幼いころに、政略結婚が決まった私に、幼馴染は私を護ると誓ってくれました

甘い秋空

一話完結:あのね、私、第一王子様と政略結婚しなさいと、女王陛下から言われたの



「あ、豚公爵を発見、逃げろ!」

 笑い声を上げて、9歳で金髪の第一王子が逃げだしました。


 午前の気持ちの良い日差しの中、王宮の中庭で、幼馴染3人が、冒険ゴッゴで遊んでいる時でした。


 前を見ると、ガゼボの日陰の中で、豚公爵がお気に入りのイスで本を読んでいます。テーブルの上には、白ワインの瓶がバケツで冷やされています。


 豚公爵は、本来は王弟陛下なのですが、呪いで豚の姿、手足は人間ですが、体形、そして顔が豚になっています。



「王弟陛下、ご休憩中に申し訳ありません」

 7歳の私は、カーテシーをとります。


「お嬢ちゃんは、奇麗な銀髪だ。侯爵家のギンチヨちゃんだな? 楽にしなさい」


 豚公爵は、まだ幼い私のことをご存じでした。驚きです。



「叔父上、いつになったら俺に稽古をつけてくれるのですか」


 7歳で艶のある黒髪の第二王子が、ふくれた顔で、でも、うれしそうに話します。


「クロガネが、漢の覚悟を見せてくれたらな」


 豚公爵は、飲みかけのワイングラスに手をのばしました。



「おーい、そんな腰抜けを相手にするな、こっちに来いよ」


 第一王子が遠くから呼びかけてきました。


 急いで、駆け寄ります。



「あいつは、戦争で功績を上げれなかった腰抜けだ、話をする必要はない」


 第一王子は、豚公爵が嫌いなようです。


「俺は、王弟陛下は危険な囮役を務めた勇気ある戦士だと、そう思っています」


 第二王子が、反論します。


 多くの部隊が全滅する中で、豚公爵の部隊だけが、無傷で王都に帰還しました。


「国王陛下であった父は、勇敢に戦って、敵国の国王を倒したんだ」


「俺は、相打ちだったと聞いている」


 戦争は、両国の国王が倒れ、終結したと聞いています。領地は荒れ、多くの貴族と兵士が命を落としました。


「この僕は、父のように勇敢に戦う。逃げることなんてしない」


「俺は、大局を見て、後退するのも作戦だと思います」


 二人の王子は、まだ初等部だというのに、難しい話をします。



「いたぞ! ガキだ」


 突然、男の声が聞こえました。怪しい二人組が走り寄ってきます。


 冒険ゴッコで護衛兵から逃げてきたので、今は子供3人だけです。


 私は、訓練されたとおり、王子たちの前で立ちふさがり、彼らが逃げる時間を稼ぎます。


「うわ~」

 第一王子が奇声を上げながら逃げます。訓練したとおりです。



「小娘が、邪魔するな」


 襲ってきた男の一人が私に殴りかかります。痛いだろうな、とても怖いですが、睨みつけます。


「ガッ」

 吹き飛んだのは、訓練とは違い、私の前に立ちふさがった、第二王子でした。



 何が起きたかわからず、私は一瞬硬直しました。その短い時間で、大きな体が、襲ってきた男たちを、殴り倒しました。


 見上げると、私の前に立っていたのは、豚公爵です。



「クロ君!」

 慌てて、私が護るべきだった第二王子に駆け寄ります。


 殴られて吹き飛んだ彼は、立ち上がろうとしていますが、ホホは腫れあがり、口の中が切れているようです。



「光魔法で治癒します」


「まちな、お嬢ちゃん。漢が心のキズを癒すには、体のキズが必要なんだ」


 私が第二王子を治癒するのを、豚公爵が止めてきました。なんで? 瞳に涙が滲みます。



「第二王子様、どこですか」


 護衛兵の声です。助かったと安堵して、私は座り込みました。


 豚公爵は、どこかに立ち去ったようです。


 よくわからないですが、私の瞳から涙がこぼれ落ちました。



    ◇



 ここは女王陛下の執務室です。


 午後に、豚公爵と私が呼び出されました。


「ギンチヨは、王弟陛下から助けられたと証言していますが、間違いないですか」


 女王陛下が、豚公爵に聞きます。


「知らないな」


 豚公爵が否定します。彼の左の眉毛が少し上がりました。


「二人の王子が、護衛兵と一緒に、敵国の誘拐犯を返り討ちにした。それで良いだろ」


「貴方は、いつも、手柄を他に譲るのね」

 女王陛下がうつむきました。



「戦争の時だって、貴方の手柄なのに、亡くなった兵士たちの手柄にしたんでしょ」


「知らないな」


 豚公爵が否定します。また、彼の左の眉毛が少し上がりました。



「話は変わりますが、ギンチヨ。先ほど、貴女の屋敷に使いを出しました」


 女王陛下が真剣な顔で、私に告げます……



    ◇



 王宮のガゼボです。夕焼け空がきれいです。


 豚公爵のお気に入りの椅子ではなく、ベンチに、顔中に包帯を巻いた第二王子と二人、腰かけています。


「あのね、私、第一王子様と政略結婚しなさいと、女王陛下から言われたの」


「でも、10年後には、婚約破棄されるんですって。それまでに第一王子様の花嫁さんを探すんですって」


「王弟陛下は反対してくれましたけど……だから……」


 言いたいことが、たくさんあったはずなのに、もう涙で言えません。



「俺は強くなって、ギンを護る」


 クロ君が、キズの痛みをガマンして、誓ってくれました。


 私は、彼の唇のハレを、光魔法で治癒しました。彼の唇が、夕焼けで赤く染まりました。



    ◇



「あれから、10年が経ちましたね」

 私は、つぶやきます。


 第一王子との政略結婚は、予定とは違って、彼の浮気が原因で、破棄になりました。


 王宮のガゼボです。もう黄昏時で薄暗いですが、ライトは点けないでいます。


 ベンチに、顔中に包帯を巻いた男性と二人、腰かけています。



 薄暗い中でも、艶のある黒髪が分かります。


 また顔中に包帯を巻いているのは、今回も、私を護ろうとした結果です。



「俺は強くなって、ギンを護る」


 クロガネ様が、キズの痛みをガマンして、誓ってくれました。




 私は、彼の唇のハレを、光魔法で治癒し、黄昏時の中、そっと唇を近づけました。




━━ fin ━━



あとがき

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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幼いころに、政略結婚が決まった私に、幼馴染は私を護ると誓ってくれました 甘い秋空 @Amai-Akisora

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