MISSION-3:自由な軍隊

第7話:これから始まる放浪生活

〈北方大陸〉南方 ユニオン・共和国領 廃棄区画旧市街地

 そこでは現在、〈ユニオン〉軍と〈ユニコーン解放戦線〉の間での戦闘が行われていた。


【解放戦線部隊指揮官】『……怯むな!!! 他星民余所者に媚びる売星奴共に負けるわけにはいかない!!!』

【解放戦線部隊兵士】『……ハッ!!!』


 発端としては、廃棄された区画とはいえ〈ユニオン〉の領土の一部であるこの地で、〈解放戦線〉の一派が陣地を構築しているのに対し、それを制圧しに来た軍との間で戦闘になっているという事である。


 四脚型の陸戦用機動兵器である〈AWアーマード・ウォーリア〉の部隊が陣地を守るべく奮戦していた。

 搭載した榴弾砲グレネードキャノンによる砲撃と機銃による射撃。

 相手方もまた〈AW〉を主軸とした陸戦部隊と空戦部隊を同時に投入する形で攻めてきている。

 物量差として倍近い差があり、地の利を生かしてもなお膠着させるのが限界、という程度には押されつつあった。


【解放戦線部隊兵士】『指揮官に報告!!!』

【解放戦線部隊指揮官】『どうした!!?』


 そんな中だった。その一報が知らされるのは。


【解放戦線部隊兵士】『上空から所属不明機体を確認! 機体形状からASだと思われます!』

【解放戦線部隊指揮官】『所属不明のAS……向こうの雇った傭兵か!!?』

【解放戦線部隊兵士】『いえ、ユニオン軍側も迎撃している模様です!』


 確かに〈ユニオン〉軍側が対空攻撃をしているのを確認できた。

 情報がわかるか、と指揮官が尋ねると。観測班からの情報が送られてきた。


【解放戦線部隊指揮官】『データに無いパーツ構成……星外からの密航者か?』

【解放戦線部隊兵士】『どうしますか?』


 〈封鎖機構〉とやりあったのだろう(※偶然だがこの考察は的中している)か、機体の各所が破損しており、特に双眼型ツインアイセンサーの右眼を失っている様に見えた。


【解放戦線部隊指揮官】『今はユニオン軍を優先する! しかし警戒はしておけ! 該当機体からの攻撃があった場合は迎撃を許可する!』

【解放戦線部隊兵士】『了解!』





 前回までのあらすじ(※0721のモノローグ)

 大気圏を突入し飛び込んだ光景は、戦場のド真ん中であった。


 そんなCOMのボイスメッセージ風な回想を脳内で再生しながら、0721は揺れる操縦桿を操りながら機体を駆っていた。

「流石にガセ情報だった、ってことはなかったか」

 状況を判断しながら、重力圏に入ったことで機能するようになった高度計を確認する。

 9000m 8900m 8800m……と、急速に下がっていく。機体各部に点在するサブブースターによる逆噴射を利用して減速しているがほぼ秒速60m程度で落下中であった。

「あと二分ちょっとで地面に激突しかねないが……」

 そう独り言を呟いているが、ある程度の事は考えていた。

 取った選択は、高度がある内に〈イクシードブースト〉を使い、戦闘に巻き込まれない内に戦闘領域からとんずらする。

 この星に住む人々からすれば現在の自分は密航者ではあるが、戦闘中のどさくさに紛れれば。

 そう思っていたのもつかの間。全身フレームの流動力場制御デバイススタビライザーを解放し、加速を掛けようとしたところで。

「……やっぱそういう訳にもいかないかっ!!!」

 レーダーの情報から〈ユニオン〉軍のものらしい〈AFアーマード・ファイター〉の編隊が後方から迫ってきていた。


【ユニオン軍航空部隊員】『大気圏突入を慣行した所属不明機を確認! ASと思われます!』

【ユニオン軍航空部隊員】『データに無い機体構成だ。密航者か、解放戦線側の傭兵か? 構わん、攻撃開始だ!』


 わざわざ広域回線オープンチャンネルでそういう会話を流しながら、何機かがミサイルを放ってきた。


「警告もなしに撃ってくるのか!!!」


 ブースターの出力を調整してわざと姿勢を崩すことで回避する。


【航空部隊員】『警告もなしに撃ってよろしいのですか!!?』


 攻撃して来ない一機のものであろうか、そんな今自分が発言したことを言う者が居た。


【航空部隊員】『お前はこの任務が初陣だったな。ならば教訓を得る必要がある』


 そこに指揮官らしき人物が諭す。


【航空部隊員】『所属の分からん奴は大抵が密航者か傭兵、それも無名の野良犬同然の奴だ。捕虜にしても身代金の足しにもならない。“悪霊”の件もあるしな。味方じゃないなら殺しておいた方が無難だ。そういう環境なんだよこの星は』


