第26話 新たな仲間

 村へ戻る途中、凶暴化した魔物と何度も戦闘を繰り返した。おそらく、異形の妖精との戦いの影響を受けた魔物たちだろう。

 幸い、村の中まで魔物は来ていなかったようで、すぐに対処できたことにホッと息を漏らす。

 一応、念のためにみんなで村の周囲を見て周り、異常がないことを確認するした後、私たちはロイドとシェリーを宿に送り届けてからウィルヌスを連れて村外れの空地へと向った。

 そこには何故かレヴィアもついてきている。

 もう遅い時間だし、宿で待っていてもらっても良かったのだが……。


「……ここなら誰にも聞かれないでしょ」

「何だ?話を聞くだけだというのに、ここまで厳重にしないといけないのか?」


 私は、もう一度周囲に誰もいないことを確認すると、徐に魔力を込めて背中から羽を出現させる。

 その姿を見たウィルヌスは一瞬眉をピクつかせ、私を見つめた。


「お前、その羽」

「うん。私はフェアリア。生まれ故郷であるティタニアへ帰るために冒険者として旅をしている」


 そして私は語り始める。自分が何故ここにいるのか、今までどうしてきたのか、そして、初めて消滅させた柱での出来事も。

 私の話を聞いたウィルヌスは、顎に手を当てて「ふむ……」と息を零す。


「……事情は分かった。あの柱は、そのような形で存在しているのだな」

「おそらくの話だけどね。でも、異形を倒したことで柱は消滅したから、エルミ姉の話はほとんど事実のものと考えていいと思う」


 なので、柱を壊せば星にダメージが……という話も、本当の可能性が非常に高い。

 今回は自分のワガママで柱を壊したが、これからは慎重に動かなければならないだろう。早急に何とかして、異形化したフェアリアを元に戻す方法を見つけ出さないと。


「そういうことなら、俺もお前たちの旅に同行しよう」

「は?なんで?」


 私は突然そんなことを口にする彼に、困惑の表情を浮かべて首を傾げた。


「なんでとはなんだ。俺が一緒にいたらマズイか?」

「い、いや……そんなことは無いけど……」

「だったら別に良かろう」

「いやいや、どうしていきなり一緒に行こうって話になったのさ」


 横で話を聞いていたレヴィアも流石に驚いたらしく、私たちの会話に割って入ってきた。


「ふんっ。理由は一つ。一人で旅をしてもつまらんからだ」

「ええ……??」


 そんな理由で?

 私は困惑する声を上げるレヴィアの横で、苦笑を浮かべながら心の中で呟く。

 でもまぁ、強い味方が増えるのはいい事だ。レックスも仲間を増やせって言ってたしね。

 ここで超戦力のドラゴンが仲間になるのは、今後旅が厳しくなるのことを考えると非常にありがたい。


「何、心配するな。お前たちの目的も俺が叶えてやろう。シファルを横断し、その先にある海の上に浮かぶ孤島を目指すのだろう。だったら、俺のような強き者が居た方がお前たちも心置き無く旅ができよう」

