第2匹目【3倍速い】
貴重な60分休みが訪れる。
その瞬間私は机に突っ伏す……寝る気はサラサラないけどちょっとした休憩だ。
本当は寝るのが好きな私だが、流石に授業中に寝ることは少なくなったものの、やはり休み時間になってしまえば体は正直で眠気が襲ってくる。
家だと誰も起こしてくないのが大きいかも知れないけど。
★
あぁ、また寝てしまったようだ。
何で分かったかって?
それは目をつぶっても分かるもん。
牧草のあおくさい匂いと耳に届く羊の鳴き声が証明してるもん。
これはゲーム。
これはゲームだ。
真後ろにある柵の幅はサッカーのゴールポスト位、高さは腰ほどあり越えられると私の負けだ。
互いの距離は18mと少しだけある。
勝利条件は2つある。
1つ目は毎日誰かが起こしてくれたら夢は覚める。
一番効果的で良いんだろうけど、そうも言ってらんない。
現実世界の疲労は溜まらないけど、そのまま夢の中に持ち越すからだ。
つまり、スポーツ等をした後に眠ればその疲れが夢の中に現れる。
万全の状態で挑むに越したことはないけどね。
2つ目は羊本体に触れること。
そうしたら勝手に消えて、30分休んで次の
性格はまちまちで元気いっぱいの子もいれば、やる気ない子のもいたりする。
だけど、これが大問題なのである。
来た――色違いだ。
真っ赤な身体の羊は周りを通常の約3倍のスピードで突進する。
その姿たるやまさに閃光。
(疾っ!?)
私は両手を広げ正面から待ち構えた。
「メェ〜」
「右か左か……」
タッタッタッタッタッタッ。
緩まぬスピード、これは。
(嘘、正面突破!?)
でも大丈夫だ。正面なら対応は1つ。
恐れず体当たりだ!!
指先まであと少し。
私が更に一歩前へ踏み込むと同時に、何と羊は左へステップして回避したのだ。
唖然とする私を他所に、まるで赤い尾を引く彗星のように柵を越える。
そう……現れる羊にも個性があるのだ。
今回のはトリッキーな動きをするタイプ。
1/4096で出現する稀に現れる特殊個体だ。
前回は青色が現れて水鉄砲を食らって目潰しされたっけ……
私が意気消沈していると、アイスが溶けるように世界が歪む。
どうやら誰かに起こされたらしい。
もうじき目覚めるぞっと。
★
「おい起きろよ寝枕」
名前を呼ばれた気がして顔を上げるとそこには布団田がいた。
ついでに赤い羊もいたけど、筆箱の中にしまいながら
「ふぇ、どうしたの?」
と聞くと、彼は私の目の前にコンビニ弁当を1つドンッと乱暴に置いて。
「やるよ」
と言って差し出してきた。
私はびっくりして思わず
「えぇ!?いいの?」
と叫んでしまった。
するとクラス中がこちらを向いた。
「またカップルがいちゃついてるよ〜」
そんなからかいの声に顔が火照るのを感じながらも、私はもう一度だけ布団田に尋ねた。
「……本当に貰ってもいいの?」
涎を垂らす私の目を見ながら彼はニヤッと笑って言った。
「あぁ、いいぞ!」
「やった〜!!」
急いで袋から取り出し電子レンジで温められた熱々のビニールを破く。
箸は口で咥えながら豪快に割った
その瞬間、教室はさらなる笑いの渦に包まれた。
恥ずかしい……と思いながらも彼の好意を無駄にしないために私はそれを美味しくいただいたのだ。
すぐ寝てしまう体質が原因で羊が柵を越える度にミニ羊が具現化してしまう謎能力がある私は青春を謳歌する!! 泥んことかげ @doronkotokage
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