第3話 失踪

「雄志ー! どこだー?!」

「いたら返事しろー! 雄志ー!」


 雄志の捜索は村人たちによって一晩中続いた。


 水虎すいこ川の上流で溺死した少年が見つかったと川田家に連絡が入ったのは、夜が明けた頃だった。

 付近は森林ばかりで、川には大きな岩がゴツゴツと水面から顔を出している。これに引っかかっていた身体は、村人らによって引き上げられた。


 その少年は顔が泥だらけで、左手首から多量の出血をしていた。村人らが慌てて状況を確認しようと取り囲むと、突然、少年は息を吹き返した。

「お、おい! 生きてるぞ!」

 少年は大きな瞳で大人たちをぐるりと見回したあと、慌てたように山の奥へと走り去っていった。血を流しながら――。


「捕まえろ!」

 男の大声とほぼ同時に、別の者がそれを止めた。

「待て! あれは、雄志じゃない……!」



 その日の夕方、村の男たちが「雄志の発見は誤報だった」と報告すると、雄志の母はその場で泣き崩れた。

 誰も森へ逃げた少年の話をすることはなかった。


 警察にも捜索願を出したが、野山を歩き回るだけの捜索では、土地を知り尽くした村民の方が、幾分見つけられる可能性が高い。

 数日が経って捜索の打ち切りが話題に上がると、雄志の失踪は河童の災いによるものだと言う者が一人、また一人と現れた。

 そして、それはすぐに村中に伝播していったのである。

 

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河童の手 島文音 @celtic

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