第29話 妹と妹物アニメを一緒に観てから、妹の様子がおかしい

「……はぁ」


 俺は起床するなり深いため息を漏らしていた。


 起床して初めに思い出したことは、俺と綾乃の仮の恋人関係が終わったことだった。そして、その後に結構泣いてしまったことだ。


 さすがに、後から思い出したら自分でも恥ずかしくなるが、今さら恥ずかしがっても仕方がない。


「さすがに、目は晴れてないよな?」


 俺は枕元にあったスマホを手にしてカメラを起動させた。


 自撮りモードに切り替えて、スマホを鏡の代わりにして目元を確認してみる。


 以前、綾乃に失恋をしようと言った翌日、綾乃は目を腫らしていたことがあった。


 俺も同じようになっていないか不安だったのだが、どうやら酷いことにはなっていないらしい。


「大丈夫、なはずだよな」


 ベッドから体を起こして、自室の扉に手をかけたところで、俺は少しだけ固まってしまった。


 綾乃にどんな顔をして会えばいいのか分からない。


 少し前までのブラコンシスコン兄妹を演じようかと思ったが、多分、今の俺たちにあの演技をすることは難しい。


 ぎこちなさが出てしまって、変な感じになってしまうだろう。


 それなら、もうそんな演技はしないでいいのではないだろうか?


 互いに異性として意識をして、仮で付き合ってみて、失恋をした兄妹。


 それが新しい俺たちの兄妹の形なのではないだろうか。


 何も昔の関係にこだわることはない。俺たちは日々成長して、大人になっていくのだ。


 それなら、今の状態で自然体で接することが、正しい兄妹としての接し方のような気がする。


 そう思うと体が少し軽くなった気がして、重く感じていた部屋の扉を開けることができた。


 時とともに変わっていく関係。そんな変わっていく中でも、妹のことを一番に考えてあげることができていれば、それでいいのではないだろうか。


 妹のことを一番に考える。まさにシスコンじゃないか。そもそも、昔の自分を演じる必要なんてなかったんだ。


 だって、俺は今も昔もシスコンなのだから。


 階段を下りてリビングの扉を開けると、そこには綾乃の姿があった。


 制服にエプロン姿の綾乃は、俺がリビングに入ってきたことに気がつくと、台所から顔を覗かせていた。


「おはよう、綾乃」


 俺が綾乃に挨拶を済ませると、綾乃は屈託のない笑みを浮かべていた。


 その笑顔を見て、俺も反射的に笑みを浮かべていた。


 そうだ、無理やり昔の関係になんて戻らないでいい。これから綾乃と俺たちらしい兄妹の関係を新しく作っていこう。


 少しだけ成長した、新たなブラコンシスコン兄妹としての関係を。


 そんなことを考えていると、綾乃は台所から顔を覗かせたあと、こちらに駆け寄ってきてくれた。


 やっぱり、あんなことがあっても、綾乃もブラコンということは変わらないらしい。


 そんなふうに安堵のため息を漏らしているとーー


「おはよう、お兄ちゃん!」


 綾乃が勢いをそのままに、俺に抱きついてきた。


 背中に手を回して、膨らみのある双丘を押し付けるようにしてぎゅーっと強く抱きついてきた。


「ん?! え、ちょっ、ちょっ、え?!」


「えへへっ、お兄ちゃん、慌てすぎ」


「いや、慌てるだろ?! え、どういうこと?!」


 確かに綾乃との仮の恋人関係は終わったはずだった。だから、朝起きて突然、妹の綾乃に抱きつかれるなんてありあえないはずだった。


 なんだこれ、なんだこれ? ゆ、夢なのか?!


「あ、綾乃? 俺たちって、確かに失恋したよな?!」


「うん。失恋したよ。それで、またお兄ちゃんのこと好きになった」


「……え?!」


 思いもよらない返答が返ってきたので、俺は思わず言葉を失ってしまった。


 失恋したのは昨日のはずなのに、それでまた俺のことを好きになった?


