プリンセスメゾン

 何年か前に読んだ漫画だけど、最近また読み返している。読むと気持ちがとても落ち着く。わたしは不安になりやすいので、こういう漫画や小説を常備薬のようにたくさん集めた方がいいと思う。


 主人公は、自分ひとりが住むためのマンションを買うことを目標にしている20代の女性。居酒屋で働いていて、いちおう正社員だけど給料は少ない。お金をためるために、小さくて粗末なアパートで節約生活を送っている。最初の方の回では友だちもいない。家と仕事先の往復で毎日が過ぎ、休みの日はカップルや家族連れに混じってマンション見学をしては、自分がいつか買うマンションの構想を立てている。


 恐ろしく孤独な女性だ。物語が進むにつれて、親しく話せる人は何人か現れるが、それでも孤独であることは変わらない。誰にも心を開かないというのではない。お互いの人生を尊重しているから、影で相手のことを想ったり応援したりすることはあっても、相手の人生に踏み込んでいったりはしないのだ。列車でたまたま乗り合わせた人同士のように、短い間だけ親密さが生まれても、やがて別れてしまうことをどこかで予感している。


 しかしこの女性が特別なのではなく、子どもでなければ誰だって孤独なのだとも言える。孤独になるのが怖くていつも誰かと一緒にいようとする人だって、夜眠るときはひとりで夢を見なければならない。死ぬときは、ひとりで死んでいかなければならない。


 しかしいったん受け入れてしまえば、孤独は必ずしも耐えがたいものではない。孤独な日々にも美しいものを見つけることはできるし、人々の優しさに触れることはできる。ときどき孤独に胸が締め付けられるようなことがあるとしても、それは、自分の人生を生きている証拠なのだ。そのことをこの漫画は教えてくれる。


 マンションは主人公にとって、自身の孤独の象徴だ。自分のマンションに住むことで、日々の生活に小さな幸福が生まれる。しかしひとりぼっちであることには変わりない。だとしても、その孤独は自分で選んだものだ。


 最後に、マンションを購入した後の主人公の台詞を引用。途中で『あの子は…』と出てくるのは、母親がそういうことを言うんじゃないのか、と主人公が想像した台詞。母親は、主人公がまだ子どものころに亡くなっている。


「家はやっぱり家でしかないし 家があれば幸せで安心ってこともないし、どこにいたってくり返されるのは同じ毎日だし、見える景色が変わったって 私の人生が変わったわけじゃないし、『あの子は一人であんなに突っぱって 寂しく生きてないだろうか』って、きっと心配してるよ。それでも これは私の人生だから。」

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