規制趣旨を理解できない杓子定規な法律家

 カクヨムでは自主企画にて読み合いを推奨する者がいる。これは当然だ。経験則から言わせてもらえば、カクヨムというプラットフォームでは、小説を投稿するだけでは誰の目にも留まることがない。ある程度貪欲かつ積極的に自作品を露出する機会を得ようとしなければ、そこら中に溢れかえった創作物の濁流に呑まれて見向きもされずに終わるだけだ。


 すると、読み合いを推奨する自主企画に対抗するべく、カウンターカルチャーとして「読み合い反対派」が近頃台頭しているように思う。現時点(2023年11月25日16時)も、読み合いという行為がカクヨムのガイドラインに反する悪行であるとして、これを糾弾するかのような趣旨で設立された自主企画を確認した。ふむ。では問うが、具体的に読み合いがカクヨムのガイドライン上、どの条項に反しているのかご指摘願いたいものだ。


 仕方ないな。僕も弱小作家として、読み合い自主企画を繁く利用する立場だ。正確な論拠も示さないまま、まるでアレルギー反応かのように読み合い文化を否定する者らに反論するべく、果たして「読み合い」という行為自体が本当にカクヨムで忌避されるべき文化なのか、重い腰を上げて独自に紐解いていくとしよう。


 まず、読み合い反対派が拠り所にしていると思われる自主企画に関するカクヨムのガイドラインを参照したい。本文は、はじめてのカクヨムガイド→概要→カクヨム小説投稿ガイドライン→「自主企画の利用について」を確認されたし。


【以下引用】


 自主企画は、ユーザーの方が自発的にカクヨム上でイベントを開催し参加者を募ったり、開催中のイベントへ参加したりするための機能です。


「主催者が参加作品に無条件でおすすめレビューや応援やフォローを与える」、「参加者同士で相互評価・ギフトの贈り合いを確約している」、「特定の作品へ誘導している」、「実際に出会うことを目的としている」、「営業、宣伝、勧誘、募集をしている」等の企画は削除する場合があります。また、他ユーザーに混乱や不信感を与える、コミュニケーショントラブルに発展する恐れがある時には、運営より連絡を差し上げる場合があります。なお、政治や宗教活動と捉えられる行為は、規約違反となります。(利用規約第14条1.19)


【以上引用】


 なるほど。では、当該項目が何を意図して設けられたものなのかを突き詰めるに当たって、順を追って各要件の規制趣旨を考察していくことにしょう。


 まず「主催者が参加作品に無条件でおすすめレビューや応援やフォローを与える」について。この手の自主企画は良く見かけるが、要は「無条件で」ってとこが大事だ。誰もが必死になって取り組んだ結果として得る評価を、作品に目を通すこともなく適当にばら撒く輩が現れては拙い。気を付けておくれ。


 次に「参加者同士で相互評価・ギフトの贈り合いを確約している」だ。おそらく、読み合い反対派が主張するところは、まさにこの点ではないかと推測する。確かに、数ある読み合い企画を覗いてみると、企画主が参加者たちへ読み合いに付随して相互評価をしているような書き込みは散見されるものの、読み合いというのはあくまで作家同士が互いの作品を読み合うだけだというのであって、相互評価・ギフトの贈呈をしているとまでは言い難い。この点については後程、改めて振り返ることにしよう。


 「特定の作品へ誘導している」という文言は、それが何を意味しているのか解釈が分かれそうなところだ。どうしても自作品を読まれたいユーザーが、もっぱら自身の作品へ参加者を誘導するため、あるいは特定の第三者の作品への誘導を目的として設立した自主企画は削除の対象となるのかもしれないが、そのようなことを目的としていない純粋な「読み合い」企画とは関係ないように考えられる。


 「実際に出会うことを目的としている」か、これは論外だ。マッチングアプリのインストールをお勧めする。「営業、宣伝、勧誘、募集をしている」については、およそ小説作品のことを指しているというよりも、カクヨムに投稿される小説とは関係のない創作物についてを言っているものと思われる。


 注意してほしいのは、ここで挙げられている自主企画の形態につき、カクヨム運営側はこれらに該当すると認められる企画を「削除する場合があります」と言及するに止めているということだ。それが何を意味するのかを考える前に、カクヨムの利用規約第14条「禁止事項等」の項目も参照しておこう。


【以下引用】


 第14条(禁止事項等)

1.利用者は、次の行為をおこなってはならないものとします。

 1.本サイトまたは本アプリを逆アセンブル、逆コンパイル、リバースエンジニアリング、その他本サイトまたは本アプリのソースコード、構造、アイデア等を解析するような行為

