あなたの指が月光を弾いた、白い光が希望みたいだ

相反する音色だからこそ惹かれ、思うことで相手の音色に染まり、自身の音色を見失って別れてしまう。
狂わせるのは月光か才能、それとも恋愛か。
気づかされるほど、悲しいものはない。

本作は、同作家の『月光』に登場する彼女側を主人公にして、立場や配役が入れ替えただけでなく、独自の構成で描かれた作品となっている。

ベートーヴェンの楽譜を見て、どういったところから希望の月光をみつけたのかが書かれていない。
考えられるのは、彼のピアノに惹かれたからだろう。
学校がちがう彼と会うには、コンクールに出るしかない。
彼が月光を弾くのならば、自分も月光を弾く。
月光を弾いていれば、同じコンクールに出ることができるし、彼に会える。
それが彼女の希望だったのではないか。
いつしか月光が、彼に会える希望の曲へとなっていったのではと邪推する。

そう考えれば、死んだ理由「僕にとって、君はジュリエッタだから」といわれた彼女が「君は、私のベートーヴェンだよ」と答えることにつながるのだろう。
悲劇だったのは、彼の気持ちに彼女は気づかず、彼女自身は彼が好きだった自覚が足りなかったことかしらん。

もともと彼に会うために月光を弾いてきたのだから、会えないとわかっているので、月光は希望にはなり得ない。 
号哭として鳴り響くのは、彼女自身の悲しみである。
それはそれで、新しい月光の音色として受けいられるかもしれない。

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