第2話
木戸は駅前で借りたレンタカーを大きな家の前まで走らせた。静かな場所で、聞こえるのは虫と野鳥の声だけ。車から出た二人は門扉の前に立ち、表札に刻まれた乾の字を見た。
「すいません。乾さんいらっしゃいますか」
木戸が一つ声をかけると家の奥の方から「はーい」と高い声が聞こえた。姿を見せたのは割烹着姿の妙齢の女性だった。
「あら木戸さん、お久しぶりです。今日は取材にいらしたんですか」
「ええ。ですけど、私ではなく、彼が」
僕は女性に会釈する。
「初めまして。現在ヒーローのブルーを担当しています、青山です」
すると女性は目を丸くし、あたふたしはじめた。
「あらま、今の英雄さんですか。まあ、どうしたら。ちょっとお待ちくださいね」
そのまま玄関の奥に姿を消す。間延びした時間も束の間、玄関から声が聞こえる。
「どうぞ、先にお座敷にお上がりになっていてください」
「わかりました」とそそくさと屋敷に入っていく木戸に従い、僕も渋々お邪魔した。
定位置らしき場所に木戸は座り、僕はその横に座った。立派な木目の机に、床間には素朴な表具の掛け軸と細い花瓶が一つ。そこにはささやかな花がいけられていた。
僕が目でそれらを追っていると、座敷の襖が開き、女性に支えられた老婆が姿を見せた。そのままゆらりと歩き、床間を背にした場所に座る。若い頃の写真を見たことあるが、きっとそうに違いない。八十年前の黄色、つまり元イエローだった。
「木戸さんはご存知かもですが、乾は少し記憶がぼんやりとしております。ご了承ください」
「わかりました」
女性は去り、座敷には三人が残された。
「どうも初めまして。乾です」
木戸は一礼するだけで、特に反応はしなかった。
「初めまして。今ヒ……英雄をしています青山です。八十年前の火の怪獣について聞きたいことがあって来ました。まずは……」
「ええ、いいですよ。何でも聞いてくださいな」
柔らかな口調で乾は言った。僕は木戸の顔を見る。木戸は手で「どうぞ」と一つ促した。僕は少し頷いて、ようやく口を開いた。
駅を通り過ぎた僕らは、隣町のとある一軒家の前に車を止めた。先ほどとは打って変わって西洋づくりの小さな家だった。
木戸がインターホンを押すと、玄関から一人の青年が姿を見せた。
「いらっしゃい、木戸さん。と、もうひと方」
「初めまして。現在ヒーローのブルーをしてます、青山です」
「今日は彼が八十年前の話をしたいということで伺ったのですが……」
木戸がそう言うと、しばらくの沈黙が続いた。ピンと張り詰めた空気に、途端に気が重くなる。と思ったのも束の間、青年はケラケラと笑い始めた。
「八十年前ですか! これまた木戸さん、無理なことは承知の上でしょうけども。ですけどそういうことならぜひ会ってってください。親父も喜ぶでしょう」
頭を下げられた僕は少しバツが悪くなって、こちらこそと深々頭を下げた。木戸はこくりと頷き青年についていく。僕も自身の情けなさを自覚しながら慌ててついていった。
安楽椅子に揺られる老翁は、庭を背に、逆光で見えた。黒い影は細く、かつての赤色、レッドであったとはとても思えない。老翁の近くに寄った木戸は膝を立て、呼びかけた。
「こんにちは桜田さん。木戸です。木戸弦一郎です」
桜田と呼ばれた老翁は首を少し傾け木戸を見た。すると、思いの外大きな声で話し始めた。
「ああ、木戸君。元気してたか」
「ええ、元気でしたよ。桜田さんもお変わりないようで」
「ああ。俺も変わらんよ。今日はなんだ」
僕は木戸の隣に急いで駆けつけ、膝を立てた。
「は、初めまして。今、英雄をしてます、青山と申します。八十年前の火の怪獣についてお聞きしたいことがありまして」
しかし桜田は話を聞いている様子ではなかった。いや、それは考えすぎだろうか。現に木戸の話は聞いていたのだから。
