第2話 実験と実践
「……ここで行き止まり。つまりはこの階層はこれで完全制覇か」
僕は、腰を下ろしながら言う。
どのくらい時間を掛けたかは分からないが、実験と魔物との戦闘を繰り返していたら、この階層を制覇していた。
道中では様々な魔物がいた。
ゴブリン、スライム、コボルト……まあ基本的には雑魚だった。
しかし、一体だけ猫耳コボルトを発見し、倒すことで沢山レベルが上がった。
あれは多分レアな魔物だ。
さて、そうやって上がった僕の現在のレベルは……21である。
めちゃくちゃ上がった。やはり猫耳コボルトの影響は大きいかもしれないが、雑魚でも十分にレベルを上げることが出来た。
基礎的な身体能力は、一般人のそれを遥かに凌駕するくらいになった。
しかもスキルも使って倒したわけだし、スキルレベルも上がってる。
スキルレベルは……5だ。
スキルレベルが5になったことで、性能が割と変わった。
『無機物にのみ有効。この時、スキル発動者を生命活動の有無を問わず、無機物と見なす。物理的にのみ増減が可能。増加範囲:単位に関わらず、最大35。減少範囲:単に関わらず、最大35』
とても大きな強化である。
僕が、無機物であると見なされるようになったため、僕になら増減を適応できるらしい。
これによって、僕の足の筋肉とかを増加して、近距離でも十分戦えるようになった。
スキルレベルが5になる前は、石による遠距離攻撃とかが主な攻撃手段だったからね……。
「この力を更に試したいし、次の階層へ行くか」
僕は立って、次の階層へつながる階段まで歩いていく。
大体15分ほどで着いた。
階段は暗いのも相まって、終わりが見えない。
正直、魔物を倒すよりも歩き続ける方が苦痛かもしれないな……。
しかし、僕の予想は良い方向に外れてくれたようで、しぶしぶ階段を降り始めてからわずか5分で次の階層に着けてしまった。
嬉しい誤算だった。
さて、一番上の階層の一つ下、第二層に来た。
出現する魔物は変わってるだろうか。
そこらへんの調査も兼ねて魔物を探す。
すると……
「ガルルルルルル……」
大きな犬型の魔物がいた。コボルトの体積の2倍くらいはありそうだ。
うん、少し危険かもしれないけど、これくらいじゃないと碌に実験も出来ないよね。
自分を奮わせ、スキルを発動することにした。
早速……自身の筋力を最大増加させる。
筋力を増加させた僕は、全力ダッシュで犬型の魔物に向かって突っ込む。
「グルルォ?!」
犬型魔物は反応が遅れたようだ。
この犬型魔物にも、僕のスピードは通用するらしい。
犬型魔物は驚いたような鳴き声を発した。
さらに驚いた拍子に、体のバランスも崩したようだ。
犬型魔物は無様に転んでいる。
それによってできた大きな隙を僕が見逃すはずもなく、強化した筋力から繰り出されるパンチによって、ここに一撃で犬型の魔物は沈んだ。
「ふぅ~、割と大したことはないな」
息を大きく吐きながら、言う。
おっと、今のでレベルが22になった。
スキルレベルも6になったようで、増減範囲がそれぞれ5増えていた。
少しずつでも成長が感じられてとても嬉しい。
この調子で、他の魔物も狩りに行くとしよう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
歩き始めて10分、僕は魔物に出会った。
「ヴゥゥゥゥゥゥゥ」
奇妙な声を発している魔物はオークだった。
豚の体に質素なぼろきれを体にまとい、大きなこん棒を担いでいる。
オークは耐久力が高いため、いい感じに僕の実験相手になりそうだ。
犬型魔物はあまりにも柔らかすぎた。
数行で終わる戦闘パートなんて、味気なさすぎる。
「さて、じゃあ実験開始だ」
まずは足の筋力を増加させる。もちろん最大までだ。
ついでに腕の筋肉も最大まで増加させて……。
「フンッ!」
力み声と同時に地面を蹴って、オークとの距離を縮める。
最大増加の恩恵は大きく、一瞬で僕の間合いになった。
そうして、最大強化した拳を、オークの頭をめがけて思いっきり振りぬく!
「グォォォォォォォォォ!」
魔物とはいえ、顔面をぶん殴る感触は不快だ。
オークは青色の鼻血を出し、悶えている。
思ったより耐久値は大したことないのかもしれない。
愚かなことに僕の前で大きな隙を晒し続けるオークの顔面を、強化した足で踏みつぶした。
オークは脳髄をぶちまけて死んだ。
それを見ていた僕は、ふと思った――
――あれ?第二層も大したことなくね?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
あまりにも味気なさすぎる戦闘だったため、より強い魔物を求めて第二層を歩き回っているのだが……
「一向に強い魔物が出る気配がないな」
あまりにも強い魔物と遭遇しない。
こんなのでは実験にも実践にもならないので、第三層に向かうべきなのだろうか。
でも、第三層へ続く道を見つけるのって、正直すごくめんどくさい。
それこそ、第二層をくまなく探索しないといけないため、軽く数時間は掛かってしまう。
「でも、今後のことも考えて、今探したほうがいいのかな」
まあスキルレべルが上がっていけば、やはりもっと強い魔物を求めることになるだろうからな。
今から第三層を探すのが賢明か、そう思った矢先――
――通常、第二層では出現しえない魔物が現れた。
「グォォォォォォォォ」
地の底から発せられたような低い鳴き声、それの正体は、人型で頭部に角をつけた3mほどの巨大な魔物……
ありえない。
通常、鬼人は第五層……またはそれよりも更に深い階層にのみ現れる魔物である。
しかし、今僕がいるのは第二層、絶対に鬼人なんてスポーンしないはずだ。
深い階層に出る魔物ほど、凶暴で強くなっていく。
第二層の魔物なら楽勝かもしれないが、第五層となると話が違う。
第二層の魔物が余裕でも、第三層ではそんな人間が五人、第四層は第三層を単独で余裕で突破できる人間が五人、第五層になれば第四層を単独で余裕で突破できる人間が十人も必要である。
そんな階層に現れるような魔物が第二層に現れている、それはとても危険なことだ。
他にこの階層を訪れた冒険者が、為す術もなく虐殺されてしまうかもしれない。
そう、この問題は到底看過できるような問題じゃない。
せめて、このイレギュラーを早期発見した僕が、事態を出来る限り止める義務がある。
僕は鬼人を殺せるだろうか、否、殺すしかない。
それに失敗して、僕が殺されることになろうとも。
「それに、鬼人なら僕の実験相手には十分すぎるしね」
あえて大きな態度で振る舞い、自身を鼓舞する。
さあ、オーガよ――
――僕のスキルがどこまでお前に通用するか、いっちょバトルといこうか。
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