ラットマンの学者


 先日、夢の中でラットマンの学者に出会ったので、彼に話を聞いてみました。


 ラットマンとは文字通り、ネズミのような姿をした人型の生き物です。二足歩行をして、手には5本の指があります。ぴんと背を伸ばすと、その背丈は人間よりも大きいのですが、いつも背を丸めているので人より小さく見えます。


 彼は黒い法衣服の間から白い毛をのぞかせて、こちらに背を向けていました。


 私とラットマンの学者は、何かの洞窟のなかにいたと思います。

 いえ、石の壁が見えたので、本当は遺跡の中だったかもしれません。


 彼の命は私が見る夢の中、数分、あるいは数十秒しかありません。

 なので多くは聞けなかったのですが、このようになります。


「本格ファンタジーとは? 無い世界を何で描くのです」


「存在しない人々を、なぜ描くのです?」


 彼は舌を前歯にすりあわせ「シッシッシ」と奇妙な楽器のような音をたてます。きっと笑っているのでしょうか。


ーーーーーー

ほんかく ふぁんたじー しらない


でも ない せかい ひと かんがえる しってる


あなたたち せかい やりかた ただしい?


びょうき のろい あくま せい?


そのひと わるいことした ばつ ない


でも ほんとう あくま いたら


いまの それ ただしい?


びょうき あくにん の もの


みんな たすけあう ただしい か?


あくにん だから びょうき ひと たすける できる か?


それ かんがえる 

ーーーーーー


 これは私が先日調べていた、「公衆衛生」の事だと、ピンときました。

 かつて私たちの世界では、悪い人間が病気にかかると考えていました。神の怒りや前世の因縁、その人に原因があるから病気になる。そのように考えて、病気の人を助けなかった。


 しかしあるとき「それは迷信だ。」と、看破した人がでました。彼は病気はその人のせいではない。汚い服や水、食べ物のせいであり、多くの人たちで助け合わないといけないと言い、「公衆衛生」という概念ができた。


 ラットマンはその歴史について言っています。


 しかし、このラットマンの学者はその「公衆衛生」が成り立ったのは、人々が助け合うことができたのは、たまたま、その人に原因が無かったからできたと言っているのです。


 もし悪魔が本当にいたら?

 道徳的に悪い人、誰かを陥れる悪人だから病気になる。

 超然的な神による正義の執行、その罰が病気であったなら?


 私達が他人を助けるという行為は、もしその人が悪人でも成り立つのか?

 それを問うことが「無い世界、無い人間を描くこと」だと言っています。


「哲学的ですね。それを人々に聞かせるのは難しいのでは」


ーーーーーー

てつがく むずかし ない


かんがえること さがす


かんがえる ほうほう


それだけ こたえ じゅうよう ない


こたえ かんがえる する


これ なにか

ーーーーーー


 そう言って彼は壁を指差します。

 そこには壁から突き出た杭があり、たるんだ紐がひっかかっていました。

 私は見たままを口に出しました。


「たるんだロープですね」


 私の言葉を聞いた学者は、「シッシッシ」と笑いました。


「これ つかってる? つかってない?」


「ここにあるなら、使っているロープではないですね」


「そう つかって ない」


「これ いみ ない か?」


「どちらともいえないですね。いつか役に立つかも」


「あなた わたし かんがえ うけとった」


ーーーーーー

もじは えは


がんばること だす


みんな がんばる しりたい


だから がんばる のこす


だから みんな がんばる する


だから のこす


みんな がんばる すこし よくなる

ーーーーーー


 以上の内容は、もっと長かったかもしれないですし、もっと短かったかもしれません。なにせ夢の中のことなので。彼とはもう少し何かを話したと思います。


 ですが、壊れた本からいくつかのページが落ちた。そんな記憶になっています。

 洞窟を埋め尽くすほどの大きい白いウジの記憶、岩肌の天井に生える、オレンジ色の花弁を持ち、金色の蜜を垂らす植物。


 なにか意味ありげですが、よくわかりません。



以上です。

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【ねくろん式】本格ファンタジーの定義 ねくろん@カクヨム @nechron_kkym

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