「あの、英雄してます、青山……」
ゆっくりと言い直そうとしたときだった。桜田の細い腕がゆっくり持ち上がり、僕の肩に優しく乗った。怖気付いた僕は、身を固める。
「若いの。おまえが英雄か」
深くシワの刻まれた瞼からは黄色い目がのぞいていた。僕はふと、目を背ける。顔を上げると、その目は再び庭を眺めていた。
「ああ、テレビ実況の時間だ。青山君、見てくか」
「ぜ、ぜひ。僕もスポーツは好きですので」
「それにしても意外でした。あそこまで熱狂的になるなんて」
「桜田さんは昔からああでね。特にプロレスが好きだった」
帰って来た頃にはすっかり日が沈んでいた。ロータリーのタクシーを一つ取ると、木戸は市内を走らせる。車窓から見えるのはマンションや商業施設の灯り。その中に一際背の高いマンションが鎮座していた。
最後に来たのはそのマンションだった。オートロックの開錠を頼むと、声の主は二つ返事で了承する。
「こんないいところ、初めてです」
「ほう、ヒーローでも来ないかね」
「ヒーローを何だと思ってるんですか。地道な現場のお仕事ですよ」
そうしている間にもエレベーターは上昇していく。麗しい音色と共に扉が開き、一歩を踏み出すと宙に浮いたようだった。カーペット敷きの廊下も初めてだった。
木戸は廊下を向こうへ、向こうへと歩いていった。突き当たると、その部屋のインターホンを押す。鍵の開く音がし、扉が開く。
「すいません日比谷さん、夜分遅くに」
「いいよ、よくきてくれた木戸君。それと、君が青山君だね」
姿を見せたのは、皺の入ったワイシャツを着た男性だった。僕は一礼すると、木戸と共にリビングへ案内される。角部屋ということもあり、壁二面の夜景が見渡せた。遠くに山がある光景は絶景だった。
僕はしばらく見惚れていたが、反射するインテリアに違和感を覚えた。ソファの皮は剥がれていて、机は軽い安物。植物や小物などの飾り物もなく、インテリアの数も少ない。
日比谷は書斎に閉じこもっていたが、しばらくすると大量の書類を抱えて出て来た。二人の前の机にどんと置くと、どこか優柔不断なままソファに座る。
「えっと、何から伝えればいいか。まず、僕は記憶がどんどんなくなっている、それは知ってるね」
日比谷はそう捲し上げた。
「はい。可能であればでいいのですが、八十年前のことについて……」
「ああ、それは後で。まず、この資料に目を通してくれ」
「わ、わかりました」
僕はしばらく資料を見ていた。現れるのは日比谷自身の戦ってきた怪獣のデータだった。どこが弱点だとか、どんな攻撃をしてくるかとか、あるいはどう他のヒーローを助けるかとか、ありとあらゆる情報がのっている。それもどこか実況中継じみた文章は読み物としても面白いものだった。
「この書き方……」
そう一人ごちると、日比谷はそれを聞いていたらしい。笑みを浮かべて頭を掻く。
「その時々で何を考えていたとか、何を学習して行動したのかとか、そうしたことを書き出すほうがわかりやすいと思ってね」
「ですけど、あの、八十年前の記録は……」
日比谷はため息をつき頭を掻いた。
「そう。これを書き始めたにはここ数ヶ月の話でね。でも所々思い出せない記憶があって。それがすごい気掛かりで気掛かりで。現に君の役に立てていないだろう? 八十年前の怪獣の話もできない」
俯いたまま話す日比谷に対し、僕は語気を強めて言った。
「そんなことありません。例え八十年前の記憶を忘れていても、それ以降の記憶があるのなら僕も何とかできると思います。一抹の不安は残りますが……」
「そう、その不安が僕の場合、やけに増幅されていく気がするんだ。もしかして、これから記憶が消えていくことへの不安と混同しているのかもしれない。何にせよ、僕は不甲斐ないよ。実践的に見られたら少しは思い出せるかもしれないが、僕はもう英雄じゃない。今の青色は君だ」
