切り裂きジャック
みにぱぷる
切り裂きジャック
「酷い事件ですよ」
中年の刑事は溜息をつく。
「今月三件目ですか」
私は冷たい風に震えながら言った。
「四件目です。本当に困ったもんだ」
被害者は一般の主婦。買い物からの帰宅中を襲われた。死因は刃物で切り裂かれたことによる大量出血。人通りの少ない路地に入ったところで襲われた。
事件の翌日、コンビニで買い物をしていた私は偶然店内で仲の良い刑事に出会った。
「あんたも気をつけなさいよ」
刑事はタバコを口に咥えて一服して言う。
「早く捕まるといいですけれど」
「推理作家ですし、どうです、事件の捜査をお手伝いしてくれませんか」
刑事は冗談っぽく言って笑った。
私は細々と推理作家をやっており、この刑事とは数年前、書店で知り合った。
「小説のような名探偵がズバリと事件を解決してくれればいいんですがね、はっはっは」
彼は諦めを含んだ笑いを浮かべる。
「しかし、ここまで捜査に進展がないというのも結構ですね。二週間で四人も人を殺しているのに、見当もつかないとは」
「日本の警察は小説の世界のように無能なんですかねぇ」
刑事はそう言ってまた屈託なく笑う。
「四件の事件の被害者に関連はないんですか? あるいは、共通して接点のある人物とか」
「関連はないですな。被害者四人と親しい人がいないことはないですが、しかし、アリバイは確実に立証済み。もうお手上げですな。犬の餌、お、犬を飼い始めたんですか」
刑事は私のレジ袋の中にペットフードが入っているのを見て言った。
「ええ。職業柄、癒しは不可欠でね。妻とも離婚してしまいましたし」
「ああ」
やや気まずい空気。
「捜査に進展があることを一市民として祈っています。私は執筆に勤しまなければ。失礼します」
私は小さく礼をして、コンビニを出た。
殺人事件か。物騒な世の中になった物だ。四件とも被害者は切り裂かれて殺されている。これは令和の切り裂きジャックと呼ぶに相応しい極悪非道な殺人鬼による残虐な犯行だ。
私はアパートの階段を登り、部屋の鍵を開ける。
恐ろしい殺人犯は、部屋の鍵を閉めていても、何かしらの方法で鍵を開けて無差別に人を殺すかもしれない。本当に物騒だ。落ち着いて暮らせない。
ああ、いや、もうそんなことを考えるのはやめよう。こんなこと考えても、他者に向かう時の設定であって、ただの偽りでしかないのだから。
「ただいま」
私は大きな声で挨拶する。すると、可愛い鳴き声が返ってきて、ぴょこぴょこと跳ねて私に飛びついてくる小動物がいる。
いつからだったか、私の家にかまいたちが住み着いたのは。
切り裂きジャック みにぱぷる @mistery-ramune
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