第6話 新メンバー加入

 

 「はい?えっと、僕はあなたを見たことなんかありませんし、そりゃもちろん会っても無い筈ですよ」


 「それは、そうです。しかし、何故かあなたからは、懐かしい気配がします。だから、もしかしたら私の……いえ、やっぱりお構いなく」


 「は、はぁ……?」


 何をいきなり訳のわからないことを言うんだこの人は……。

 しかし、彼女の言うデジャブのようなもの……僕も彼女の風貌に少し既視感を覚える。

 まるで、こことは違う……なるほど、そういうことか。


 「まあ、僕たちが会ったことがあるというのも、あながち間違っていないかもしれません。未だ、確証は持てませんが」


 「そうですか……それもそうですよね。すみません、余計な時間を取らせてしまいました。今度、何かしらのお礼をさせてください」


 「え、いや、お礼なんていりませんよ。大丈夫ですから」


 助けてくれたお礼を彼女はしたいようだが、正直、彼女を助けるためというよりはスキルの実験的な側面の方が強かったため、彼女のお礼を素直に受け取りがたい。

 だから僕は彼女の話を断ったが、しかし彼女はまだ僕に言いたいことがあるようだ。

 

 「では、お名前を教えてほしいです」


 「分かりました。……僕はビス・メンシスと申します」


 「ありがとうございます!私は……フィニス・オーシャナスと言います」


 「フィニスさんですね。これからは、あまり鬼人オーガの群れとかを見つけても、近づくべきじゃないですよ。では、これで」

 

 「はい……肝に銘じておきます……」


 僕は足早にフィニスさんのもとを離れるのだった。

 何故かって?

 早くこの大量の鬼人の素材を売り払ってしまいたいからさ!


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 僕は速攻でロジンクスに戻った。

 そうして冒険者ギルドへと向かう。

 冒険者ギルド入ると、僕は大きな袋を取り出して、受付の女性の前に置いた。

 今回の受付嬢はダウナー系か……好みだぜ。

 そんな馬鹿なことを考えていると、ダウナー受付嬢さんの方から「うっわ、マジかよ。こんなにデカい鬼人の魔石がたくさん……」と若干引いたような声が聞こえてきた。

 そんな目の前でゴキブリが潰れたときみたいな引き方しないでよくない?

 心の中で少し傷ついていると、ダウナー受付嬢さんが話しかけてきた。

 どうやら、鑑定が終わったようだ。


 「ここまで大きい鬼人の魔石となりますと、一つひとつが高い価値を持ちます。これが……袋からは31個ほどなので、これだけで金貨二枚と銀貨十七枚ほどの価値になります。それにサプレメンタム・ゴブリンの魔石が51個、サプレメンタム・オークの魔石が35個……ですので、鬼人との価格の合計が、金貨二枚と銀貨七十二枚、そして銅貨が四十枚になります」

 

 「お、おうふ……そうですか」


 「ねぇお兄さん、私と結婚してくんね?」


 「何ですかいきなり?!」


 「いや、こんなに鬼人狩れるってことは強いってことだし、お金持ちだし……」


 「清々しいくらい欲望に忠実!」


 ダウナー受付嬢さんからの求婚……正直とても魅力的だと思ったが、僕は多分ダンジョンに入り浸ってロクに家にもどらないクズ系夫になりそうなのでお断りさせていただいた。

 幸せにできる確証を得たら、是非とも結婚していただきたいものだ――


 「やっぱ根暗そうな見た目だしやめとく」


 「唐突なメンタルブレイク!僕あなたになんかしました?!」


――希望はすぐに打ち砕かれたが。

 そんなこんなで数十分ほど、ダウナー系受付嬢と軽口の応酬のようなものを続けていると……


 「あ、あのっ!ビスさんですよね!私をパーティーに加入させて貰えませんか!」


 今日助けたばっかりのフィニスさんが、手に僕の書いたパーティー募集の張り紙を持って話しかけてきた。

 どうやら、僕とパーティーを組みたいらしい。

 そういえばパーティーメンバーも欲しかったのでありがたい限りだ。

 

 「おっ、なんだビスくん、私という女がいながら浮気かい?」

 

 「あなたさっき僕は根暗だからやめとくとか言ってましたよね?」

 