「悪霊って……何かの比喩か?」


 わざわざ広域回線で言ってくるのもそういうことなのだろうと察する。

 味方ならそう言え、言わないなら仕留める、と。

 治安悪っ、と思わなくもないが。傭兵が個人事業として成立する程に戦闘が恒常化している環境に治安の良さを求める方がナンセンスだろう。

 それはそれとして、と0721は切り替える。

「せっかく自由の身になったんだ。こんなとこで殺されてたまるか!」

 吼えながら、右手のアサルトライフルを構えて2、3発撃った。

【航空部隊員】『撃ってきた!!!』

【航空部隊員】『総員散開! 回避行動!』

「今だっ!!!」

 当然ながら避けられるわけだが。そこで陣形が開いた隙を、0721は〈イクシードブースト〉を繰り出すことで突破を試みる。

 爆発的な推進力により一気に時速約1600kmに到達する。

 目指すのは地上だが、今はとにかくこの領域から離れることを。そう思っていた訳だが。

「――――マジかっ!!?」

 加速開始から数秒で鳴り響いた警告音アラートに反応し、ENゲージを確認して絶句することになった。


0[■■■■■■|□□□□□□□□□□□□|□□]100%

0[■■■■■■|□□□□□□□     |  ]100%

0[■■■■■■|□□          |  ]100%

0[■■■■  |            |  ]100%


 宇宙に居た時より爆速的にゲージの減りが早い。

 重力と空気抵抗を考慮した分、出力を使い過ぎていたということにすぐに気が付いたものの時既に遅く。〈緊急回復チャージング〉が始まるラインをとうに踏み越えていた。

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!」

 案の定、〈緊急回復〉が始まる。それはすなわち、EN容量が90%回復するまでメインブースターを使用できないということになる。

【航空部隊員】『不明機、失速しながら降下していきます……』

【航空部隊員】『奴め、エネルギーが尽きたか! 機動力を失った今なら!』

 その状態を察知したらしい航空部隊機がミサイルを放ってくる。

「このままだと当たる……だったら!!!」

 一か八か、と。0721は〈リンクスシステム〉を介した制御で、咄嗟にサブブースターの出力を切った。

 フレームに直接搭載されているサブブースターは、メインブースター用のENとは別系統で管制されている機体駆動用のエネルギーを使用している。降下中は自動で稼働し逆噴射する様になっている。とはいえ、それを使用しているとジェネレーターが生成するエネルギーをそちらに食われてしまうが故に滞空中はEN容量の回復量が下がってしまうのである。

 それを切断するということは。緊急回復の速度がマシになる代わりに自由落下を始めるというわけだ。

 落下を始めたところで0721は右肩の四連ミサイルを放つ。速度が変わったことで標的を見失いかけた相手方のミサイルが、0721のミサイルの熱源を捉えたことでそちらを追尾していく。

 そんな中で重力に引かれて〈LOOADER〉は落下していった。

 6000m 5000m 4000m 3000m……急速に地上が迫ってくる。

 廃墟街をまだ抜けられていない。

「間に合わないか……!!?」

 残り1000mを切った、EN容量約80%まだチャージが10%は残っているというタイミングで。0721は自機のほぼ真下に高さ100mはあるかという高層ビルがあることに気づく。

「背に腹、か……!!!」

 高層ビルの廃墟を目標にしてサブブースターを吹かす。

 そして、左腕を伸ばし、その屋上に掴みかかる。

 ズガガガガガッッッ、と勢い良く廃墟を破壊しながら減速していく。

 機体に物凄く負荷が掛かっているのを感じる。〈AAアクティヴアーマー〉も稼働しているが触れている面から紫電を発しているし、〈PLプライマルルミナス〉もゴリゴリ削れていく。

『LP:4203/9300』

 緩衝材にしたビルを破壊してどうにか着地した。その時点で2000近く削れる結果となった。

RESERVED LUMINIOUSルミナスリザーブ 2→1

 PRIMAL LUMINIOUS REPAIRED

 LP:4203→8203(+4000)/9300』

 流石にまずいと思った0721はリザーブを一個LPの回復に当てる。

「包囲される前にずらかる!!!」

 流石に充填が完了したEN容量を確認し、メインブースターを吹かす。

 〈リンクスシステム〉を介した思考制御による出力の最適化を行ってなお劣悪であるという事を突きつけられたジェネレーターの性能。それ故に容量には極力注意しながら走り出した。

