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 そして陽南が手に持つ写真を見たアレクシスは大きく表情は変えなかったものの、僅かに目を見開いた。


「お姉ちゃんの日記帳に挟まってたの」

「日記……そんなものつけてたのか」


 アレクシスの声は辛うじて聞き取れる程の呟きだった。


「あんた、あたしのお姉ちゃんとどういう関係だったの?」


 だがアレクシスはすぐには答えなかった。黙ったまま写真を見続ける。


「お姉ちゃん、こんなに楽しそうに笑ってる。なのにお姉ちゃんはあんたに殺された。何でそんなことしたの?」

「お前には関係ない」


 それはまるで斬捨てるような一言だった。


「はぁ? 何よそれ。あたしのお姉ちゃんよ。関係あるわよ!」

「お前はまだ何も見えてない」

「それはあんたが何もしゃべらないからでしょ!」


 彼女の中で苛立ちが膨れ上がっているのは、その声を聞いているだけで容易に想像できた。


「――なら交換条件だ」


 するとアレクシスはそんな彼女へ歩み寄る様な提案をした。


「どういうこと?」

「お前はこの件を引き受けろ。そしたらお前が知りたがってることを一つ話してやる」

「何であたしがそんなことしなきゃいけないのよ」

「いやなら別にいい」


 素っ気なく返したアレクシスは踵を返し背を向けた。

 そして歩き出そうとした彼を陽南の声が呼び止める。


「ちょっと待って」


 アレクシスは完全にではなく半分ほどだけ振り返った。


「ほんとに教えてくれるんでしょうね?」

「引き受ければ分かる。俺が憎いならそれでいいが、知りたいのならそれが交換条件だ」

「――少し考える」


 少しその場で考えたが、すぐに答えは出ないと思った陽南はそう呟くと収容部屋を後にした。通路を通り七海らの待つ部屋へと戻る。

 その間も視線を俯かせ先程の事について思考に浸かっていた。


「それでさぁー。――あっ! ひなちゃんお帰り」


 浮かない顔のままドアを開けた陽南へ椅子に座っていた七海が話を中断して手を挙げながら声をかける。


「あれ? 大丈夫?」

「あっ、はい。大丈夫です」


 七海の声に我に返った陽南は咄嗟に微笑む。


「もう用は済んだ?」

「はい。お付き合いしてくれてありがとうございました」

「いいっていいってー」


 頭を下げながらお礼を言う陽南に対し七海はいつもの笑顔を浮かべている。


「それじゃ行こっか。じゃ、しげちゃんまたねー」


 立ち上がった七海は茂和に手を振るとエレベーターに歩き出す。


「ありがとうございました」


 陽南も茂和にお礼を言うと七海の待つエレベーターに乗り込んだ。

 そしてドアが閉まるまで手を振る七海に茂和も手を振り返していた。


「あの、伊勢本部長は今日はお忙しいでんしょうか?」


 エレベーターが地下一階を過ぎようとした辺りで陽南は七海にそう質問をした。


「んー。そうだね。朝から忙しくしてるかな」

「そうですか」


 それなら無理かと思うと落胆の心内は微かに言葉へ紛れ漏れた。


「でも会いたいなら……」


 エレベーターの一階到着を知らせる音と共に七海の言葉が一瞬止まり視線は陽南から外れた。


「ほら、そこに」


 七海のドアの方を差す指と声に陽南も開いたドアを見遣る。

 そこには知真が立っていた。


「私がどうかしたか?」

「い、伊勢支部長。ご苦労様です」


 不意を突くように現れた知真に動揺しながら陽南は反射的に敬礼をした。


「とりあえず君らが乗っていては他の人が使えないからまずは降りてくれ」

「すみません」


 そしてエレベーターを降りた二人と知真は邪魔にならないように少し端の方に移動した。


「それで私がどうかしたか?」

「いやーひなちゃんが支部長に用があるっぽかったんで」


 七海の説明に知真の視線は陽南へ向いた。


「あの。先日の件なのですが一日だけ考えてもよろしいでしょうか?」

「あぁ構わん。これは何か威圧的な意味で言う訳ではないが、あの件は常に君次第だ。君がやると意志を固めれば始動する。こちらはいつでも準備は出来ているからな」

「ありがとうございます。では明日またご連絡させていただきます」


 快い返事に深く頭を下げる陽南。


「ゆっくり考えてくれ」

「はい」


 そしてSRM日本支部を後にした陽南はスーパーに寄りそこから真っすぐ帰宅した。

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