第20話 芋聖女、推しグッズを作る

 屋敷に戻ってきた私は早速ある準備に取り掛かっていた。


 食料になる魔物の準備ではなく、じゃがいも畑の準備でもない。


「私は今日から木工職人になる!」


 用意したのは手の平サイズの木と小さなナイフだ。


 本当はセイグリットのアクリルスタンドが作りたかった。


 ただ、プラスチック板やレジンが存在しているわけがない。


 この世界にレジンの樹脂となる木があるのかもわからない。


 だから手に入れたのは、暖炉の火になる薪だった。


 薪なら屋敷の中にあるため、失敗しても何回でも作ることができる。


 ただ、できた手作りの推し活グッズは世界に一つしかない。


 失敗しても推し活グッズには変わりないのだ。


 そもそも推しのセイグリットを描いた木を燃やすのは、私の精神的に耐えられないだろう。


 だからなるべく失敗をしないように、筆を使って薪にセイグリットを描いていく。


「お嬢様は相変わらず才能の無駄遣いをしていますね」


 私はインカに褒められているのだろうか。


 どこか貶しているような気もするが、寛大な私はそんな小さなことを気にしない。


 今はセイグリットを作ることに全集中をしたいからね。


「眉毛はもう少し凛々しかったかな」


 脳内に焼き付けたセイグリットを何度も脳内再生をしていく。


 あわよくば薄ら描かれていないのかと思い、ゲームの中で真っ黒な顔から表情を読み取っていたからね。


 いつも見ている顔を脳内再生させることぐらい簡単だ。


 それに伊達に絵を描きまくったわけではないからね。


 グッズがなければ自分で描くしかない。


 攻略対象の兄なんて、立ち姿絵が一枚あれば十分だ。


 制作側はその絵を何回も使い回しすれば良いからね。


 そんな私のセイグリット推しに本人も呆れるぐらいだ。


 普通はこんなに愛されたら嬉しいと思わないのだろうか。


 ちなみに私はそうは思わない。


 だって気持ち悪いじゃん。


 でも、一般人とは違い、セイグリットはアイドルみたいな存在だからね。


 たまに私に対して、セイグリットが戸惑っている顔や引いている顔を見るとそれも嬉しくなる。


 見たこともない推しの一面が見ることができるからだ。


 私はナイフを手に取ると、書いた絵に合わせて彫っていく。


 本当は彫刻刀のようなものがあればやりやすかったのだろう。


 ただ、あるのはナイフだけだ。


 手を切らないように、まずは木に書いた絵を切り抜くところから始まる。


「お嬢様、それだと頭が飛び出ているセイグリット様になりますよ」


 私は忘れていた。


 二次元に書いていたものを三次元にするのが大変なことを――。


 今まで自分で描いたものをアクリル板やレジンを使って、推し活グッズを作っていた。


 3Dの推し活グッズは作ったことがなかったのだ。


「ぬあー、セイグリット様難しい!」


「私がどうかしましたか?」


 声が聞こえた方に振り向くと、そこにはセイグリットが立っていた。


 さっきまでメイドのインカがいたはずなのに、いつのまにか姿を消していた。


「本当はセイグリット様のアクリルスタンドを作りたかったんですが、中々難しいので――」


「アクリルスタンド……?」


 セイグリットは私を怪しそうな目つきで見てくる。


 ああ、その視線も私にとったらご褒美でしかない。


「だから木でフィギュアを作ってみたんですが、中々うまくいかなくて」


 私できたセイグリットのフィギュアを見せる。


「ああ、また変なものを作り始めたんですね」


 やはりセイグリットから見たら、変なものに見えるのだろう。


 ただ、私にとったらこれも推しグッズだ。


「そういえば何かありましたか?」


「ああ、そろそろ春になってくるから――」


「デートのお誘いですか! 今すぐに準備をしてきますね」


 なぜかため息を吐いているセイグリットをその場に置いて、私は急いで部屋に戻る。


 部屋の窓際に置かれたセイグリット様のフィギュア。


 横から見たら全てが飛び出ているフィギュアは、異世界に転生してから挑戦した推し活グッズシリーズになった。



──────────

【あとがき】


「さあさあ、今回の特典はセイグリット様のマスコットぬいぐるみです!」


 私はいつものように領地でセイグリットぬいぐるみを売っている。


「今なら★★★で1体プレゼント! そこのお嬢さんどうですか?」


「買う!」


 私はセイグリットぬいぐるみを少女に渡した。


「あなたは何をしてるんですか?」


 誰かが私の肩を掴んだ。


「うっ……セイグリット様」


 セイグリットは私が作ったぬいぐるみを持ってどこかに行ってしまった。


「セイグリットさまああああ!」


「足止めには★が必要よ!」


 ★★★を投げてセイグリットの足止めよう。


 このままじゃグッズが処分されてしまう。

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政略結婚相手は推しキャラのイケオジだった〜妹に婚約者を寝取られた芋聖女は毎日推し活で胸いっぱいです〜 k-ing🍅二作品書籍化 @k-ing

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