エピローグ
59.エピローグ
「ふぅ、こんなところかな」
俺は顔を上げて額の汗を拭いた。
目の前には畑が広がっており、
「アルゼ様ー! お昼のお支度ができましたー!」
振り返ると遠くでメルが手を振っていた。
「おー、今行くー!」
今いる場所は王都の外れで、俺は自由気ままなスローライフをメルたちと一緒に楽しんでいた。
『――私には夢があります。いつの日か、どこかでゆっくりと自由に暮らしていきたい夢です』
そうして、この土地を褒賞の1つとして貰ったのだ。
「あれからもう1年か……」
短いようで早いものだった。
グラント家とウェルシー商会は潰れ、俺は一代限りだが騎士爵となった。とはいっても、特に何かすることもないし、形だけのものだが。
もちろん冒険者としての活動も続けているし、たまに全員で依頼をこなしたり、最近では新しいダンジョンにも潜り始めた。
「もう、遅いわよ! せっかくのお料理が冷めちゃうじゃないの!」
家に入ると、レティアがぷんぷんと怒っていた。
「すまんすまん、そんなに遅かったか? すぐ来たと思うんだが……」
「今日のお昼は、レティア様とイリヤ様がお作りになられたんです。ですので、アルゼ様には1番美味しい状態で食べて欲しいんですよ」
「メルとシンシアに教わりながら悪戦苦闘してたのですよー。1度失敗したので作り直したのですよ?」
「ちょっと2人とも! 余計なことは言わなくていいの!」
シンシアとアビの説明に、レティアは顔を真っ赤にしていた。
「アルゼさんのお口に合うかわかりませんが……たぶん美味しくはできたと思います!」
「ありがとう、レティア、イリヤ。それじゃあ、いただくとしようか」
俺は目の前に並んだ料理の数々を見て喉を鳴らした。
レティアとイリヤは、最近ようやく一緒に暮らし始めることができた。名目上はまだ婚姻していないため、婚姻前に同棲するということがなかなか許可されなかったためだ。
王様や公爵的には問題なかったが、他の貴族の目もあるため、結婚の目途がついたこのタイミングでようやく彼女たちも来ることができたのだ。
「――んんっ! おいしい!」
その言葉に、レティアとイリヤはあからさまに安堵した表情を浮かべていた。
遅れて合流した分、彼女たちは一生懸命いろいろなことに取り組んでいたし、その成果が表れているようだ。
「と、当然じゃないの! ふふんっ」
「よかったです! これからも頑張って作りますね!」
レティアは照れ隠ししつつ、イリヤは満面の笑みで喜んでいた。
ほっとしたのは教えていたメルやシンシアも同じようで、俺の反応を確認してから料理に手を付けた。
「そういえば、近場に新しいダンジョンができたの知ってるか?」
「そんなのできたの?」
「ああ。まだできたばっかだし、誰も踏破はしてないはずだ。今日これから行ってみないか?」
「いいわね」
「楽しそうです!」
「なにか掘り出し物があるといいですねー」
「では、ダンジョンに潜るお支度をいたしますね」
「私は初めてなのですが、一緒に行っていいのでしょうか……?」
イリヤが不安そうな顔をするが、「問題ないさ」と俺は声をかける。
「初めては誰だって不安なもんさ。大丈夫、俺たちがいるからな」
「――はい!」
俺たちは食事を終えると、さっそく新しいダンジョンへと向かうのだった。
◆◇◆
「思ったより楽なダンジョンね。それとも、私たちが強すぎるのかしら?」
レティアは機嫌よさそうにステッキをくるくると回した。
「おいおい、あんまり油断するなよ。ダンジョンなんだから、いつどんな罠があったりするかわからないんだからな」
「はいはい、わかってるわよ」
「でも、たしかにすごく順調ですね。これまで以上に戦いやすいですし……やはり、イリヤ様の『特殊スキル』のおかげですかね?」
イリヤのスキルは《支援術士》という『特殊スキル』で、これは支援魔法を使って仲間を強化できるものだ。
メルの言うようにこれの恩恵が大きく、ここまでサクサク進むことができ、疲れもそれほどない。
「間違いないのですよー。このパーティならどこでも攻略できそうなのですよ?」
「ええ、本当ですね。私も《短剣士》じゃなくて、もっといいスキルならよかったのですが……」
「シンシアにはとっても助けられてるのよ? 私は初めてで勝手がわからないですし、戦闘能力もないので守ってもらえて助かってるの」
「そうよ。それに家事ならあなた以上の人はこの中にいないしね」
2人の言葉に、シンシアは嬉しそうに「はい!」と微笑んだ。
「さて、この扉ってことは、この中にはダンジョンボスがいるってことでいいんだよな?」
「恐らくはそうかと……どうされますか?」
メルの問いかけに俺は「うーん」と考え、