【ユニオン軍陸戦部隊員】『居たぞ! 報告のあった機体だ!』

【ユニオン軍陸戦部隊員】『所属不明機! 恨みはないが仕留めさせてもらう!』

「くっそ……こいつら!!!」

 どうやらこの星の戦士達彼らにとって戦場に迷い込んだ所属不明機は無条件で撃墜していい標的か追加ボーナスとかの類と認識されているらしい。

 そうでなければ説明がつかない、という具合に滅茶苦茶に狙われている。現に今〈AW〉が四機ほど群がってきていた。

「そっちがその気なら!!!」

 いい加減に鬱陶しくなってきた彼女は攻勢に出る。榴弾砲を撃ってきた一機に狙いを定めると、それ目掛けて一気に加速する。

 〈イグニスブースト〉――流動力場制御デバイスを展開した状態で〈イクシードブースト〉と同じ要領で、瞬間的な加速の為に一瞬だけ吹かす手段。

 なおも砲撃してくるそれに対して〈イグニスブースト〉で回避しながら接近し、ミサイルとアサルトライフルを立て続けに連射。

 相手の〈AA〉に防がれながらも爆炎が煙幕として機能してくれる内に再度〈イグニスブースト〉を繰り出し、接近して左腕のパルスブレードを発振。

 二連続で斬撃を放ち、一発目で〈AA〉を切り裂くと、二発目で確実にとどめを刺した。

【陸戦部隊員】『こいつ、強……うわぁぁ――!!!』

【陸戦部隊員】『なっ……よくも!!!』

「アンタがやってきたんだろうが!!!」

 自衛で精一杯な中。やけくそになってアサルトライフルを連射する。

 器用にも廃墟街のビルの合間を縫って飛んできた〈AF〉まで合流してくる始末であり、それに対する射撃であるが。再装填リロードが始まるまでに命中させた5、6発で〈AA〉を破り、続けて放ったミサイルで一機を撃墜した。

 それでもなお、攻撃は止まないでいた。

「くっそ、AAアクティヴアーマーの負荷限界が……!」

 こうして戦っている間、度々被弾し続けている。

 ほとんどダメージはないが、〈AA〉の方が不味かった。

 〈AA〉が攻撃を受けているとその制御システム〈AACS〉が負荷を受け、それが蓄積していく。それが限界まで到達すると負荷限界オーバーロードとして一時的な機能不全に陥り、復元されるまで一定時間〈AA〉が展開されなくなってしまう。

 最後の一発に被弾し、〈AA〉が解除されてしまう。そしてその状態で左胸部に一発直撃を受けてしまった。

「――痛ッッ!!!」

『LP:8106→7685(-421)/9300』

 被弾部位の装甲が凹み、ノックバックがコクピットを揺さぶった。

 転倒しかけるのをどうにか持ちこたえ、後退しながら体勢を立て直す。

 一瞬、と呼ぶには長かったが、〈AACS〉の機能は復元アクティヴアーマーは復活していた。

 とはいえ、状況は芳しくない。

 これが全軍でこそないだろうが。〈AF〉部隊空戦部隊〈AW〉部隊陸戦部隊が計2個小隊程度か。そいつらに包囲されている、という状況だ。

「なんでこう、どいつもこいつも……邪魔ばっかりしやがって!!!」

 0721はその余りの理不尽さに憤っていた。気が動転するあまりに前世での嫌な記憶すら思い出してしまう。

「思えばいつもそうだ。相手の事何も考えないで平気で踏み躙って虐げて搾取してきやがって……これだから他人ってのは嫌いなんだよクソが!!!」

 出し惜しみしない、とばかりに行う操作。

 それにより〈LOOADER〉は、頭部後方・胴体部の側面と背面・バックパック上部・両肩後部・腰部後方・大腿部後面・脹脛部と全身の装甲をスライドさせ、流動力場制御デバイススタビライザーを展開する。

「だからさぁ――」

 何機かが近接戦を仕掛けに突っ込んでくる。その後方からミサイルや榴弾も放たれていた。

 迫り来るそれらを今一度、睨みつけて。


「――吹っ飛べッッッ!!!」


RESERVED LUMINIOUSルミナスリザーブ 1→0

 ASSAULT LUMINIOUSアサルトルミナス   RELEASED解放


 〈LOOADER〉は全身から光を迸らせる。

 〈アサルトルミナス〉――宇宙でも使った

 あの時は交戦距離の広さで目立たなかったが射程は150m――全高10~15m程度の〈AS〉にとってはそのほぼ十倍の距離をエネルギーの奔流が激しく吹き荒れ、余波として衝撃波も発生してそれらが更に広範囲を吹き飛ばす。

 〈LOOADER〉を中心として放たれたそれにより、半径約200mの範囲が更地と化し、迫っていた砲撃の雨と巻き込んだ数機AW三機とAF四機を消し炭に変えた。

「――――今だッッッ!!!」

 そんな爆発の余燼から勢い良く飛び出した〈LOOADER〉。

 まだ二、三機残っているが。〈イクシードブースト〉を駆使し、全力でこの領域から逃避した。

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せっかく美少女になったのに社畜なんてやってられるか!そう言って組織を離反したTS女子の末路 王叡知舞奈須 @OH-

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