第17話 芋聖女、街の変化に喜ぶ

「おっ、女神様と領主様だ!」


 街に着くと早速人が集まってくる。


 だいぶセイグリットに慣れたのか、普通に接する人が増えた。


 ただ、私がいないとセイグリットの呪いによって苦しむことになるだろう。


「お姉ちゃん、このぬいぐるみ他の人も欲しいって言ってたよ」


 声をかけてきたのは初めに仲良くなった妹の方であるリズだった。


「俺は別にいらな――」


「お兄ちゃんだって欲しいって言ってたじゃん! 私のやつを寝ている時に持っててるの知ってるからね」


「なっ!?」


 二人ともセイグリットが好きなんだろう。


 私が毎日推しのセイグリットを布教した甲斐があった。


 朝から夜まで毎日セイグリットの良さを語れば、自然と脳内は麻痺して信仰するようになる。


 ええ、まずはそこから少しずつ沼らせていけばいいのよ。


 沼に足を踏み入れたら、どんどんと抜け出せなくなる。


 気づいたらセイグリット沼の完成だ。


「カミュも欲しいと思って作ってきたわよ」


 私はもう一つ作っていたぬいぐるみを渡す。


 兄のカミュも口ではいつも文句を言っているが、正直になれない不器用な少年だ。


 この二人とインカが私の一番の推し活仲間だ。


「あなたはこんな幼い子達にまで変なことを教えていたんですね」


 背後でセイグリットが何か文句を言っているが、そんなことは気にすることではない。


 推し活は何を言われても突き進む心が大事だ。


「今度も新作を作る予定だからよろしくね」


 この間セバスに協力してもらい、昔のセイグリットを再現したぬいぐるみを作る約束をした。


 呪いがなければ、今頃絵でセイグリットの過去の姿を見ることができたがそれもできない。


 ゲームの世界であった彼とはもう二度と会えないのだ。


「じゃあ、すぐにご飯の準備とお肉の切り分けをするから待っててね」


「はーい!」


 私は街の人達に声をかけて早速準備に取り掛かる。


「今日の魔物はこれだけか?」


「ああ、そろそろ魔物の数は少なくなるからな」


「それなら仕方ないか」


 あれだけ魔物を食べることに抵抗を感じていた人達も今では抵抗もないようだ。


 むしろ魔物の出現が減って、残念だと思う人が増えた。


 それも魔物が減ったら食べるものがなくなってくるからだ。


「魔物の肉で保存食を作らないといけないね」


「女神様は保存食の作り方まで知っているんですか?」


「んー、魔物でできるかわからないけど、今度やってみましょうか」


 私はセイグリットを見るとため息をついていた。


「領地のためなら何でも準備はしますよ」


「ありがとうございます! ついでに――」


「糸は買いませんよ。また紛れて糸を買おうとしても気づきますよ」


 この間、領地改革のために調味料を調達した時に紛れて糸を買った。


 それがバレた時のセイグリットはめちゃくちゃ怖かった。


「それなら何を買ったらまた怒ってくれますか?」


「もう二度とメークイン令嬢を怒ることはありません」


 私のMの心に火をつけるほど怖かった。


 そのあとはセイグリット様がドン引きするほどだったのだろう。


 ファンは推しに攻め寄るのも攻められるのもご褒美だ。


「ぐふふふふ」


 それを思うだけで喜びが止まらない。


「女神様大丈夫ですか?」


「ああ、私には止められないからな」


 今後の推し活のことを考えるだけで、今日も楽しく過ごせそうだ。

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