FLAG

KEIV

作者が見たL.O.M.の1つの姿

L.O.M.Military 第7区射撃訓練場

どこか無機質さが漂う彼女は音の対策をすることなくMTR-16を撃っている。オフセットサイトと可変倍率スコープの反復射撃を繰り返すこと2セット。オープンボルト状態な事を確認するとマガジンを抜きボルトストップを落とす。その後コッキングハンドルを3度引き最後にもう一度引くと手動でボルトストップをかけチャンバー内に異常が無いか確認する。


「MTRのクセはわかってきたかい?」

「そうですね。それなりには」

「『それなりには』ねぇ。ははは、まさか機械の口から聞くとは思わなかったよ」

のあなたもご存知でしょう? 私の目的くらい」

「俺はそんな大層な立場じゃないよ」

「私にとってはL.O.M.Militaryの皆さんが上官ですから」

「なるほどねぇ」

MTRを肩に乗せ仁王立ちの女とベンチの上であぐらをかく戦闘服の男の会話は続く。

「少し休憩したら、次はP90とFN ファイブセブンの訓練ね。キミには休憩なんて必要無いかもしれないけど」

「まぁ、あくまで機械ですからね。私は」




キミは聞いてるかい? キミが生まれたことで『あなたがヒトであると証明してください』って項目が面接で聞かれるようになったらしいよ。

らしいですね。それが何の話です?

キミだったらどうやって『ヒト』と『ロボット』証明をさせるかなって。

そうですね……

そういうと彼女は、まるでキーボードを叩くように指を動かしスワイプするかのように右手人差し指を振る。一通りことが済んだのか右手を広げて振り払うと語り出す。


私の……いや、Unscienceで私を研究する研究者の1人と言うべきですね。その人は趣味でネット小説を書いてるんですけど、その人はこの話に対して「質問者に対して『ヒト』の定義を聞き返しそれを元に判断する」ってことを言っていて概ねその意見と同じというのが私の見解ですね。とは言え、証明だけを求められたのなら話は変わってきます。今までだったら使えた手は幾つか使えなくなりますから。






とりあえず『ロボットの三原則』の直接引用は事実上不可能になります。私はその製造主目的上、人を手にかけることができるロボットなので面接官を殴って『ヒトだ』という事は証明にはならなくなります。殴る行為そのものを証明とする事が出来なくなるという事ですね。


そしてもうひとつ。『私はロボットではありません』のチェックボックスを選択する。ものによっては写真を選んだり画像から文字を読み取って入力するなどがあるものもありますが、様々なロジックを得て私はそれを選択する行為そのものは可能となりました。ですので、それも証明とはならなくなるでしょう。


では、どうすれば証明出来るか。面接で本当に人が聞かれる原因となった存在が私である以上、判断基準の参考は私になるはずです。その前提で話を進めるのであれば、幾つか答えはあります。


1つ目。『ロボットの三原則』に絡む部分を加味するのであれば私には1つだけ言えることがあります。私は。すなわち、私は殴るという行為に対しての責任を取れないということです。ですので、殴るという行為に対する責任を取ることにより自らを人であることを証明できると考えます。


2つ目。これが現状最も確実な方法ですね。毛根ごと毛を引き抜く・専用の綿棒で頬の内側を擦り取る・血が出るか出ないかのレベルまで爪を食い込ませ表皮を剥ぎ取るなどして成分検査にかける。

私は限りなく人に近くなるよう作られています。とはいえ、人のように細胞分裂と入れ替えサイクルにより恒常性を保つという能力を与えられていません。将来的にはタンパク質を使用した人工皮膚を貼り付けるという計画もなされていますが、それでもその人工皮膚にDNAは含まれることはありません。ですので、DNAが抽出されればそれはロボットでは無い証拠、すなわち人である証拠と言えるでしょう。


3つ目。これが可能な人は限りなく少ないでしょう。『自らの死をもって完成する芸術』を生み出し、そして、死に近づく行為をすること。

私は様々な能力がシンギュラリティに達しつつあると──じゃないですね。研究者の皆さんは言います。しかし、まだ芸術を生み出す能力は持ち合わせていません。もちろん、将来的には得る予定ですがそれでも自ら死を選ぶなんて馬鹿げたマネをしようとは思いません。私が死ぬ理由は『死にたくない人を守り救うため』以外にないですからね。とはいえ、私以外の私のよえな個体が私と同じになるかと問われると疑問も残るのでいずれ使えなく手だと私は判断しています。


4つ目。怪我や怪我の痕跡。昔の怪我の痕跡が消えない痕となってしまい悩んでいる皆さんにとっては朗報かもしれないですね。

怪我つまりは損傷が発生した場合、私は内部構造に障害が残るのを防止するため皮膚にあたる部分を補修します。なのでかさぶたができないのはもちろん、傷跡すら残ることはありません。しかし、人にはかさぶたができて傷跡が残ることもあるでしょう。それこそが生物である証拠となり、人である証拠となるでしょう。






「この程度で良いですかね?」

「むしろ出しすぎではと言いたね」

「大便は小便を兼ねると言うでしょう?」

「絶妙に悪いジョークのセンスはどこから来たのか聞きたね」

「市来研究員さんですね」

「あのアホ……」

「…………まぁ、数打ちゃ当たるができるのは『人』とっては都合が悪いとは思いませんか?」

「言い得て妙。あるいは的を射た発言だね」

「数打ちゃ的にも当たるってね」

「上手いこと言った気になるなよ。さて、訓練再開行けるか?」

「無論」


男が立ち上がった時、腰から垂れ下がったIDカードには確かに「サカベケイ」と書かれていた。

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