第13話 体育祭

 結局空き時間はペーパーフラワーを作るのに使ってしまった。

 合間に滝沢も含めて手伝ってくれたのだが、大半は由美が引き受けている。

 クラス内でサボった生徒が数人いたせいだが、予想通りなので文句はない。

 次からは仕事を回せなくなるだけだ。


 体育祭の前日にノルマ分を提出し、やるべきことはやった。

 当日は進行や準備で忙しいのだが、これで心置きなく迎えられそうだ。

 滝沢や安芸と共に何をやるかは決まっている。


 そして迎えた当日。朝早く起きて家を出る。

 朝から疲れることもないだろうと日課のジョギングは控えておいた。

 母特製のスタミナ弁当が楽しみだ。


 高校ともなると保護者も見に来ない。

 というかそもそも外部に開放しておらず、学校行事の一つでしかない。


 フェンス外にはそれらしき人物が何人かいて写真を撮影しているが、それぐらいのものだ。


 朝からグラウンドに全校生徒が集合し、生徒会長と校長が体育祭開始の挨拶を告げて早速競技が始まった。


 うちのクラスの出番まで少し間がある。

 クラスメイト達に時間を伝えて、委員会本部に集合する。


 審判やら準備で大忙しだ。

 すぐに割り当ての場所に移動し、仕事を開始する。


 クラス内の競技に出るので、テキパキと移動しなければならない。

 思ったより忙しいなと感じながら慌ただしく移動する。


 トラブル無しでこれだ。

 常に駆け足。


 そうこうしているうちにあっという間に朝が終わる。


 一年はAクラスが一位。Bクラスのうちは三位だった。

 二位とは僅差だが一位とは少し離されている。


 昼食の時間でようやく一息つくことができた。


 クラス内はそれなりに盛り上がっているようだ。

 この体育祭の目的はクラス内の交流促進なので上手くいっていると思う。

 二位を目指して頑張ろうという前向きな空気が形成されていた。


「神崎さんってテキパキ動くよね。玉入れ競争みてびっくりしちゃった」

「私も。一個入れてる間に三個くらい入れてるんだよね」

「鍛えてるからね」

「そういう問題?」


 合間に参加した競技も手は抜いていない。

 というより全部勝利に導いている。今のところクラス内の信頼は少しずつ勝ち得ているからか指示に従ってくれている。


 クラス委員として多忙でなければ司令塔として一位を目指すのも有りだった。

 体育祭でだけちやほやされるより、一年中ちやほやされたいのでそのプランを選ぶことはなさそうだが。


 午後もたくさん働かなければならない。

 そのために昼食をしっかりと食べる。


 他の女子に比べて二倍近い大きさのお弁当箱なのは気にしてはいけない。

 しっかり動いているので体脂肪率も目標値をキープしている。


 人間は見た目で判断する以上、外見には注意を払っている。

 清潔感。最近の流行り。スタイル。可愛さの平均値。


 それらを研究して今がある。

 幸い母が美人だったので基本的なことを頑張るだけで良かった。


 例えそうでなかったとしても、苦労が増えるだけでなんとしても頑張ったと思うけど。


 午後の部は朝に比べると仕事の量も減り、一年生の由美たちは楽ができた。

 二人三脚の審判をしていると、グラウンドで揉めた二年生が参加しているのが見えた。


 揉めたとはいえ、あれ以降は関わりもなかったし遺恨もない。

 審判として仕事をするのみだと思っていたら盛大にこけた。


 踏み出す足が見事に反対だったせいでバランスを崩したようだ。


 頭から倒れて動かない。

 あーあ、という気分になった。


 基本的にこういう時は、起き上がってゴールに向かえるようなら審判も手を出さないのだが、さすがに心配になってきた。

 様子を見るために近寄る。


「いってー」


 意識はあるようだ。

 コケただけだしそりゃそうか。


「大丈夫ですかー? 起きれます?」

「いやちょっと擦りむいたから棄権するわ」

「はーい。二人三脚一組棄権ですー」


 手を振って他の審判に合図し、手を貸してトラックから出てもらう。

 あのままだと一周してきた他のペアに踏まれてしまうからだ。


「ありがとうねー。あ、君」

「どーも」


 向こうも覚えていたようだ。

 足首の紐をほどいてあげると、上級生二人は恥ずかしそうに顔を背ける。

 年下の女子に情けないところを見られたと思っているのだろう。


「この前は悪かったな」

「別に気にしてないですよ。すぐに引いてくれたんで練習時間も減ってないですし」

「そうか」


 悪いのは安請け合いした安芸だ。

 それに終わったことをああだこうだ言っても仕方ない。


 二人とも砂で擦ったのか膝に血が滲んでいる。

 保健室で手当てしてもらうにしても応急処置が必要だろう。


「ちょっと待っててください」

「あ、おい」


 ハンカチを水で濡らして戻る。


「砂はとっておかないと」

「……助かったよ。ハンカチは買って返すから」

「気にしないでください。洗えば大丈夫です。ほら、保健室にいって治療してもらってください」


 二人を見送る。

 上級生とはいえ、歳が一つ上なだけだ。

 特別でも何でもない。


 戻るとすでに二人三脚は終了していた。

 審判の腕章を外し、次の出番があるので自分のクラスに戻る。


 ちょっとしたトラブルではあったが、すぐに解決できてよかった。


 その後トラブルらしいトラブルもなく、ラストのクラス対抗リレーの時間になった。

 ポイントは二位とタイ。

 リレーで一位になれば、場合によってはポイント一位になれる状態だ。


 うちのクラスも中々やるじゃないかと感心してしまった。

 ここで活躍しちゃいましょうかね。


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完全無欠の彼女は、凄く見栄っ張りだった。 HATI @Hati_Blue

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