第43話:迫真の演技/アーティファクト研究会






「あなたに全ての財も、私自身も差し上げます。 ですからこちらに寝返ってくれませんか、傭兵さん?」


 演技練習が始まった。

 まずはそれぞれ台本を熟読し、俺とマロは読み合わせすることになった。


 マロは普段、感情の起伏が薄い。

 しかし意外にも演技となると、表情豊かな迫真の演技を披露した。


「いいぜ。 その話乗った」


 一方俺は平凡的な素人役者である。


 ただでさえ下手なのに、マロと対比することによってより俺の演技の拙さが目立っている。


「マロ……実は演技の経験あったりする?」

「似たような光景を見たことあるから……思い出しながらやってみた」


 演技の経験はなくともさすが勇者、イベントの経験は豊富なようだ。


 とはいえその記憶をトレースできるたり演者としての素養は高く思えた。


「こうなると俺の演技力向上が急務かもしれない」

「頑張って」


 そんな問題がありつつも俺たちは通しで、読み合わせを行った。


 この脚本においての見せ場は、


――王女と傭兵が契約を結ぶシーン。


――傭兵が命を懸けて王女を救うシーン。


――そして二人が結ばれ口付けするシーン。


「報酬は必要ない。 俺は本当に欲しいものは別にある」

「それは一体なんですか?」

「お前の心が欲しい。 アリア、愛してる」


 最後のセリフを終えると、俺たちは顔を近づけて口づけする振りをして演劇は終幕である。


 しかし頬を染めるマロの表情があまりに迫真で、本当にこのまま口が重なるんじゃないかと心臓の鼓動が収まらない――


「ちょ、ちょっとストップ!!」


 マロが顔を離して首を傾げた。


「終わり! 振りだから!」

「ああ、忘れてた」

「忘れてたって……どんだけ役に入り込んでるんだよ」


 マロは淡々ととんでもないことを言うが、もし俺が止めなかったら一体どうなっていたことか。


 まあマロは俺とキスしたところで全く気にしなさそうではあるけれど。

 

「これは俺が気を付けないとかな」

「うん、任せた」

「自分でコントロールしてくれ……」


 俺は気が抜けて深く息を吐く。

 見ていたツナオたちもマロの演技に引き込まれていたらしく我に返ったように、拍手をした。


「素人目にはプロの演者とそん色ないように見えたよ!」

「本当にすごい! 僕、感動しちゃった!」

「早く私も戦う演技をしたくてうずうずします」


 ツナオは賛辞を送りつつ、苦笑いした。


「ただ公衆の面前で勇者マロが口付けなんて、演劇どころじゃなくなっちゃうからエクリオ頼むよ」

「分かった。 マロに引き込まれないために、俺は演技より精神力を鍛えるべきかもしれないな」


 そんなスキャンダルを起こせば俺が観覧していた男子に嫉妬で何をされるか分かったもんじゃない。


「それじゃあとりあえず各自、自主練して三日後に全体練習をしよう」


 演劇とはいえ何か月も練習している時間はない。

 ミスなくこなせるよう流れを確認し、後はひたすら全体で合わせつつ俺の演技力を少しでも上げることくらししかやれることはないのだ。


「うん、それでいこう。 あくまでメインは音楽と録音機だしね」


 俺はそれから前世で、文化祭などのイベントに参加しなかったは陰キャな学生時代を思い出しつつ、今世はずいぶん充実していると実感しながら過ごすのであった。





「おいおい、なんだこの殺風景な研究室は……ホントに研究しているのか?」

「研究室じゃないですよ、部長。 ここはゴミ捨て場ですよ?」

「おっと、そうだったな! この私としたことが間違えてしまった、はっはっは!」


 ある日の遺物研究室で、演技の練習をしているところ突然やってきた二人の男が大声で話し始めた。


「……誰かの知り合い?」

「知らない」

「あんな失礼な知り合いは特にいないかな?」


 遺物研究会のメンツに彼らを知っている者はいないらしい。


 すぐに立ち去る様子もなく、こちらに視線を向けているので仕方なく俺は彼らに尋ねた。


「何かご用ですか?」

「いんや? ゴミを研究するバカがいると聞いて見物に来たまでさ」


 遺物が散々な扱いを受けているのは知っていた。


 しかし仮にも自由を謳う学舎で、直接言われるとさすがに腹が立つ。


「君たちは演劇をやるんだってね?」

「そうだけど?」

「はっ! 文化祭はお遊戯会じゃないんだ……神聖な学問の祭典を汚すのはやめてほしいものだ。 とはいってもゴミの研究会が審査を通れるとは思えないから、いらぬ心配だったかな? まあそれでも同じ学園に通うよしみで、恥をかく前に辞退することを勧めるよ」


 彼らは言うだけ言って研究室を去っていった。


 あまりの酷い言葉に呆然としてしまった俺だが、我に返るとさすがに言い返してやらねばと彼らを追いかけようとした。


 しかし焦る必要はなかった。

 彼らは隣の研究室へと入っていった。


『アーティファクト研究会』


 彼らの研究室を確認して、俺は嗤うーー


ーー絶対に審査を通って、目にもの見せてやる。


 そう誓った俺はその日からさらに演技練習に打ち込むのであった。






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小国の悪役貴族の息子に転生したけど、魔改造スキルで直した遺物を駆使して、田舎でのんびりスローライフするはずが大国や帝国のお偉いさんが放っておいてくれません すー @K5511023

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