第三章 獣人の冒険者クロエ(9)
「んっ? 今日はやけに早くに出たと思ったら、もう帰ってきたのか?」
宿に着くと、店の奥で作業していたリカルドが出てきてそう言ってきた。
「ああ、ちょっとした用事で出掛けていただけだからね」
「そうか……なあ、もうこの後の用事はないのか?」
「一応、ないけど」
リカルドの言葉にそう返すと、以前と同じ肉を狩ってきてほしいというお願いをされた。
「あれ、最近は肉の仕入れも悪くないって言ってなかったか?」
「……これを言うと肉屋に怒られそうなんだがよ。ジンに狩ってきてもらった肉の方が新鮮で
「あ~、まあ俺の場合は肉を傷つけないようにサッと殺して収納しているからね。鮮度に関しては、他よりもいい気はする」
「ああ、それでたまに俺のところに食べにきた奴から『この間のお肉の方が美味しかったけど?』って言われてな……」
まあ、別に今更こんな依頼を受けなくても金銭的な余裕はある。だがリカルドには世話になっているし、なんなら最近は以前よりも絡む機会も多いからある程度の頼みは聞こうと思って受けることにしたのだった。
「ブッ──」
「まっ、こんなもんで良いかな?」
依頼分より少し多めに魔物を狩った俺は【異空間ボックス】の中を確認してから王都に戻り、宿へ帰還した。
「一時間で戻ってくるって、お前本当にどういう戦い方をしているんだよ……」
「弱い魔物だから、パパッと魔法で」
「弱いっていってもお前な、オークは下位の冒険者なら数人でようやく倒せるような魔物なんだぞ……」
リカルドに呆れられながら俺は倉庫に肉を入れ、報酬を受け取った。
受け渡しが終わった後、夕食まで時間があるから何をしようか考えていたが、朝早くに試験を受けたせいか、ベッドに横になった俺は自然とそのまま眠ってしまい、気付けば夕方になっていた。
食後、満腹になった俺は眠気に襲われつつもシャワーを済ませ、自室に入った瞬間、ベッドに横になり再び眠りについた。
翌日、ギルドでクロエと合流した俺はこれからについてフィーネさんとリコラさんをまじえ話し合いを行うことになった。
「銅級冒険者といえば、新米枠から抜け出した一人前の冒険者と呼ばれています。ですので、このランクからダンジョン攻略が可能になります」
「ダンジョン! ダンジョンだってよジン君!」
ダンジョン攻略という言葉に、クロエは興奮気味にそう言った。
「前から銅級になったら行くって、楽しみにしていたもんな、クロエは」
「うん! だって、ダンジョンといえば夢がたくさん詰まってる場所なんだよ? 今はそこまで苦しくないけど、
「まあ、その分危険もたくさんあるけどな」
この世界のダンジョンの造りは、基本的に難易度ごとに分かれている。
ダンジョンとは、神が造った試練場。
神が造ったダンジョンは、人間の〝欲〟を利用した罠が多くあり、その罠でこれまで多くの者達が命を落としている。
「ジンさんの言うとおり、ダンジョンには危険がたくさんあります。しかし、私どもはジンさんとクロエさんなら無事に攻略ができると思っていますよ。ジンさんの戦闘能力と、クロエさんの感知能力。その二つは、他の冒険者達よりも高いですから」
そうフィーネさんが褒めると、クロエは嬉しそうに「えへへ」と笑みを浮かべた。
「まあ、今後はダンジョン攻略を主に活動するという感じですかね? そうなると普通の依頼の方は、どうするんですか?」
「そこに関しては今までとそこまで変わりはないですね。ダンジョン内の魔物や採取物の依頼に変わる感じです。ただ今までみたいに、人がいない場所での依頼を出すことは困難になります」
「あ~、まあそこに関しては仕方ないですね。ダンジョンに行くなら、人の眼がどこかしらにあるのはわかっているので」
今までは依頼先に冒険者が居ないか確認してもらってから、その依頼場所で仕事をしていた。
しかし、これからはダンジョンという冒険者達が多く活動している場所に向かうため、人の眼を避けることは不可能に近い。
「多少見られる程度なら、まだ
正直なところ、すでに俺の噂は多少流れている可能性もある。
毎日こうしてギルドにやってきては、パートナーをつけてコソコソと冒険者活動を
そんな怪しい奴を情報に敏感な冒険者達が、放っておくはずはないだろう。
その後も話し合いは進み、今後について大体のことが決まった。
「それでは今後はダンジョン攻略を主軸に、探索メインの日と依頼を受ける日に分けてやっていく流れで大丈夫でしょうか?」
「俺はそれで構いません」
「私も大丈夫です」
フィーネさんの締めの言葉に俺とクロエは、そう返事をして話し合いは終わった。
さてと、それじゃ良い時間だし、昼飯でも食べに行こうかな? そう思い立ち上がると、フィーネさんから「待ってください」と呼び止められた。
「……何か前にも同じようなことがあった気がするんですけど」
「安心してください。今回は、ギルドマスター関係ではありません」
一瞬、アスカ関係かと思い探りを入れると、フィーネさんからそう否定された。
ただ俺の嫌な予感は、まだうっすらと残っている。
「本日の早朝にとある方から、ジンさんとクロエさんに〝指名依頼〟が入りました」
指名依頼とは、依頼者が腕の立つ冒険者を指名し、本来の報酬金に特別手当が出る依頼のこと。
それが俺とクロエに出たということに対して、俺とクロエは正反対の態度をとった。
「指名依頼って、あの指名依頼ですか!」
「何で俺達に指名依頼が来るんですか……」
「「えっ?」」
クロエは〝指名依頼〟が入ったことに対して喜びながら興奮し、逆に俺は指名依頼が入ったことになぜと疑問を抱いた。
そんな俺達は互いに、なんでそんな態度なんだ? という視線で見合った。
「この場合、どちらの反応も正しいので、ひとまずお話を聞いてもらえますか?」
フィーネさんがそう言うと、これまでジッと黙っていたリコラさんが書類を出して今回の〝指名依頼〟についての説明を始めた。
「今回〝指名依頼〟を出した方、それはこの国の姫様のフィアリス・フォン・デュルド様です」
「「ッ!?」」
依頼主のその名に、俺とクロエは今度は同時に驚いた。
「な、何でお姫様が?」
「はい、そちらなんですが……すみません。私どもも詳しい経緯は知りません。今朝、姫様専属の従者の方がいらっしゃり、ジンさんとクロエさんに依頼を出したいと
「ジンさん達が来るまでに何があったのか、他の者にも頼んで調査してもらったのですが、何もわからず、しかし王家からの依頼ということで無下に断るのはと……」
フィーネさんとリコラさんは「すみません」と謝りながら頭を下げた。
まあ、国のトップからの依頼を自分達の判断で断るのは酷なことだろう……。
「頭を上げてください。フィーネさん達が謝ることはないですから。それでどんな依頼内容なんですか?」
「依頼の内容ですが、姫様が外の話を聞きたいらしく、冒険者であり同年代のジンさん達の冒険話を聞きたいそうです」
「……話をしにいくだけなんですか?」
「そう書いてあります。依頼時間も半日程度と」
不思議な依頼に対して、俺とクロエは頭を悩ませた。
初の指名依頼、内容は意味のわからないものだが、報酬は流石王家というべきなのか話だけで金貨数枚を払うと書いてあった。
「クロエ、滅茶苦茶怪しいし何かありそうだけど、どうする?」
「初の指名依頼だから断りたくはないし、相手が王家だから変に目を付けられるのも嫌だけど……本当に怪しいよね……」
それから小一時間悩み続け、最終的に俺とクロエはこの依頼を受けることに決めた。
~試し読みはここまでとなります。続きは書籍版でお楽しみください!~
【書籍試し読み増量版】最低キャラに転生した俺は生き残りたい1/霜月雹花 MFブックス @mfbooks
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