1970年代アメリカ。
若い女性ばかりを狙った連続殺人事件が起きる。
不可解なことに、殺された女性たちは皆、恐怖の表情を浮かべていなかった――
本作はそんな事件を主軸とした、シリアルキラーの物語です。
犯人の正体は早々に読者に明かされるため、推理ものではありません。
でも、この作品には人間が根源的に抱える多くの「謎」が秘められています。
なぜ彼はその道に至ったのか。
それが彼に、どんな救いをもたらしたのか。
他に救いの道はあったのか。
昼と夜、どちらが本当の彼なのか。
数々の謎と苦悩に取り巻かれ、人知れず罪の深みに嵌まっていく美しき殺人者に、読者は知らずのうち惹き込まれ、親しみさえ覚えるようになります。
それは、彼が犯罪を犯していたとしても、確かに人間だから。
彼を追うFBI捜査官もまた、単なる配置上の人物ではなく、額に汗しながら地道に犯人を追う人間臭いコンビとして描かれます。
この二つの視点の入れ替わりがとてもスリリングで、本作はヒューマンドラマでありながら、サスペンスものとしても非常に楽しめる作りです。
タイトルにある「三十六人目の被害者」が誰なのか。
それがわかるシーンでは、深い絶望と解放感を同時に味わうことになります。
読み進めるうち、読者も自分の中にある二面性、シリアルキラーである彼を応援する気持ちと、それを戒める気持ちがあることに気付くのではないでしょうか。
まるで文章の中に入っていけそうな精緻な情景描写と、実際に触れられそうな質感を伴う人物造形の巧みさだけでも、一読の価値ある物語です。
ぜひ読んでみてください!