「日比谷さん」
木戸は日比谷の手を止めた。掻きむしった髪には白いフケが絡まっている。
「失礼ですが、青山君は優秀ですよ。まだ中学生ですが立派に怪獣を退治している。それもただ一人で。日比谷さんが危惧するような大きな失敗はしないと思います」
日比谷は手を膝に置き、俯いたままだった。
「それに、今日この資料を見せてもらいました。数々の失敗も頭に叩き込みましたし。なので、多分、大丈夫です」
日比谷は外を眺めていた。僕はなぜ日比谷がこのマンションに住んでいるのか、薄々わかり始めていた。八十年前の長野の山脈、かつての朧げな戦地の記憶が、日比谷を山の見えるこの場に固執させていた。
僕は日比谷の『実践的に』という言葉が引っかかった。
「木戸さん。もしかしたら日比谷さんにもご協力いただけるかもしれません」
「……どういうことかね」
僕は少し、背筋を正す。
「オペレーター、こちら脊型の資料になります。ブルーにも伝えておきましたが、念のため」
「ありがとう。現場の準備は」
「全て完了とのことです」
「わかった。ところであちらのお三方は」
振り返ると司令室の一角に三人の老人が座っていた。久しぶりの再会を懐かしみあっているようだったが、オペレーターには面識がない。
「は。あちらは元ヒーローの乾さま、桜田さま、日比谷さまです。何でも八十年前、脊型との戦闘をご経験のようで」
「それは心強い。もしかして、ブルーの情報?」
職員はこくりと頷く。
オペレーターは髪をかきあげ、一つにまとめた。インカムを装着してブルーとの通信を繋ぐ。
「ブルー、準備はどうですか」
「身体は万端、知識は実地で」
「ブルーなら余裕でしょう。それよりも、あのお三方は」
「ああ、彼らは元ヒーローです。八十年前のことはあまり覚えていないようなので、こうやって実践的に感じてもらおうと思いまして」
ブルーがそういうと、大モニターに航空ヘリからの景色が映った。改めて脊型の全貌を見たが、その大きさには呆れるばかりだ。
例の三人は画面を見つめていた。その目つきは本部にいる人間のそれとは違う。
「三人に変化があれば逐一伝えてもらいたいのですが、いいですか」
「……わかりました。お伝えします」
時計を見ると、時間は出現時刻の一分前を指していた。オペレーターは伸びをし、ブルーに告げる。
「後一分で出現予定時刻です。覚悟を」
「了解」
ブルーは一つ、深い呼吸をする。緑の木々が茂る夏日。僕は胸のボタンを押した。
「こちら長野県蓼科山付近です。いよいよ世紀の大怪獣が全貌を見せる時刻になりました。ただいまブルーが巨大化し、槍を手に怪獣を待ち受けています。残り一分です。残り一分で出現します」
地を揺らし森を焼くその大怪獣は辺り一体の山を掘り起こしながら、いよいよ身をよじりはじめた。右へ左へと揺れるたびに地震地割れ土砂崩れが起こり、避難区画一帯は混ぜ合わされるようにして砕け散る。
土煙が一帯を覆い、シェルターや要塞で待ち構える地上部隊は目を隠された。故に全貌を表し天を衝いた怪獣を見たのは、本部のモニターとブルーだけ。本部の人間は血相を変え、八十年前の記事を見る。
「は、話と違うぞ。どうしてあんなに、巨大なんだ……」
土煙の中から姿を見せた脊型は予想の大きさを遥かに上回っていた。黒い体表は溶岩が固着したもので、隙間隙間から溶岩が噴き出ている。鋭く尖った脊椎が等間隔に伸び、赤々と怪しい光を放っていた。その姿を見て冷静でいたのは、ブルーとオペレーター、そしてモニターを見ていた三人の老人だけだった。
「これを想定していなかった。地上部隊は即座に避難を……」
