第8話 僕みたいに怯えなくてすむようにするためだ
ヒジリについて行くと、ミヤビに声をかけられた場所まで戻り、林の中に入る。奥に進めば進むほど虫やフクロウが鳴り響く。川の近くの小屋でヒジリは止まる。
「ここは入ったら駄目だってミヤビに」
「霊力を扱うことのできないアリスにとっては死地そのものだけれど一緒に入れば別。ここは霊力を鍛えるにはうってつけ、心を無にして基礎を固めます。まずはそこから始めましょう。その為には厳しい座禅と滝行をします。今の時期にはうってつけですからね。」
霊力に対し私はアマチュアだ。基礎から仕込むのはそれらしいやり方だと思う。小屋の中に入り、居間を通り抜け廊下に来た。
「さぁここまで来てください。正座です。」
「グズグズしない。すぐ正座です。」
どこから出したのか、ヒジリは竹刀を床に叩き威嚇を示した。
「ここから先はあなたの知ってる常識の世界とは違います。霊力だけが物を言う世界。あれば生き残る、ないものは喰われる。それを肝に命じなさい。」
言われるがまま正座をする。
「膝の上に両手を置き、円の形を作って下さい。集中して、自分の膝の上には何が見えるか分かりますか?」
うっすらと見えた青い玉の形。微かな玉ではあるがそれは強い光を放っていた。とても美しくサファイアのように輝いていた。小さく頷くことで返事をした。
「それがあなたの霊力。基盤も何もない状態で霊力が見えるのはいい兆候です。
続けなさい。」
黙々と続ける。サファイアの中には私の好きな精霊(スピリット)がいた。それはとても小さく。殻に閉じ篭もる子供みたいだった。
ここまで見えたところで駄目だ。体が熱く燃え上がり倒れそうだ。
「限界を自分で作っては行けません。そこからさらに深淵を覗きなさい」
気持ちは続けたいが体が限界を訴えてしまい目を瞑ったまま私は倒れた。
どこからか微かな声で聞こえた。
「大丈夫!貴方には私がついてるよ!」
疲れてそんな幻聴までとうとう聞こえてしまった
「無理をさせてしまって申し訳ないです。時間はありません。これからも続けます。頑張って下さい。」
しばらく目覚めることがなく、私は眠った。
目を覚ますと暗闇だった。視界はとられ全くわからない状況。こんなことで焦ってはいけないと思い、体を起こし深呼吸をした。襖の開く音がした、誰かが近づいてくる
「おはようございます。初日にしてはよくやりました。この訓練をすると普通は霊力を見ようとしたら倒れるのが一般的です。あなたはよく健闘しました。
おめでとう、ですが本番はここから五感のうちの1つを使う事なく1日過ごす事。まずは霊力で視界を捉えること。次に読唇術、霊力だけで何が自分に触れてるか感じることなど順番に行います。それができたら五感すべてを霊力に変えること。それができたら次の修行にいきます。」
ヒジリは淡々とやる事を述べる。先が長く、追いつこうと思ってもその背中に追いつくことすら今の私にはできない。
「なぜそこまで霊力を重視するの?」
それだけ聞ければ私はいい。修行を行う為のモチベーションにつながるからだ。
「中途半端な霊力は自分だけでなく周りも殺す、僕みたいに怯えなくてすむように施せる事は全てやるんです。後悔は自分を死ぬまで残りますからね。それでは視力の修行から始めます。」
それからヒジリとの修行に私は励んだ。その甲斐もあり、時間のかかると思った修行は1ヶ月足らずで全てクリアした。朝の日課の滝行を終えた後、最後の修行があるとヒジリに呼び出された。
「貴方に叩き込んだのは霊力だけで生きる術。実戦を通し貴方には結界を張ってもらいます。それができたならば教えることは何もありません。行きましょう」
ヒジリと共に家から出た。
転生?いえいえただの世直しです。 東雲アリス @sb030406
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