フェイズ4 帰還

 おおとりが無事帰ってきた。

 滑走路に降り立ったおおとりは、消防車に取り囲まれたが、放水や消化剤噴霧も必要はなかった。

 この事実だけでも人々を驚嘆させるのには十分だったが、それは序の口に過ぎなかった。

 機外から有線接続したところ、航行補助コンピュータと推論式粘菌コンピュータしか信号を返さなかったからである。本来、機体を制御するコンピュータ群は、一部の記録装置を残して全て損壊していたからだ。

 これらの損傷を受けたのは、異常が発生したその時である事もわかった。推論式粘菌コンピュータ、すなわちCBM705もいくらか影響を受けたようだったが、発進時とほぼ変わらぬ状態だった。

 異常の原因はデブリ同士が接触したものと判明した。コンピュータの破壊は、デブリの片方が他の衛星に体当たりして自爆する軍事衛星だったからだ。この衛星は、自爆の際に強力な電磁パルスを撒き散らすよう作られていることも、追跡調査で判明した。記録上は廃棄処分済みとなっていたため、想定状況になかったのである。

 しかし、そうした危機からおおとりがどうやって帰還の途につけたのか。

 それだけは誰にも解けない謎のままだった。

 ただ、このミッションを通じて、一つはっきりしたことがある。設計段階で有人機として作られた機体は、有人で運用すべきということだ。

 人間の手が関わるものには、人間の責任も関わる。だから、それが行えないような状態にしてはいけない。

 以上が、おおとりの管制室から発表された内容の要点である。



 CBM705は、全てのミッションを完了した。

 粘菌コンピュータの持つ特性である増殖は、他のコンピュータと接続すると危険を伴う可能性があった。それは、増殖した際に侵食してしまうというものだった。

 このため、CBM705には、自機が増えすぎたときのため定量まで数を減らすための自殺プログラムが組み込まれていた。生物学で言うアポトーシスを限定的に行うのである。

 最後にプログラムを組んだ際、CBM705は粘菌コンピュータの原則に従って、自機の減数を行ったのである。

 この事実を知ることは、地上の人間には不可能だった。

 もしも、有人機であるおおとりに人が乗っていたなら、別だろうけども。

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帰還~Return To My Earth~ 蒼桐大紀 @aogiritaiki

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