すると、司令室に響く声があった。オペレーターが振り返ると、桜田が形相を変え、机に身を乗り出している。
「ああ! あいつは山火事の……」
「桜田さん。何か……」
オペレーターが口を挟む間もなく桜田は叫び始める。握り拳を振り上げ、唾を飛ばす。
「まず体力、体力を削れ。フック、フック、アッパー!」
「ブルー、桜田さんが体力を削れと。フックフック、アッパーです」
「へっ? なんですか」
ブルーの運動神経はたかが知れていた。大体格闘はブルーの仕事ではなく、本来ならばレッドやイエローの仕事である。それは日比谷にもよくわかっていた。
「青山君、槍、槍で。えっと、鱗の対処法……」
日比谷が唸るさまをオペレーターは報告する。そうだ、別に体力を削るだけなら格闘でなくてもいい。遠くから槍で、鱗の間のマグマ噴出口を狙うが最善だ。
腹の噴出口を思い切り突く。周りの鱗にヒビが入り、ドッとマグマか血液かわからぬ液体が噴き出した。だが怪獣はびくともしない。槍の先端は溶け、ただの筒を持ったブルーはジリジリと後退する。
「エレキテルベンダ、エレキテルベンダ……」
「乾さんが何か……!」
ブルーはどこかでその言葉を聞いた気がした。だが、それどころではない。上体を傾けた怪獣は手を出し、こちらに襲いかかってきた。ブルーは怪獣の手を、肘を支点に押し返す。手のひらが熱い。ジリジリと焼けている。
「ああ、火を吹くぞ! かわせ、かわせ」
「無理! 無理!」
のしかかられたブルーの眼前で怪獣は大きく口を開けた。ギラギラと光るアギト、あるいは燃えるような赤色をした舌根あたりから、ぐつぐつと煮えたぎる音がする。
「青山君! 尾骶骨を押して……」
言われるがままに押すとお腹がムズムズしだした。やがて喉元をなにかが迫り上がる感覚と共に口から大量の水を吐く。ああ気分が悪い。こんな機能があったなんて知らなかった。知りたくもなかった。やがて倦怠感が訪れる。
「日比谷さん、一体……」
「ああ、水分補給して。さもないと厳しい」
口内に水を注がれた怪獣はまさかまさかの攻撃にたじろぐ。その上空を今が好機と給水ヘリが飛び回る。
「ブルー、給水ヘリが間もなく」
ヘリは一機ずつブルーの口元にやってきた。しかし怪獣が手を大きく振るせいで近づけない。オペレーターは無線を飛ばす。
「防御壁!」
要塞に構えていた部隊は巨大な網を切った。繊維があたりに散らばり、怪獣の足元を防御壁がグンと押し上げる。足を押し上げられた怪獣はわずかに姿勢を崩す。
「ヘリ、位置良し!」
ヘリは次々に脱出した。ブルーの口には水を大量に積んだブルーシートが吸い込まれていく。ヘリは上昇気流に揺られながらも遠くまで飛んでいった。それを見届けたブルーは、怪獣を見据える。
「フック、フック、アッパー」とさっきから聞こえる。これは桜田の声だろうか。僕は覚悟を決めた。動きならこっちの方が早い。僕は拳を回して撃った。が、ここは山脈、足が地を掴めずに腰が入らない。その間にも怪獣の攻撃が皮膚に刺さり、裂く。
「発破――!」
オペレーターの声と共に要塞とシェルターからミサイルが放たれた。鱗の隙間隙間に入り込み各々爆発する。怪獣は身悶えし、ブルーは再起した。今なら……。
フックが入る。起伏激しい山脈の地盤を足で掴み、拳を振るう。二発目も入る。最後にアッパー。拳を天に突き上げると、怪獣の脳は揺れ、転倒した。
「今! 馬乗り!」
僕は怪獣に乗った。またぐらが焼ける。僕は尾骶骨を押しゲロゲロと水を吐きながら、怪獣を殴りつける。が、怪獣は内燃機関を、より一層燃やし始めた。蒸気が熱い。水分不足の僕は意識を朦朧とさせ、怪獣に押し除けられてしまう。
「ブルー!」
「東へ、東……」
「ブルー! 乾さんが東へと!」
