第19話 芋聖女、子ども作る

「お姉ちゃん、今から何を作るの?」


 私は道具を持って、種芋を植えた畑に戻ってきた。


 しっかりイモコが着ていた服から、いつも通りのドレスに着替えている。


 これでイモコが私だってバレる心配はない。


「せっかくだからセイグリット様に守ってもらおうと思ってね」


 今回作ろうと思っていたのは、セイグリット案山子かかしだ。


 鳥や害獣から守るために案山子を作るなら、セイグリットの見た目で作ろうと思った。


 それに他の領地には領主の銅像があるぐらいだから、案山子があっても良いだろう。


 単にいつでもどこでも推し活ができる街を作りたいだけだが、セイグリットが気づかない限りは問題ない。


「ってことでこれを用意したんです」


「ひぃっ!?」


 鞄から取り出したセイグリットの顔に、リズは逃げ出す。


「推し活第二弾"セイグリット案山子"よ! カッコ良すぎて頬擦りが止まらないわ」


 案山子の顔に頬擦りをする。


 どこか嫌がっているような表情をしているが気のせいだろう。


 それぐらいにセイグリット案山子の顔面が上手くできた。


 マスコットぬいぐるみと同じ方法で編み上げたはずが、遠目で見たらリアル過ぎて本物かと思うほどだ。


 自分の才能に驚き過ぎて、聖女より裁縫職人になった方が良いと思う。


「お姉ちゃん、本当にこれを置くの?」


「だめかな?」


「んー、怖いけどリズは我慢する」


 リズはビクビクしながらも、セイグリット案山子の頭を撫でていた。


 どこか案山子も喜んでいる気がした。


「領主様ってそんな顔をしているんだな」


「ええ、いつもは仮面をつけていますからね」


 いくら私の力を使っても、仮面を外したセイグリットの顔は私以外の誰も見ることができなかった。


 せっかく推しのかっこよさを広めたくても、広めることができないのだ。


 だからこの案山子を作って広めようとした。


 ただ、作り上げた時に案山子にも呪いの影響があるのか、インカやセバスでも震えるほどだった。


 私の魔法を使うことで、ようやく今のように少し怖いけど見ることができるってほどに改善された。


「カミュもこれでセイグリット様推しになるよね?」


「さすがに……」


「なるよね? ならないとどうなるかわかってるよね?」


「うっ……うん」


 セイグリット案山子の顔と一緒に詰め寄るとカミュは頷いた。


 やはりセイグリットの偉大さに認めざる得ないのだろう。


「ちゃんと鎧を用意したからこれでセイグリット様の完成ね」


 畑の中心に木を刺すと、鎧を装着しているように組み立てる。


 セイグリット案山子は異様なオーラを解き放っていた。


「ああ、かっこいいわ」


 思った以上の出来に惚れ惚れしてしまう。


「お姉ちゃん、本当に大丈夫なの?」


「きっと彼が守ってくれるから大丈夫よ」


「うっ……うん」


 どこかリズは心配していたが、これでこの畑は守ってくれるだろう。


「メーグリットみんなをお願いね」


 案山子は私達の子どもみたいなものだ。


 セイグリット案山子では可哀想だと思い、"メー・・クイン"と"セイグリッド・・・・"を取って名付けた。


 私は彼に畑を託して屋敷に戻ることにした。


「あれ……?」


 なんとなく振り返った時に、少し動いた気がしたが風が吹いていたのだろう。

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