「結局のところ、まだ何も情報ないしな。気合い入れて行ってみよう」
「そうね。このパーティーで攻略できなかったら、誰だって無理よ」
それはたしかにレティアの言う通りかもしれないと思いつつ、俺は扉を開けた。
「――ん?」
「宝箱なのですよー!」
「あ! ダメですよ、アビさん!」
駆け出そうとしたアビをシンシアが捕まえて引き止めた。
部屋の中央には大きな宝箱が置かれており、アビはそれに目がくらんだみたいだ。
「あれは本当に宝箱なんでしょうか? 大きすぎる気もしますが……」
「んー……イリヤ、とりあえず全員に支援魔法をかけてくれ」
「わかりました!」
イリヤの支援魔法を受け、俺たちは部屋に入る。だが、宝箱にも部屋にも変化は特にない。
――なんか怪しいなあ……。
「レティア、ちょっと魔法を放ってくれ」
「そんなことしたら中の物がダメになるかもしれないのですよー!」
アビから不満の声が漏れたが、レティアは「わかったわ」というと、
「【ウィンドアタック】」
できるだけ中身に影響がなさそうな魔法で攻撃した。
「あ――」
【ウィンドアタック】が当たった瞬間、宝箱は大きく弾けて正体を現した。
「やっぱりミミックか」
ミミックとは宝箱の姿をした魔物で、うっかり近づいた人間を捕食するという恐ろしい魔物だ。
「――はい、おしまい」
だが、俺はそれを一瞬で斬り伏せたのだった。
「え、え!? もう終わったんですか!?」
イリヤが目を見開いて驚いたが、ミミックは元々油断してなければ強くない魔物だし、イリヤの支援魔法と《剣聖》があればまったく取るに足らない相手だった。
「アルゼ様、さすがです!」
「ほんと、規格外の強さになっちゃったわね……」
対照的な反応をする2人をよそに、
「さーて、何がでてきますかねー?」
アビはウキウキと近寄ってきた。
倒したミミックは、正真正銘の宝箱へと変身していた。
「おいおい、みんな来てからにしてくれよ」
「早く来るのですよー!」
アビの呼びかけに全員が集まり、
「さあ、開けるのですよー!」
と言って宝箱を開けた。
「わ!」
「え、うそ!?」
「凄いのがきたのですよー!」
「綺麗ですね……」
「こんなものまでダンジョンではドロップするのですね……」
一様に驚いているが、俺にはそれがそこまで驚くものとは思えなかった。
「なあ、これってただの『宝石』だろ? 大きいし価値はあるだろうけど、これまでもあったし、そんな驚くことか?」
「あんたねぇ……。イリヤ、ちょっとアルゼに説明してあげて」
「ふふ。アルゼさん、この宝石は普通の宝石とは違うんです」
「何が違うんだ?」
「これは『エオニア』と呼ばれるもので、永遠に愛が続く象徴として指輪などにされています。ただし、それはおとぎ話の話で私も見るのは初めてです。でも、この色と輝きは言い伝えどおりかと思います」
「つまり……国宝級ってことか?」
「それ以上の存在かもしれませんね……」
シンシアの呟きに、俺は改めてエオニアと呼ばれた宝石を見た。
たしかに綺麗だが、どうにも俺にはただの宝石にしか見えなかった。
「で、とうするの? これだけのものだもん、国宝として国に売るのが普通だと思うけど……」
レティアがなんとも言えない表情で聞いてきた。
よく見れば、全員同じような顔で俺の答えを待っていた。
――やれやれ。
俺は吹き出しそうになるのを我慢し、
「そんなことするわけないだろ? 俺の愛する人たちの結婚指輪にするさ」
そう答えると、全員が俺に抱きついてくるのだった。
―――――――――――――――――――――――
【あとがき】
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
これにて今作品は完結となります。
初めての完結作品ですが、無事に終わらせることができてほっとしております。
そして、新作の投稿を始めました!
【異世界のサバゲーマー 〜転移したおっさんは国を救うために『ミリマート』で現代兵器を購入して無双します〜】 https://kakuyomu.jp/works/16817330666519735772
アラサーのおっさんが、弓や剣で戦う異世界にて、チートすぎる能力『ミリマート』を使用して手に入れた銃などの現代兵器で俺TUEEEEしてしまうお話です。
ぜひ1話だけでもいいので読んでみてください!
また、今後も面白い作品を書いていくので『作者フォロー』もよろしくお願いいたします!
2度追放された転生元貴族 〜スキル《大喰らい》で美少女たちと幸せなスローライフを目指します〜 フユリカス @fuyurikasu
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