよあき)君……。えへへ。ごめんなさい……栞に書いてた名前でセイメイ君かと思っちゃって……」


「…………え、いや、別に。好きに呼んでくれれば……」


「……うぅっ、嬉しい! ちゃんと喋ってくれて!」


「…………」

(かぁあわいすぎんだろぉおおお!!)



 俺は心の中とは対照的にクールを装った。


 エリーゼさんの中にある「俺」を崩すわけにはいかないのだ。この美女ともっとお近づきになるために、俺はめちゃくちゃカッコをつけるんだ。


 無口なイケメンキャラになりきるしかない。

 それだけが、この甘い時間を少しでも長くする。


 エリーゼさん。悪夢から醒めないでくれ。

 俺よ……。夢なら醒めないでくれ。



 グゥウ〜……



「……!!!!」


「…………」


「あっ、え、えとえと……あ、安心したらお腹空いちゃいました……。う、うぅ……恥ずかしいので……見ないで……下さいッ……」



 お腹を鳴らせて耳まで真っ赤にするエリーゼさんは顔を伏せて、両手でお腹を抑えた。幽霊の時は怖すぎた白すぎる肌。


 実体だとわかると、紅潮がなんとまあよく映えるか……。



「……もう13時すぎですからね」



 俺は必死にクールを装いながら、あまりの可愛さに(グッハッ!!)と60000のダメージを受けて吐血寸前だったのだが……、




「何、鼻の下を伸ばしてるの……?」




 エリーゼさんの背後に立っているチィに声をかけられる。



「……!!??」

「キー君の……ばか」



 無言の俺に対して、唇を尖らせて眉を下げているチィ。顔を赤くして今にも泣き出しそうだが、正直、意味がわからない。



「……“きよあき君”……ううん。“セイメイ君”でいいかな?」


「……はい」


「キー君にこんな可愛い子は変!! 絶対騙されてる!」


「じゃあ……セイメイ君! えとえと……、い、一緒に食事に行っては貰えませんか……?」


「……はい」


「だぁぁめぇええええ!!!!」



「えへへッ……」

「……」

「むぅ〜……!!」



 嬉しそうに頬を染めてハニカんでいるエリーゼさんの至近距離で頬を膨らませて睨んでいるチィ。



(えっと、なんだこのカオスな修羅場は……?)



 人生で初めてのデート。

 まだ整理しきれていない“初デート”。

 遺書しか準備していない“初デート”。


 非モテの根暗オタクには、1人霊体が混じっているというハードモード突入に、顔を引き攣らせることしかできなかった。







 

  ※※※※※【あとがき】※※※※※




ついに生者確定。

清明の変人ぶりからの、修羅場ww


コメント、本当に感謝!!

フォロー、☆、♡で応援して下さった皆様はもちろん、読み進めて下さっている皆様も本当にありがとうございます。


少しでも、「面白い!」「霊体混じりの修羅場w」と思って頂けましたら、フォローや☆、コメントで応援して下されば幸いです。


とりあえず、書き溜めがなくなったので泣きそうです。少し更新を止めて10万文字分書いてから投稿しようか悩み中です。(かなりいいところで申し訳ないですが……)


兎にも角にも、今後ともどうぞよろしくお願いします!

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痴漢から救われたと勘違いしたハーフ美女×幽霊だと信じ込んで無視を決め込む男のラブコメがホラーではなくコメディだった件 @raysilve

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