 「あ、そうだっけ。すまんすまん」


 「今の凄いピキってきました」


 すっかり僕をからかうことに味を占めてしまったダウナー系受付嬢――もといアウクトリス・ヴェンタス、通称アクちゃんがヤジを飛ばす。

 アクちゃんあんたねぇ……。


 「えっと、それでパーティー加入は……」


 「え?あ、うん、もちろんオッケーだよ!」


 「本当ですか!やったー!」


 僕とアクちゃんとの会話に痺れを切らしたのか、大きめな声で話しかけてきたフィニスさんが、パーティー加入について聞いてくる。

 パーティーメンバーが欲しかった僕に断る理由なんてなかったため、快く受け入れた。

 しかも一応接点が無くはないんだし、まったく知らないおじさんとかじゃなくて安心。

 ていうかフィニスさん普通に美人……黒髪ロングにブラックダイヤと見紛うほど美しい黒瞳、少し小柄な身体は見る者の庇護欲を掻き立てる。

 こんな可愛い子と一緒にダンジョン探索が出来るというだけで、大抵の男――もちろん僕を含む――は舞い上がってしまいそうだ。

 てか、僕が実際に超舞い上がってる。

 

 「そんな目で新メンバーの子を見つめちゃって……やばー嫉妬するわー」

 

 「ああ、もううるさいヤジだなぁ!棒読みだし」


 「てへぺろ☆」


 「可愛いけどムカつくわ……てかダウナー系が可愛い路線で攻めるなや……」


 「あんたも大概ひどいじゃんか……」


 そんな新メンバー加入の余韻は、アクちゃんの盛大なヤジによって儚くも霧散してしまった……。

 アクちゃん、お前ほんまそういうとこやで……。

 てかいつの間にか綺麗さっぱり敬語消えてるし……僕は冒険者ギルドの会員だぞ、敬意を払え敬意を。

 

 「あんたに敬意払ったら人間として終わりだよ」


 「心を読むな!そして読むついでに抉るな!」


 こ、こいつ……人の心も読めるのか……。

 結局、その日は晩までアクちゃんと話し込んでしまったのである。

 フィニスさん、置いてけぼりになるかと思ったけど、アクちゃんと秒で仲良くなってた。

 これが同性同士の力というやつだろうか……。

 またアクちゃんが冒険者ギルドの仕事入ってるときにちょっかいを出しに行こっと。

 明日は何をしようかな。

 取り敢えずは、フィニスさんのスキルとか戦闘とかを見て判断しようか。

 もしかしたら、彼女のスキルによっては、僕のスキルがもっと活かせるかもしれない。

 もちろん、『死神タナトスの御指』でも十分ではあるけど。

 色々な明日のダンジョン内シュミレート、もとい妄想を繰り広げながら、僕は宿に帰るのだった。

 宿に着いた僕は、部屋に戻って休んでいるのだが――

 

――フィニスさん、なんで僕の部屋に入って来てんの?!


______________________________________


 今回は少しコメディを強めにしてみました。

 軽口の応酬とか、書いてて割と楽しいです。

 ちなみにアウクリトス・ヴェンタスちゃん……通称アクちゃんは私がこの作品で一番好きなキャラです。名前にもそれは表れています。

 

 さて、この作品には魔物の魔石を換金する場面がございます。

 というわけで、魔物一体一体の魔石の価値です。

 

 ゴブリン:銅貨二十枚(二千円)

 オーク:銅貨五十枚(五千円)

 コボルト:銅貨七十五枚(七千五百円)

 鬼人:銀貨七枚と銅貨三十枚(七万三千円)

 

 サプレメンタムシリーズの魔物は、オリジナルの魔物の魔石の価値の丁度二倍となっています(例えば『サプレメンタム・ゴブリン』の魔石の価値はオリジナルである『ゴブリン』の魔石の価値の二倍であるため、銅貨四十枚の価値になっている)。


 まあ銀貨四十枚ってのを4話で書いちゃって、それで辻褄が合う値段設定がこれってことです……。

 

 今後も設定の補足とかは、ここで行います。

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 コメントも嬉しいです。  

 今後とも、拙作をよろしくお願いいたします。

  

 


 

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ダンジョン冒険者なった僕、チートスキルで最強になる。 あるままれ~ど @arumama_red_dazo

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