すぐ寝てしまう体質が原因で羊が柵を越える度にミニ羊が具現化してしまう謎能力がある私は青春を謳歌する!!

泥んことかげ

第1匹目【寝る子は育つ】

『メェ〜』


「お前さ、その能力、どうにかなんねぇのかよ?」


 気怠そうにそう言ったのは、私こと寝枕抱子ねまくらだきこの親友ちゃん。


 スラッとした体型と切れ長の目が特徴的な、近所の幼なじみ布団田志貴ふとんだしきだった。


 彼が言う私の能力は、眠る度に現れる羊が柵を越えてしまうとミニ羊が具現化してしまうというもの。


 サイズは丁度、眼の前にある消しゴムと同じくらい。


 この子達自体に実体はなく別に餌を上げたりとかは要らないみたい。


 つまるところ見えるのは私だけなのだ。


 良く動く事と蚊が飛ぶほどの声量で鳴く以外はしないから楽ではある。


 もちろんだが可愛い時もあれば、そうじゃない時もあったりする。


 小学生の頃には授業中の居眠りで、腕で組んだ輪の中がマザー牧場になっていた時は凄く凄く大変だった。


 一時期やった催眠療法やら何やらで、無限に湧くことは避けられたけど今はそれも効かずたまに出る。


 あれから数年が経ち、私の自室にある透明の衣装ケースには50匹以上はいるだろう。


 愛着が湧いて其々、名前が付いてたりもする。


 そんな私は今年で18歳。


 花の高校3年生であり受験シーズン真っ只中でもある今日。


 我ながら夢カワだが、未だにサンタクロースを信じていたりするほどの子供思考の持ち主だ。


 またそれが原因で「ミニ羊を具現化する」という能力を授けられてしまったのではないかと、私は考える。


 しかし、そんな子供思考の私でも、流石にもうサンタクロースの存在を信じない。


 何故なら私が物心ついた頃にはもう既にその季節は終わっていたし、そもそもクリスマスというものはキリスト教に関係する行事であって――。


 まぁつまり、ジンギスカンを食べても仕方ない……というのは食欲的な建前。


 真実は単に羊を具現化しないように戦っていたらいつの間にか朝が来てしまい、枕元に「メリークリスマス」と母の字で紙が添えられていたことだと思う。


「おい、白目むいてんぞ。また寝てんのか?」


「え?あぁ、聞いてる聞いてるよ!」


 部屋で溢れたジンギスカン食べたくないなぁ〜なんて考えてたら布団田の話を聞き飛ばしてしまっていた。


 いけないけない、集中しなくちゃ……受験勉強は日々の努力と根気が大事だからね。


「で、何の話だっけ?」


「だから、その能力だよ。眠ったら羊が具現化してんだろ?」


「あぁ〜」


 なるほど、これが私の能力――勝手に考案された【寝耳に羊】についての話だったか……


「羊って別にさ飼うだけじゃなくねぇか。食えよおやつ的な感覚で。一摘みだろ」


「うーん……でもやっぱり羊の毛刈りだとかしないといけないんじゃないかな? てか、凄く物騒だし可哀想だよ流石に……」


「羊が可哀想かどうかなんか知らねぇよ。現に困ってるのは本当だし。まぁ、お前が気にしないならいいけどさ」


「うん、ごめんね?でもやっぱり私はこの能力と向き合ったほうがいいと思うの」


 私がそう言うと布団田は少しムッとした表情で私を見た。


「お前さ、まともに寝てねぇせいでくまは凄いし、授業中は白目向いて涎垂れてるわで、そんなんじゃ一生恋人できねぇぞ?」


「いいよ別に。今の状態にも慣れたし……それに……」


「それに?」


 布団田が続きを促すように私の顔を覗き込んでくる。


 その瞳は私で一杯だった。


「ううん、何でもない」


「なんだよ、言えよな」


 布団田は笑いながら私の頭をわしゃわしゃと撫で回した。


 こういう雑そうに扱われるところが、私は結構好きだ。


「ほら、次はこの問題解いてみろ」


 そう言うと私の頭から手を離して、自分の勉強に戻ってしまった。


 また私を撫でで欲しかったがわがままを言うわけにもいかず、私も渋々授業に集中することにした。


 キーンコーンカーンコーン……


 キーンコーンカーンコーン……


 お昼休みを告げるチャイムが鳴り


「よし、終わり。食堂へ急げ〜」


 先生は教壇を足早に降りて教室をあとにした。


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