 言っていることの意味が分からない。そんな困惑してる俺のことをじっと見つめた後、綾乃は頬を朱色に染めながら、含みのあるような笑みを浮かべた。


「お兄ちゃんは私がどれだけアピールしても、私とお付き合いとかしないんだよね?」


「そ、そりゃあ、兄妹だからな」


「絶対に振り向いたりしないんだよね?」


「そ、そうだな。そうなるだろ」


「うん、よかった。だったら、安心した」


「あ、安心した?」


 ますます言っていることの意味が分からない。


 確認されたのは、俺たちの恋がこれ以上進むことがないということ。倫理的にアウトな俺たちの恋は、成就することはない。


 それは絶対正しいはずだった。


「お兄ちゃんへの気持ちが抑えきれないで困ってたんだけど、そういうことなら、好きなだけ気持ちをぶつけても問題ないよね?」


「いやいや、問題あるだろ?!」


「問題ないよ。だって、お兄ちゃんが私の気持ちを受け入れないかぎり、この気持ちはただの一方通行だから。片想いするのはどんな恋愛でも自由でしょ?」


 綾乃は得意げにそんなことを言うと、屈託のない笑みを浮かべた。


 正論のようで、正論というにしてはねじ曲がり過ぎた思想。ただの恋心というにしては歪で、不純物が混じっているような感情。


 それだというのに、その感情を向けられて不思議と悪い気はしなかった。


 むしろ、どこか中毒性と依存性を兼ね備えているようなそれは、混じりけのない純粋なものよりも心惹かれるものがあった。


 純度が高くて、形の整っているような人工的な恋愛感情よりも、天然物で歪な形をしているそれの方が、人間味があって綺麗な気がした。


「私の幸せは私が決めるから」


 綾乃は俺に聞こえないように小さな声で何かを呟いた後、こちらに熱を帯びている瞳を向けてきた。


 どこか不純な感情に染められた瞳は、ハイライトの一部が欠如しているようにも見えて、それを向けられた俺は、今までと少し違った鼓動の跳ね方をさせていた。


 そして、今まで以上に綾乃の瞳に魅了されてしまっていた。


「……絶対に堕ちないでよね、お兄ちゃん」


 綾乃は甘ったるいような声でそんな言葉を口にすると、俺に抱きついていた腕をさらに強くした。


 微かに漂う甘い女の子の香りと、双丘の柔らかさを当てられて、俺の鼓動は加速していった。


 綾乃に聞こえるんじゃないかというほど速く、大きくなっていく心臓の音。その音に誘われるように、俺はそっと綾乃の背中に手を伸ばしていた。

 

 どろっとした甘さは胸の奥に染みていき、俺の常識を少しずつ変えていく。


 少しずつ浸食されていく心の前で、俺は綾乃に対して兄として振る舞い続けることができるのだろうか?


 兄として、妹の幸せではなく別の幸せを願うようになったら、新たに築こうとしていた兄妹の関係は簡単に崩れてしまうだろう。


 そんな新たな兄妹としての関係も悪くない。


 そんなことを本気で考えている俺の存在に気づいて、俺は自分自身を軽蔑するような笑みを漏らしていた。


『妹と妹物アニメを一緒に観てから、妹の様子がおかしい』


 ……どうやら、おかしくなったのは俺の方だったのかもしれなかった。





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ここまで読んでいただきありがとうございます!


この話をもって、この物語は完結という形になります!

表記として『連載中』になっている思いますが、然るべきタイミングで『完結』に変更しようと思っております。


本作は、背徳感をテーマに執筆した作品になっております。

みなさんの背徳感を少しでも煽れたのなら、大変うれしく思います。

(作者は妹物は純愛と捉えておりますが、一般的に背徳的らしい……笑)


また、レビューや評価などを頂けますと、大変励みになりますので、何卒よろしくお願いします!


最後に、実妹コンテンツが今後も増えることを切に願っております!

妹コンテンツに、栄光あれ!!


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妹物アニメを一緒に観てから、ブラコン妹が俺を異性として意識し始めた件 荒井竜馬 @saamon_

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