第3話 鬼狩り

 先に攻撃を仕掛けるのは僕の方だ。

 僕は自身の筋力を最大まで増加して、鬼人オーガに肉薄する。

 そして自分の間合いまで距離を詰めて、鬼人の鳩尾をぶん殴る。

 しかし、鬼人は難なくそれを回避、拳は虚空を撫ぜる。

 流石に第五層の魔物は反応速度や運動能力が、第二層の魔物と段違いである。

 ハッキリ言って次元が二つくらい違う。

 が、その程度でへこたれることもなく、僕は空ぶった拳をすぐさま引き戻し、鬼人に連撃を仕掛ける。

 最初はもう片方の鳩尾、次は顎、次は金的……ありとあらゆる人型魔物の弱点を正確に打ち抜こうとするも、鬼人はやはり回避してくる。

 これでは攻撃が当たらないため、実験にはならない。

 やはり鬼人となると、一筋縄ではいかないようだ。


 「グォォォォォォォォォォ!」


 鬼人もそろそろ僕の攻撃にうんざりしたのか、痺れを切らした様子で、僕を攻撃しようとする――


――速い!気を抜いたら見失ってしまうくらいの速さだ。

 しかし、集中すれば避けれない程ではない。

 鬼人の動きをしっかりと見て、鬼人が攻撃した瞬間に避けて、その隙を反撃しよう。

 しかし、鬼人は思いもよらない行動をとる。


 「ブワァァァァァァァァァァ!」

 

 獣のような咆哮をあげる鬼人……すると、その声に引き寄せられて第二層の魔物がぞろぞろとこちらに近づいてくる。

 残念なことに、増援を呼ぶ機能まであるらしい。

 僕相手に攻撃を当てようとしても、まだ時間の無駄でしかないことを悟ったらしい。

 そのため、僕に第二層の魔物の相手をさせて、生まれた隙を突こうという魂胆か。

 魔物のくせに、やはり第五層以上の階層となると、知能まで上がるのか。

 さらに、魔物は鬼人の声によって興奮状態になっているようで、凶暴性がかなり増しているように見える。

 興奮状態のオークが、木製のこん棒を振り回して、僕に肉薄する。

 僕はオークの顔をパンチでぶっ飛ばして、すぐに頭を踏みつぶす。

 そして、オークに気を取られている隙に、鬼人は僕に蹴りを放つ。

 非常に嫌な戦い方だ。

 鬼人の蹴りを紙一重で躱したら、今度はゴブリン三体が僕に襲い掛かる。

 ゴブリンに殴られる前に、ゴブリン一人ひとりの頭部をパンチで吹き飛ばした。

 ……待て、今のでレベルが23になった。

 それはそうか、魔物を沢山狩っているのだからスキルレベルやレベルが上がるのは当たり前だ。

 つまり……


 「おい、馬鹿鬼人!もっと友達作ったらどうだ?これ以上の増援は難しいんだろ?お前弱いし友達少ないし」

 

 僕の言葉を鬼人は理解したのか、額に青筋を浮かべて、もう一度咆哮をあげる。


 「ブワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 さっきよりも長い方向は、更に多くの魔物を引き寄せる。

 そうして超大量に来た増援を、僕は鬼人の攻撃に注意しながら殲滅していく。

 これによってレベルが上がる……レベルが一気に26になった。

 雑魚魔物とはいえ、やはり数の力は馬鹿にできない。

 スキルレベルは8にまで上がっていた。

 増減範囲の拡大はいつも通りとして、非常に面白い強化が入った。


 『無機物にのみ有効。この時、スキル発動者を生命活動の有無を問わず、無機物と見なす。また、この時、スキル発動者に対する増減の効果を2倍にする。物理的にのみ有効。増加範囲:単位に関わらず、最大50。減少範囲:単位に関わらず、最大50』


 とんでもないチート追加効果だ。

 例えば僕が10くらい自身の筋肉を増加させるとする。この時、僕に対する増減の効果は二倍なので、実際の増加にかかる筋肉の増加は20となるわけだ。

 それならば最大で100の筋肉を増加させることが可能なわけで……。

 単純計算で、現在の身体能力の2倍である。

 これならば、鬼人にも勝てるかもしれない。

 こんなに魔物を呼んで、僕のレベルアップに貢献してくれた鬼人に感謝だ。

 僕はまた自分にスキルを発動する。

 僕の筋力はいつもの2倍も増加した。

 そうして得た速さ、パンチの重さは、それぞれが2倍されていることで、通常の4倍もの力を叩き出せる。

 僕は鬼人に突っ込む。

 鬼人は急に素早くなった僕に驚き、一瞬だけ隙を見せる。

 それを見逃さずに、鬼人の鳩尾に4倍パンチを食らわせる。

 今度は鬼人の回避が間に合わず、鬼人の鳩尾にクリーンヒットさせることができた。

 しかし、流石第五層の鬼人、数瞬だけ怯んだ後、しっかりと僕を距離を取ってきた。

 やはり賢いな……。

 大分長期戦になりそうだ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 何時間も経ったと思う、始めて鬼人に攻撃を当ててから、鬼人は僕の攻撃を警戒するようになり、攻撃は当たりにくくなった。

 しかも、避けられては仲間を呼ばれ、毎回雑魚にも気を取られるため、いい加減にスタミナが限界だ。

 しかし、この数時間の攻防が無為であるわけでもない。

 度重なる雑魚の殲滅、その末に、スキルレベルは大台の10を突破した。

 その強化されたスキルの真価が発揮される。


 『全ての物質に有効。能力発動時、スキルの対象がスキル使用者だった時、増減効果が2倍になる。物理的にのみ有効。増加範囲:60。減少範囲:60』


 スキルの対象に、有機物が追加された。

 間違いなく最強の能力へと昇華する。

 レベルも30まで上がっていた僕は、自身の筋力を超増加させる。

 そうして強化した身体能力で、鬼人に突貫する。

 それでも、鬼人はこのスピードに対応してくる。

 それで仲間を呼ばれそうになる直前、僕の手が鬼人に触れる――


――僕は、鬼人にスキルを発動した。

 発動効果を念じた瞬間、先程までは俊敏な動きでこちらの攻撃に対応していた鬼人のフィジカルが、明らかに鈍る。

 僕のスキルが有機物にも対象を追加したことで、僕は様々な戦い方が出来るようになった。

 自身の強化したフィジカルだけでは絶対に勝てない相手も出てくる、それを今回、より強く実感した僕は、単純明快で効果的な方法を見つけた。

 僕の能力は、あるものを減少させることだってできる。

 つまり、僕が自分に筋力の強化を施したのとは逆の、筋力の弱化を鬼人に発動したのだ――


――否、正確な弱化は筋力に留まらない。

 僕は鬼人の質量や体積までも、僕のスキルの最大限まで減少させた。

 5mほどもあった鬼人の身体は、今や30cm程となり、その小さい身体ではちょっと強風が吹いただけで飛んでしまうに違いない。

 そうなってしまった鬼人は、もはや弱々しい雑魚魔物と変わらない。

 僕の勝利は決定的なものとなり、逃げようと画策する鬼人を、迷いなく最大強化した脚力で踏みつぶすのだった。


 第五層魔物との対決は、数時間の激闘の末、最後にはあっけなく終わった。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る