第18話 芋聖女、じゃがいも畑をつくる

「よし、準備はできた」


 私は新しい服に着替えて早速街に向かう。


「お嬢様、本当にその服で出かけるんですか? まるでその辺にいる農民と同じですよ」

 

「本当!? これで農民芋子の名が知れ渡るわね」


 私は農民に変装して街に行くつもりだ。


 今日はセイグリットに頼んで買ってもらった種芋を埋める予定だ。


 事前に少しずつ畑の準備はしていた。


 裏でコソコソとやっていたため、セイグリットにはバレていないはず。


「例えいつもの格好で行っても、お嬢様の品格が下がるわけではないですよ」


「それじゃあ、セイグリット様に会った時に恥ずかしいじゃないの」


「ああ、お嬢様でも恥じる心があったんですね」


 インカのくせに今日も生意気だ。


 ただ、彼女には助けられているため文句はいない。


 この服を用意したのも彼女だ。


 別にメークイン令嬢の姿で畑作業をしていても問題ない。


 ただ、夫に泥だらけのところを見られて喜ぶ人はいないだろう。


 むしろまだ婚約したのかも微妙なラインだ。


 私の姿に幻滅して捨てられたら、本当に生きていけないだろう。


 残された道はストーカーのみになる。


「じゃあ、自己紹介は頼むわね」


「はぁー」


 インカと共に街に着くと人が集まってきた。


「あのー、今日はどのようなご用で……」


 この街の町長の役割を勝手に決めさせてもらった男が近づいてきた。


 街の代表を作っておいた方が街もまとめやすい。


 一番の農民っぽい顔で選んだが、彼の名前を聞いてしっくりきた。


 彼の名前はキャベチだった。


 どこかキャベツぽい名前で彼にして正解だったと思う。


 インカがより前に出ると、さっそく自己紹介をする。


「今日は芋を育てるためにある人を呼んだわ」


「私の名前はオノノ・イモコです。みなさん、よろしくお願いします」


 著名人の名前を今回は借りた。


 ただ、私の名前を聞いて首を傾げている。


 ひょっとしてこの名前を知っている人がいるのだろうか。


「お姉――」


「おい、ここは黙っておけ」


 相変わらずあの兄妹は仲が良いようだ。


 私を見てリズは手を振っている。


「今日はこの方に畑の作り方を伝授してもらう。では、メー……イモコ先生・・お願いします」


「ええ」


 少し先生と呼ばれて嬉しくなってしまった。


 実際に伝授するも何も、ただ種芋を埋めるだけだ。


「じゃがいもは寒さが和らいだ時か暖かい時に植えるのが一番良いです」


「イモコ先生、それはなぜですか?」


 リズは手を上げて質問をしてきた。


 じゃがいもは雨に弱く、土の水分量が多いと腐ってしまう。


 日本と似た気候なら気温が上がる前に雨が降る。


 梅雨が存在しているのも事前に確認済みだ。


 そのタイミングで種芋を植えたらすぐにダメになってしまう。


 それに寒くなってきた時も同様で、雪で土が水分を多く含んでしまう。


 その結果、じゃがいもを植えるなら春か夏が良いとされている。


 私が気候を絡めて、説明すると街の人達は納得していた。


 むしろ今までどのタイミングで作ろうと思っていたのか気になってしまう。


「色々な理由はあるが、まずはしっかりと土を被せて水捌けがよくなることを一番に考えましょう」


 せっかくじゃがいもができても、土が少ないと太陽の光が当たって緑化する。


 そうなると食用にはできないため、処分することになる。


「あとはなるべく近くに植えないように気をつけてね」


「はーい!」


 街の人達も手伝ってくれたおかげで、種芋をすぐに植えることができた。


 あとはしっかり育つのを祈るだけだ。


 私は聖女の力を使ってじゃがいも畑に祈りを捧げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る