僕はオペレーター、もとい乾の指示に従うことにした。僕は心身ともに満身創痍の中、東へ東へと歩を進めていく。ただ、このまま進めば戦闘区域から出てしまう。出てはいけない。
火を吐き、ツメを向ける怪獣と一進一退の攻防を続ける。ついに東京の街が見えるところまで来た。寸前で踏みとどまり、息を吸う怪獣に相対する。
僕は怪獣の火を手で防いだ。スーツは溶け手の甲が爛れるが、それを掻い潜って怪獣の腹に飛びついた。しかし重たい。地面に食い込んだ分厚い脚が転倒を難なく防いでいる。
「赤い建物、その下にエレキテルベンダ……」
僕は東京の街を見た。遥か遠くに見えるのは鮮やかに色づいた東京タワー。僕は一度手放してしまった棒を取り、東京タワーに引っ掛けた。鉄筋の組み込みに引っかかる。がしかし、持ち上がらない。地面にしっかりと接着されているようだ。
僕は怪獣に押されながら棒を持ち、その先端に重たいものを引っ掛けている。戦闘中の体勢としては最悪で、ジリ貧であることは目に見えている。棒は上がらない。水も出せない。怪獣に潰されることを覚悟した、そのときだった。
ずるりとした感覚と共に棒が持ち上がった。外れた棒は怪獣の上に落ち、何事かと怪獣は空を見た。青空の中に落下してくるのは、黒い鞭のようなものだった。
鞭は怪獣の背に触れると、瞬間、黄色い閃光を走らせて爆発した。怪獣は悶えて、後ずさる。僕は起き上がり、東京タワーを握りしめ、そこから伸びる鞭を見た。
「エレキテル鞭打か」
僕は鞭を振るう。怪獣に当たるたびに爆発し、怪獣の鱗がみるみる剥がれていく。三度四度繰り返しているうちに、燃える腹に丸い怪獣の核が現れた。僕は棒を拾い、核に突き立て、テコの原理で踏ん張った。溶ける棒をなんのこれしきと押し込む。怪獣は悲鳴を上げる。僕はマグマの跳ねっ返りを浴びながら、ついに核を開けた。鱗が剥がれ落ち、断末魔をかき鳴らす怪獣はミラーボールのように膨れ上がる。爆発し、あたり一帯をマグマ溜まりに変えた。
「すぐ消化を。あ、消化しますね」
尾骶骨を押すと火は消える。背に面した東京の街は無事だった。
貴重書庫の分厚い扉はすでに開いていた。中には木戸と日比谷がいて、八十年前の資料を見ている。日比谷はそれを見て、どこか懐かしそうにしていた。
「懐かしいね。確かこんな状況だったか」
「まあ、八十年ですから、忘れるのも当然ですよ。それより青山君、僕みたいな部外者を、こんな貴重資料ばっかのとこに入れて良かったのかね」
そう木戸が言うと、部屋の片隅で資料を見ていた僕は我に帰る。
「はい、今回勝てたのは少なからず、木戸さんの助けがあったからですし、それに今この国で一番ヒーローの過去を知っているのは木戸さんです。もう部外者ではいられませんよ」
木戸は面倒くさそうに舌を出す。
「ところで、ここにある資料をもっと迅速に見れるようにしたいのですが、どうでしょう。僕だけでなく、国外や一般市民の要望に対しても」
「いいと思うよ。偉いさんに掛け合ってみんさいな」
僕は資料を見ながら、オペレーターに無線を繋ぐ。
「オペレーターさん。いつもより手厚いサポートでしたね」
「ええ。前代未聞でしたから」
「すいません、この間は急かすようなことして」
「いえ。あれは我々の怠慢です」
「えっ」
「ヒーローの補助が我々の仕事なので。ですので今後も何かあれば仰せつかってください。それでは、失礼します」
僕は無線を切ろうとするオペレーターを引き止める。
「なんでしょう」
僕は少し息を整える。それから少し、笑って言った。
「少し、資料の利用についてお願いがあるのですが……」
ウーロン・シニア・ヒーローズ 唯六兎 @rokuusagi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます