5才児が人の顔燃やすなんてそんな

 1年前


 希望の塔周辺にてイリナ率いる勇者部隊と炎帝が衝突した。

 対峙した瞬間、100人の上級勇者が炎に焼かれ死滅したという。イリナのみ炎帝と死ぬことなく戦うことが出来たが、魔王の力は想像を絶しており、絶対に壊れることがないという希望の塔が、炎帝の一撃で壊れてしまったほどだ。


 「ですが1週間前、イリナさんはその炎帝を倒してくれたのです。歴史の教科書に載るほどの偉業に立ち会えた私達はとても幸運なのです。……はい、時間ですね。それでは今回の宿題は、我々勇者が魔族を討伐し、世を平定するために必要なプロセスを最低2つ考えてきてください。勿論、論理的な根拠も必要ですので忘れないように。以上で授業を終了します」


 そう言うと先生は教室から出て行った。


 あーやだやだ、歴史の授業ってのはなんでこうもつまらないんだろうな。正直さぁ、昔の人間が「石磨いて武器作りました。凄いでしょ」とか言われても、でも今の時代にそれ使わないよね?どうでもいいよね?って思ってしまう。知ったこっちゃないよね。近代史の重要なところだけ教えてよ。


 「…………」


 いや、ていうかね?俺は昨日この学校に入学したばかりなの。更に言えば学校ってところに来ることすら初めてなの。まるで勉強したことある人間みたいな喋り方してましたけど、全くしたことないんですわ。宿題とか言われてもさぁ、なに?紙にそれっぽいこと書けばいいの?


 「…………」


 でね?分からないことがあれば人に聞くのが通例だとは思うんですよ。僕はコミュ力の塊みたいな人間だから、それはもうそうするべきだと沸々と思うわけです。でもこれがさぁ、この学校酷いんですよ。服装は特に指定がない、自由だって聞いたからさ?一応持ってる中で1番ましなダボダボのベストに白スキニーという格好できたんですよ。そしたらなに?周りみんなワイシャツにネクタイつけて、スラックス履いてんの。糊の効いたピシッとしたやつ。ぱっと見で金かかってるのが分かるくらいいい素材のやつ。いや、ええ?浮くにきまってるじゃんそれ。話しかけづらくてしょうがないよ。金持ち、真面目アピールしやがってぇ……自由なんだからもっとラフな格好してよ頼むから。


 「…………」


 僕は観念して席を立って自室へと向かう。

 まぁいい。初日からここの学生との圧倒的な格差を感じざるを得なかったが、些細なことである。宿題だってひとまずそれっぽくやってみて、間違ってたら先生に指摘してもらい直せばいいだけ。学生と仲良くすることも時間が解決してくれるだろう。目下最大の懸念事項はイリナと仲良くできるかどうかだ。懸念事項というか、最大目標というか……とにかく、とても大切なことなのだ。

 この世界でイリナと仲良くなり、あわよくば傘下になるということは、勇者最強の肩書を自由に使えるようになるということ。今まで掃き溜めで生活してきた僕からすれば、人生を何周しても手に入れることが出来ないであろう好機。絶対にものにしなくては!勉強なんてまともにやってられないわ!


 「まーた厄介なのぶん投げられたな」

 「それは君が重役達を挑発したからでしょ。もっと大人しく振る舞った方が君のためだよ」


 毎夜、イリナ達がこの学校に来て理事長と会っているのは知っている。玄関ら辺で待ち伏せておけば会えるだろうと思っていたんだが、ビンゴだな。2人とも呑気に会話をしながら学校に入ってきた。身長90cm前後のぱっと見5才児が、まさかの勇者領最強だって言うんだから詐欺だよね。

 ふっ、まぁいい。人は見かけによらぬもの。この人の元にいれば生活は安泰なのだ、お近づき大作戦開始である。


 「お待ちしておりましたイリナ様ぁ!」


 僕はイリナ達の前にスライディング土下座で滑り込んだ!


 「ささっ、室内ではその鎧は邪魔でございましょう!わたくしめが預かっておきますので、のびのびごゆるりと校内散策をされて下さいませ!」

 「えっなになに!?」


 床に額を、血が出るほどに擦り付けている僕を見て、イリナは目をカッとかっぴろげながら全力でひいた。


 「下僕でも奴隷でもなんでもいいので僕を雇って下さいお願いします!なんでもします!靴舐めろって言われたら遠慮することなく舐めるぐらいの気概なのでお願いします!」


 傍目から見たら5才児に土下座して奴隷宣言している最高に危ない人間だが、今の僕にそんなことでダメージを受けるプライドはないのだ!奴隷にさせてくれるまで土下座しまくってやる!


 「面白そうじゃーん。奴隷にしてやれよ、イリナ」

 「絶対やなんだけど。君が雇ってあげてよ奴隷として」

 「しょうがねーなぁ、行くぞ奴隷1号」

 「いえ、あなたの奴隷は先がないので願い下げです」


 このミフィー君とか呼ばれている男の子は、魔王だ。しかも魔王の中で1番最強で最悪と言われているほどで、勇者領内部からの評判は最悪。こんなやつの奴隷になったら今以上に悲惨な生活が待っていることだろう。


 「おいおいおい、選り好みできる立場じゃないだろ。俺が君と同じ立場だったら喜んで奴隷になって、靴舐めながら嬉ションドバドバ垂れ流しだぞ」

 「サイッテーなんだけど……」

 「感情表現はオーバーであればあるほど納得性が高いのだ」

 「…………」


 つまり、イリナの靴を舐めながら嬉ションを垂れ流せばワンチャン……?


 「しなくていいからバカじゃないのあんたら」


 イリナは僕を避けるとそのまま歩いて先へと向かう。

 僕は急いで立ち上がり、どうにかしてイリナに取り入ろうと画策する。僕的成功メーターからすれば滑り出しは好調。これを1年ぐらい続ければ、イリナは根負けして僕を奴隷にしてくれるだろう。さぁ頑張るぞぉ!


 「君がどうしようが私は奴隷とかいらないから。何百年張りつこうとも絶対認めないから。ミフィー君もそうだよね。……ミフィー君?」

 「ごめんごめん、こいつが気兼ねなく舐めれるように靴の汚れとってた」

 「…………もう知らない!スカラさんには私1人で会ってくる!君はもうそこら辺で野垂れ死んでて!」

 「オッケー。なんか進展あったら教えてくれー」


 イリナはプリプリと怒りながら、早足で学校奥へと消えて行った。………よし。


 「あーー今行くのはオススメしないわ。今日はこれぐらいにしておけ」


 イリナのあとをつけようとしたらミフィー君に止められた。だがここでうざったいぐらい粘着しなくちゃ目的が……


 「少年、俺はお前みたいなタイプは嫌いではない。イリナと仲良くなるコツを教えてやるから、今はやめろ」


 ぱっと見5才児に少年呼ばわりされる違和感は拭えないが、まぁ、イリナに近い人間にやめろと言われたのだ。一応は応えておこう。話を聞いて無意味だと思ったら再度イリナにアタックするけどね。


 「目的の為になりふり構わず行動できるのは素晴らしいことだ。イリナに近づく為なら奴隷にでもなってやろうって精神も気に入った。まぁ妥協して俺の奴隷になって嬉ションしてたらもっと気に入ってたけどな」

 「いや、勇者領で生活するつもりなのに魔王の奴隷になったってデメリットばかりでしょ。普通にやなんですけど」

 「そういうとこだ。お前は直線的すぎる。目的達成の為の精神は好きだが、達成するまでの思考回路が気に入らん。イリナに近づく→奴隷になるは愚直すぎるだろ。きっかけづくりの為にそのていで近づいたとかなら凄いけど、見てる感じそうじゃないみたいだし」

 「目的達成は最短距離が1番に決まってるじゃないですか」

 「だからって考え方も最短距離はまずいだろ」

 「単純明快、シンプルイズベストですよ」

 「シンプルにもなりえねーよ。物だってそうだろ?使えるレベルになって初めてシンプルと名乗っていいんだ。まともに使えなきゃただのガラクタだ」


 ミフィー君はどこからともなく出したコーヒー牛乳をストローで飲みながら、僕にゆっくりと説明していく。


 「イリナが何を欲しているかを考えよう。最短距離を突っ走るのはそれからだ。……まず大前提だ。イリナはこの勇者領の中でトップの人間で、お前には理解できないだろうけど、そういう人間ってのは自尊心が満たされているもんなんだ。人を見下して満足するようなやつじゃない」


 まぁ確かに、イリナさんはそういうタイプの人ではなさそうだ。


 「そして性格もこれまたトップクラスに良い。奴隷なんて必要ないし、というかこの世界から奴隷というものを消したいとすら思ってる。だからお前がイリナの奴隷になるなんてのはまず無理、不可能だ。まぁ俺も奴隷なんていらないが、お前で遊ぶのは面白そうだからな、気が変わったらいつでも言えよ。奴隷にしてやるよ」

 「…………人として終わってるってよく言われません?」

 「魔王だからな」


 だからって終わりすぎだろ人格が。


 「分かったか?イリナに奴隷は要らない。最短距離を突っ走るのは構わないが、アプローチの仕方を変えていこうや。俺らに必要なのは仲間や友達なの」


 ……なるほど、つまりあれだな?


 「友達からよろしくお願いしますですな?」

 「なんでイリナが告ってフラれたみたいになってんだよ。なんでもするから友達になって下さいだろうが」


 うーむ友達や仲間かぁ。まぁ奴隷よりはハードル低い気がするからなんとかなるか?


 「言っとくが奴隷なんかよりも100億倍難しいぞ。……ほれ、今日使ったテキスト見せてみ」

 「な、なんでですか。教科書なんて絶対見せないですからね」

 「どうせお前のことだ、ノートなんて使わずにテキストに文字書き殴っただろ?図星だろ?だからほれ、渡せ」

 「……いや、イリナと仲良くなることと教科書を見せることになんの因果があるんですか。見せないですよ」

 「イリナの仲間や友達になるってことは、肩をある程度並べられるようになるってことだ。それにはどうしても何かしらに秀でてないといけない。戦闘能力だったり、性格の良さだったり、頭脳だったりな。で、お前の戦闘能力はミミズレベルだし、性格はゴミ以下。ならもう頭脳しかないだろ?学校の勉強なんて片手間でやって好成績取れるぐらいの知能は最低限あって欲しいからさ、それを確認する為に見てやるってんだよ。優しいだろ?」


 ……だからってこいつに見せたくないんですけど。いやそりゃね?この学校の理事長とかに見せるとかなら、まぁ、嫌だけど見せるよ?でもお前魔王じゃーん。絶対勉強とかから無縁でしょ。全部を力で解決できる人間が勉強なんてする必要ないじゃーん。絶対テキスト見ながらテキトウに貶してくるでしょこのくそ魔王。


 僕はテキストを入れたリュックを抱きかかえ、ミフィー君に是が非でも見せないという姿勢を見せつける。


 「いや、いいからそういうの」


 いつの間にか、彼の腕の中に僕のテキストの山があった。なっ、どぅっええ?あんた炎の魔力なんじゃないのかよ!なんで物をワープさせてんだよずるいぞ魔王!


 「ちょ、やめ!ストップ!」


 力ずくでテキストを奪うため襲い掛かろうとした時、ミフィー君は僕の眉間に向けて人差し指を向けた。ただのその動作だけで僕の動きは完璧に止まり、冷や汗はダラダラと垂れ、背筋に嫌な寒さが駆け抜けた。


 「魔王相手に力押しはないだろ。ちょっと魔力発動したらこの学校ごと消え去ってたぞお前」

 「ず、ずるすぎる!あんたの方がよっぽど性格悪いじゃないか!」

 「魔王だからな」


 本当は見られたくないのに何もできないもどかしさに袖を濡らしながら、彼がテキストを読んでいるのを見るしかできない。魔王じゃなかったら殴ってでも止めてるのに……


 「見た感じ本当にノートとかとったことないんだな。まっそれでも重要な項目はなんとなく分かってるみたいだし、及第点ってところか。じゃあ次のステップ行くか」


 ミフィー君はそう言うと周りを見た、何かを発見したみたいで歩き出した。


 「つ、次のステップとは?」

 「良い成績を取るには宿題はちゃんと出さなきゃいけないし、テストで良い点を取る為にテストの傾向も知ってなきゃいけない。だからそこら辺の奴らと仲良くなって、宿題とか勉強の仕方教えてもらえ」


 はーーんなるほどね?魔王なりには一応考えてはいるみたいだ。やっぱり狙いはメチャクチャ勉強出来そうな見た目のやつか?委員長的なポジのやつ狙いたいよね。一体誰に狙いをつけて……


 「す、ススストップ!正気かあんた!?」


 こいつが進む先に不良5人組がいるんですけど!ダメダメ!絶対無理!昨日まで浮浪児やってた僕には、絶対関わっちゃいけない人間っていうのがいて、それがまさに不良!しかもこんな貴族とか成金が集まるような学校の不良とか1番関わっちゃいけない!触れるなティアGODなのよ!

 だがミフィー君は僕の静止を無視してズンズンと不良に近づいていく!きゃあやめて!今ならまだ間に合う!


  「やぁ少年達。唐突で悪いが、この情けない奴に勉強を教えてくれないか?」


 ぱっと見5才児に少年呼ばわりされた不良達が固まった。不良達は金髪だったり茶髪だったり、アッシュグレーだったりと、見るからにやんちゃしてそうな見た目をしている。なんか舌にピアスしてたり、裂けてたりするし怖いんですけど……


 「できれば仲良くつるんでくれると尚ありがたいんだが」

 「ギャッハッハッハッハッ!!」


 まぁ笑うよなぁ。


 「おいクソガキ!俺らになめた態度とったらどうなるかわかってんのか!?」

 「こう見えて魔王なんだがなぁ」

 「んじゃあ殴られても文句言えねぇよなぁ!?」


 金髪、ハードモヒカン、刺青、ピアス10個にスプリットタンという、ザ悪者がミフィー君に殴りかかろうとした瞬間、ザ悪者の顔が燃えた。炎は瞬く間に顔面、頭頂部、側頭部、後頭部へと燃え広がり火勢を強めていく。色々な不純物が混ざった油が焼ける臭いっていうのは非常に不快だ。人間の遺伝子には、こういう臭いは危険なものだと刻み込まれているのだろう。とかなんとか考えているんだけど、なんかもうよく分からん。顔が燃えてる不良の悲鳴と、燃える臭いが不愉快すぎて頭が麻痺してる。


 「確かに魔王だけどさ、ぱっと見5才児に殴りかかるとかどういう教育うけてるわけ?……次からは殴りかかるなよ、お前らみたいな格下を殺さずに燃やすのってかなり神経使うんだからな」

 

 しかもミフィー君は現在進行形で人を燃やしているというのに、平然と喋りながら不良達に近づいていく。うわこっわ。ぱっと見5才児相手に、不良達が涙目になりながら震えてるもん。やっぱこの人とまともに関わったらダメだわ。考え方がシンプルに魔王だもん。


 「話戻すんだけどさ、昨日まで浮浪児だったこの男と仲良くしてやってくれよ。宿題のやり方とかもさ、教えてあげてさ?なっ、できるだろ?」


 ミフィー君が不良達の腰ら辺をバシバシと叩くたびに、不良達は大袈裟にビクビクと体を震わせる。可哀想だな本当に……不良達はうんうんと首が曲がるんじゃないかってぐらい高速で頭を縦に降っていた。

 ミフィー君が指を鳴らすと、燃え上がっていた不良の頭部の炎が消えた。さぞかし酷い火傷だろうなと思って顔を見てみたが、傷が何一つとしてない。あんなに叫んでたのにダメージがないなんてことあるの?


 「あーーちなみに、火を消すと同時に顔を修復してあげたんだわ。……もしお前らが約束破ってこいつの面倒見なかったら、顔を燃やすのと回復させるのを永遠と繰り返して、永遠の苦しみを与えるからな。気をつけろよ?」

 「……………」


 彼のその一言でこの場の全てが絶句した。はいっ!この人終わってます!


 「つーわけだ、こいつらに色々と面倒見てもらえ。俺はこれから用事あんだわ。じゃあな」


 そしてミフィー君はイリナが消えていった方に向かって歩き出した。


 「…………」

 「…………」

 「…………あの、なんかすみません」

 「…………」


 そして残された僕達は、気まずい雰囲気のなか、互いに謝りながら宿題を片付けた。

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ふぇいす〜三界の半神すべてに捧ぐ詩〜 ユーハバッハ正義 @gohantube

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