 2.本サイトまたは本アプリを複製、改変、翻案、他のソフトウェアと結合等する行為

 3.本サイトまたは本アプリに組み込まれているセキュリティデバイスまたはセキュリティコードを破壊するような行為

 4.コンピュータウィルス等の不正なプログラム等を送信する行為

 5.本サービスに対するクラッキングを試みる等、本サービスに対する不正な働きかけをする行為

 6.複数のアカウントを取得する行為

 7.当社が指定した作品と異なる作品の二次創作作品を本サービスに投稿する行為

 8.当社が指定した作品の二次創作作品を本サービス外で公開、送信、配布する行為

 9.当社または第三者の知的財産権、肖像権、パブリシティ権、名誉権、所有権その他一切の権利を侵害する行為

 10.当社または第三者に損害その他何らかの不利益を与える行為

 11.犯罪行為、および犯罪を助長する一切の行為

 12.法令または公序良俗に違反するまたは違反するおそれのある行為

 13.当社の承認を得ずにおこなわれる営利目的の行為

 14.メールアドレス・電話番号を公開及び交換する行為

 15.当社又は第三者になりすます行為

 16.性行為やわいせつな行為等を目的として利用する行為、わいせつ、児童ポルノ等の画像を投稿する等の行為

 17.自殺、自傷行為、殺害、虐待等を誘引、助長する行為

 18.過度に暴力的またはグロテスクな表現、画像等を投稿する行為

 19.政治的、宗教的行為またはこれに関連する行為

 20.自己または第三者の個人情報、行動履歴その他個人を特定することができる情報を不正に収集、開示、送信する行為

 21.他人に不快感や誤解を与えるようなユーザー名を使用する行為、当社あるいは他人、一般的に知られている社名、団体名、商品名、ペンネームと誤解されるような同一あるいは類似のユーザー名を使用する行為

 22.本サービスの利用権を第三者に再許諾、譲渡、移転またはその他の方法で処分する行為

 23.本サービスに付されている著作権表示およびその他の権利表示を除去または変更する行為

 24.本サービス又は第三者のサービスの運営を妨害する行為

 25.当社若しくは第三者に信用の毀損若しくは財産権の侵害等の不利益を与える行為又はその行為が前各号のいずれかに該当することを知りつつ、その行為を助長する態様でリンクをはる行為

 26.第三者が前各号に該当する行為をおこなうことを助長する行為

 27.その他当社が不適当と認める行為


【以上引用】


 まさか馬鹿正直に全部読み上げちまったってのか。折角これから内容を掻い摘んで解説していこうとしていたってのに、勉強熱心なこった。


 ここで列挙されている27項目、これがカクヨム上で運営側がユーザーに禁止している行為の一覧表ってとこだな。裏を返せば、ここに記載がない行為については、運営様のお墨付きを以て許容されるということだ(一部例外もあるが、それは利用規約の全条文を確認されたし)。


 ついさっき、運営側が削除対象としている自主企画の形態について説明したな。例えばそう。「実際に出会うことを目的としている」自主企画について、これが何故削除されるのかと問われるのであれば、カクヨム利用規約14条1項9~16, 20, 26, 27号辺りに抵触する恐れがあるからだと答えることができる。「営業、宣伝、勧誘、募集をしている」自主企画についても、違反し得る項目はいくつか見つけられるだろう。


 カクヨム運営側が自主企画を「削除する場合があります」と、わざわざ慎重な言葉遣いで記載している理由は、まさにここにあると思われる。「主催者が参加作品に無条件でおすすめレビューや応援やフォローを与える」、「参加者同士で相互評価・ギフトの贈り合いを確約している」、「特定の作品へ誘導している」、「実際に出会うことを目的としている」、「営業、宣伝、勧誘、募集をしている」等の企画、その全てを杓子定規に取り締まろうというのではなく、あくまでもカクヨムが掲げた禁止事項のいずれかに該当した場合に、やっとその企画を削除する大義名分が生じるからだ。


 そのように解釈すれば「主催者が参加作品に無条件でおすすめレビューや応援やフォローを与える」とか「参加者同士で相互評価・ギフトの贈り合いを確約している」などの自主企画は、カクヨム利用規約14条1項27号「その他当社が不適当と認める行為」に該当しない限りにおいて、許容されるべきと考えることができる。やったな。被告人「読み合い」氏は、これにて無罪放免だ。


 なに。「いやいや、だったら読み合い行為が運営側に不適当と認められる可能性もあるってことだろ」だって。ほう。では、どうして今なお次から次へと新たな読み合い企画が設立され、カクヨムユーザーの間で利用されているというのだ。その実態を運営側が認識していないとでも言いたいのか。


 読み合い企画が長きカクヨムの歴史において淘汰されていないのは、運営側が読み合いという行為それ自体の存在を認識しつつも、今日に至るまで黙示的に許容してきたことで謂わば慣習法化した結果と言うべきだ。要するに、運営側が規制権限を行使しようとせず、問題とされていない文化なのだから一般ユーザーがあれこれ口出しするような案件じゃないってこった。


 「んな無茶苦茶な……」と呆れたか。しかしだな、カクヨムの利用規約を参照する限り、運営側が危惧しているのはユーザー間によるトラブル、犯罪行為だ。クラッキング、著作権侵害、公序良俗違反なんて単語がつらつらと禁止事項に書かれていることからも明らかだろ。自主企画の参加者が、あくまで牧歌的に「皆でお互いの作品を読み合って知名度を獲得し、ついでに自らの語彙力や表現力を鍛えて作家としてレベルアップできるように頑張りましょう!」と仲良くやってるのが、そこまで悪質な行為なのか。


 カクヨムの掲げる利用規約を拡大解釈して、運営側の規制趣旨を正しく理解しようとしないまま「ダメなものはダメ」と言ってのける法律家たち。いや、あんたらは最近巷を騒がせている所謂「私人逮捕系YouTuber」のように、自分勝手な論理を振り翳して世間に不信感をばら撒くだけの迷惑な存在だ。世の中、見えるものだけが全てじゃないってことを肝に銘じておくんだな。


 ――おしまい。


 

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貴方の心の目安箱【短編集】 yokamite @Phantasmagoria01

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