13
――翌日。午後十三時四十二分。SRM日本支部。
ファイルを片手に入り口まで迎えに来ていた七海と共にエレベーターに乗ったパンツスーツ姿の陽南は上へと向かっていた。数階分上ったエレベーターから降り七海についていくと、ドアから既に身を引き締める雰囲気を醸し出す部屋へと案内された。
そしてそのドア前で立ち止まることなく、ノックすらせずに開いた七海に続く陽南。そこは高級感溢れるソファやテーブルが置かれている応接室だった。そのソファの一つに知真は腰掛けており開いたドアの音に顔だけを向ける。
「来たか。とりあえず座ってくれ」
言葉と共にテーブルを挟んだソファを手で指す。陽南はその言葉に従い「失礼します」と言いながら座った。一緒に部屋に入って来た七海は知真の隣へ。
「七海君。アレをは持ってきてくれたか?」
「はい。どうぞ」
七海は手に持っていたファイルから紙を一枚取り出すと知真に手渡した。その紙を一度確認するとテーブルを滑らせ陽南に差し出す。
「君は特殊捜査官として刑事部第一課に配属される。これはその契約書だ」
知真の説明を聞きながら陽南は契約書を手に取り目を通す。そこに書かれていたのは守秘義務や仕事の危険性など。
「止めるならここが最後だ」
そう言いながら知真は黒を基調としたボールペンを差し出していた。契約書から視線を上げた陽南は知真の目を一度見るとボールペンを受け取り、迷うことなくサインをした。そしてボールペンの乗った契約書を知真の方に向け滑らせながら返す。
「ちゃんと考えて決めたことですので」
「そうか」
そして知真もボールペンに手を伸ばし責任者としてのサインを書くとその契約書を七海へ。
「では、雨夜陽南。SRM日本支部刑事第一課へようこそ」
座ったまま知真の手が差し出されそれを陽南も握り返す。
「これからよろしくお願いします」
二人の手が離れると知真は横に置いてあったIDとバッジ、拳銃を陽南に差し出した。
「言うまでもないがこれは大切に管理してくれ」
「はい」
その後に小さなアタッシュケースをテーブルに乗せた。
「我々の刑事第一課では基本的に二人一組のコンビを組んで捜査にあたっているのだが、君はこれからアレクシス・ブラッドとそのコンビを組むことになる。だが君を指名したとはいえ相手は重罪犯。そのまま野放しに捜査協力させるわけにはいかない。そこで奴と捜査に出る際、君らにはこれを身に付けてもらうことになった」
知真が陽南の方へ向けたアタッシュケースを開くと中には大きさの違う輪っか状の機械が二つ入っていた。一つはブレスレット程の大きさでもう一つは首輪程の大きさだったがデザイン的には丸い機械が付いたチョーカー。
「これはECEと言って、簡単に説明すればアレクシス・ブラッドの暴走を止める機能を持っている。アレクシスの首に付けるのが通称ECC、君が腕に付けるのがECBだ。詳細はこれに入れておいた」
次に知真が差し出したのはスマホ。
「SRM日本支部で支給されているスマホだ。これに刑事第一課全員の連絡先と各課への連絡先が登録されている」
陽南は取り敢えずスマホを受け取る。
「そのスマホはSRMの特別製で君か課内の人間でないとロックを解除できないようになっている。つまり課内の人間が持つ物なら君も使用できるというわけだ。それと、GPS機能もあるがそれは非常事態にしか使用しない決まりになっている。そこは安心してくれて大丈夫だ。それに加え非常事態時の連絡手段の役割も果たす故、出来る限り常時持っていてもらいたい」
「分かりました。これも私が常に持っていた方がいいんですか?」
スマホを内ポケットにしまった陽南はアタッシュケースを指差す。
「いや、君のデスクにこれ専用の金庫を置いてもらおうと思っている。普段はそこに仕舞ってもらい出動時に取り出してもらう予定だ」
「了解です」
「ではとりあえずは以上だ。何か聞きたいことがあれば……」
「いや、支部長。もうそろそろ次の予定がありますね」
そんな知真の言葉を隣の七海が遮った。
「そうか。では何かあればまた後日か七海君に聞くか、メールでも送っておいてくれ」
「はい。分かりました」
「では後は頼んだぞ」
知真はアタッシュケースを閉じるとそう言いながら七海に手渡した。
「りょーかいでーす」
軽い返事をしながらアタッシュケースを受け取った七海はファイルも持ちながら立ち上がった。
「それじゃ行こっか。ひなちゃん」
「はい」
そして七海に続いて陽南が立ち上がり、それと同時に知真も立ち上がった。
「まだ警察学校を卒業したばかりで色々と大変だと思うが一課全員でサポートしていく。頑張ってくれたまえ」
「まだまだ未熟者ですがよろしくお願いします」
陽南は言葉の後、頭を下げた。
そして先にドアまで歩き出した七海に続き部屋を後にし、エレベーターへと乗り込んだ。
<大好きで、心から尊敬する姉との突然の別れ。ずっと事故だと思っていたが――その日、彼女は姉を殺した男と対面する。それは殺人金の嘲笑か、それとも真実への招待か。日記の中にいた姉を追い求め――今、彼女は思い掛けない新人警察官としての一歩を踏み出した>
TWO BLOOD 佐武ろく @satake_roku
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