12
まだ太陽が悠々と空で踊る中、家に帰った陽南は部屋着に着替えるとお茶を片手に壁際へ腰を下ろす。そしてノートパソコンを開いた彼女は澪奈との想い出の写真や動画なんかを見始めた。様々な感情が渦を巻きながらも溢れんばかりの想い出はやはり懐かしい。これからは無くこれまでを振り返るしかないがその数は膨大で、姉妹の仲の良さが十二分に現れていた。
そんな想い出の数々を次から次へと見ていく内、時間はあっという間に過ぎ去り気が付けば外ではすっかり街灯が灯っていた。
「え? 嘘っ! もう?」
余りにも早い時間経過に驚きが隠せない陽南だったが、取り敢えずお風呂やら何やらを済ませ再び定位置と化した壁際に座る。スマホでプレイリストをランダム再生をするとあの日記帳を手に取った。
その時期は忙しかったらしく飛び飛びで書かれた日記を読み進めていく。
すると気になることが書かれている日があり彼女の手が止まった。
『十二月八日。もしかしたら私はとんでもないことをしてしまったのかもしれない。私の思い違いだといいのだけど、もしそうだった場合の対策を一応考えておかないと。最悪の事態はどんな手を使ってでも避けなくりゃいけない』
その日を呼んだ陽南は小首を傾げた。
「何かミスでもしたのかな? でもそれにしては深刻過ぎる気がするし」
『お前はまだ何も見えてない』
すると、何故かふとアレクシスが言っていた言葉を思い出した。余程腹が立っていたのかあの時の声や表情まで鮮明に思い出せる。
でも陽南はそんな記憶を払いのけるようにページを捲った。
『十二月二十二日。やっぱりこれをどうにかしないと。何とか時間を稼いでるけどこれ以上は無理かもしれない。気が付くのが遅かった。だけどそれを悔いてる暇はない。どうにかしないと私は人を殺してしまうかもしれない』
物騒な文字が並ぶその日は前回よりも深刻そうだった。
「どういうこと? アイツがお姉ちゃんと研究員を殺した以外に一年前の事件に何かあるってこと?」
まだその疑問にすら確信はないが、少なくとも日記の澪奈に異変が現れていたことは確かだった。疑問符に脳裏を埋め尽くされながらも取り敢えず日記を読み進める陽南。
そこから日は飛び次には年を越していた。
『一月十五日。今日は久々に陽南に会った。急に連絡したのに時間を作ってくれた。ありがとう。食事をして今日は陽南の家にお泊り。昔みたいで楽しかった。でも楽しかったからこそこんなことをするのは辛い。私は姉失格なのかもしれない。本当は妹を守ってあげるべきなのに……。本当にごめんね陽南』
日付だけでその日の事は直ぐに思い出せた。
だけど想い出の中の澪奈はこの日記とは違う。それが彼女を戸惑わせる。
「一月十五日。あたしがお姉ちゃんと会った最後の日。あんなに楽しそうに笑ってたのに。あたしが寝た後、日記にこんなこと書いてたんだ。――もしあの時、気が付いてたら、翌朝この日記を見てたら何か変わってたかな?」
自分でもそんなこと考えたところで意味がないことは分かっていたが陽南の意志に反して考えは浮かんできた。そして陽南は自分の言葉を否定するように小さく首を振りながらページを捲る。
だがもうその日記帳に日記は書かれていなかった。しかし気になることに最後の日付の次のページは雑に破かれていた。
「お姉ちゃんが破ったのかな?」
破られた後を手でなぞりながら分かるはずもないことを呟く。
そして陽南はその手でもう一度日記を遡った。日付は十二月八日。もう一度書かれた日記を読む。
「『もしかしたら私はとんでもないことをしてしまったのかもしれない』とんでもない事って何だろう」
それは陽南が思っている以上の事かもしれなければ大した事ではないのかもしれない。だが答えどころかヒントすら知らない彼女にそれがどちらかを判断する術は無かった。
「もしあたしの知らない何かがあるのだとしたら……」
そう呟きながらページを捲り一月十五日の最後の日記を読む。文字を読みながら頭の中ではあの日の澪奈を思い出していた。
「あんなに楽しそうだったのに、お姉ちゃん何があったんだろう」
考えれば考える程、分からなくなっていく。それはまるで、藻掻けば藻掻くほど沈んでいく底なし沼のようだった。それから陽南は日記を読み返したり事件後に受け取った澪奈の所持品を調べたりしながら明日の返事について考えていた。
――次の日。正午。
……
「分かってます。ですが私は引き受けようと思います」
「本当にいいんだな?」
「はい」
「では明日SRMまで来てくれ。それまでに準備は済ませておく」
「分かりました。では失礼します」
スマホを耳から話した陽南は傍に置いてあった写真を手に取った。そこに映っていたのは並んで笑みを浮かべる澪奈と陽南。
「お姉ちゃん。あたしはお姉ちゃんが何を謝ってたのか、何を悩んでいたのかが知りたい。もし何かあるんなら――出来ることならお姉ちゃんの代わりに解決してあげたい。まぁ出来るかは分からないけど。――でもあたしは少しでもお姉ちゃんに恩返しがしたいんだ。だからさ。バカなことしたって怒らないでね」
すると陽南は写真を脚の上に置きジュエリーボックスからハリネズミのネックレスを取り出した。
「それとあたしのことを見守っててね」
そう呟きながら視線をハリネズミから天井へと移動させた。
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