「それはそうだけどぉ……」

「フハハッ!何ならお前たちを乗せて空だって飛んでやるぞ!」

「それは、遠慮しとこうかな……」


 今は目立ちたくないし。


 というわけで元素龍の一柱。緑鱗龍ウィルヌスが仲間になった。

 人の町を巡る関係上、彼が魔物というのは気がかりだが、それでも戦力を増強できるのはいい事だ。


 ウィルヌスを仲間に加えた私たちは、宿屋へ戻り一夜を明かすことにした。

 私たちの泊まっている部屋は二人部屋だったため、ウィルヌスは元々の住処であるシドリスの工房で寝ると言って出て行ってしまったが、あっちは大丈夫だろうか。

 そんなことを思いながら迎えた翌日。

 調理スペースで料理を作るレヴィアを見ながらぼーっとしていると、遅れて紅焔の翼の四人が朝食のために入ってきた。

 四人は、私たちがいるのを確認すると、軽く手を挙げて挨拶してくる。


「よお」

「ん、身体の方は大丈夫?」

「ああ。みんなピンピンしてるぜ。お前がくれた薬のおかげだな」


 そう言って彼は、細身ながらにしっかり付いた二の腕の力こぶを見せてくる。

 昨日、彼らと別れる前、私は彼らに滋養強壮のある粉薬を作って渡しておいた。

 レヴィアに預かってもらった薬草類でパパッと適当に作ったものだったが、どうやら効き目はあったようだ。


「すまん。俺が足を引っ張ったせいで、あんたたちに迷惑かけて」

「迷惑なんて思ってない。元々、異変が起きた時点で柱を攻略するつもりではあったからね」


 松葉杖を突いて歩く男性ブロンは、申し訳なさそうに頭を下げる。

 私は気にしていないとだけ言って、改めて紅焔の翼のメンバーを見渡した。


「まぁ、負傷者は出たけど無事でよかったよ」

「本当にな」

「あなたたちはこれからどうするの?」

「まぁ、まずは組合に今回の件の報告だな」

「その後は、適当に数日休暇を入れて次の冒険に出るつもりよ」

「まぁ俺はこの足だし、冒険者は引退することになると思うけどな」


 そんな会話をしていると、朝食を持ってきたレヴィアが私の前に品を置いた。


「お待たせ♪今日の朝ごはんだよぉ〜」

「ありがとう」

「――では、俺も頂こうか!」


 そして、私たちの間に入ってくるこの男。


「ウィルヌス」

「ふはは!おはようだ!諸君!」


 ウィルヌスは何やら機嫌が良さそうで、私たちに絡んでくる。少し面倒臭い。

 というか、いつから居たんだ?


「あんたも居てくれて助かったぜ。今回、あんたが居なければどうなっていたか分からなかった。良かったら、俺たちと一緒に旅をしないか?」

「ふはは!それは出来ん!もう先約があるからな!」


 そう言って彼は、私の肩にゴツイ腕を乗せてくる。止めろ、暑苦しい。


「そうか。それは残念だ」

「まぁ、世界は広い。冒険を続けていればいずれどこかで会うだろうさ」

「……そうだな」


 そんな風に言っている間にも、次々と朝ごはんが並んでいく。なんだ?今日は随分と豪勢だな。


「まぁ、こんな朝もあっていいよねって。ほらほら、みんな食べて!私お手製の豪華な朝ごはんだよ♪」

「わ、私たちもご相伴にあずかってもいいんでしょうか……」

「うん。じゃんじゃん作って持ってくるから、どんどん食べちゃって♪」

「それなら遠慮なく!くうぅ〜……うめぇ! 」

「ロイド、みっともないわよ」


 こうして私たちは紅焔の翼と食卓を囲み、楽しい朝の時間を過ごすのだった。


 ◆◆◆


 ――光の柱消滅より少し前。


 世界地図の西側に広がる魔導大陸“ソーン”。

 豊富な魔力資源と良質な魔結晶が取れることから魔道具作りが盛ん。

 世界有数の魔法学校もあり、まさに魔法学を学ぶための大陸。


 そんな大陸の南側。

 数年前から瘴気により汚染されたその場所は、もはや並の魔物では立ち入れない死の領域と化していた。


「……相変わらず酷い場所」


 白いリボンカチューシャを頭に付けた少女は、その美しい金髪を瘴気の風に靡かせて無表情に呟く。

 彼女の種族はデビリムだか、その特徴である角も矢尻の尻尾もない。一見すると蝙蝠の翼を持つエルフーンだ。


「ここに居ましたか。ソフィさん」

「ジェロン」


 ソフィと呼ばれた金髪の少女は、後ろからやって来た糸目の男性の方へと真っ赤な瞳を向けた。

 学者のような恰好をしているジェロンという男性は、魔導書を片手に周囲を見渡しながら彼女の元へと向かう。


「何か見つけましたか?」

「いいえ。特には」

「そうですか……。ふむ、ここなら例のものが見つかるかと思ったんですけどね」


 ジョロンはパタンと魔導書を閉じ、腰のブックホルダーにしまう。

 彼らは、この場所にとあるものを探しにやって来ていた。

 それは、一欠片で莫大な魔力を生み出す鉱石らしく、古い文献によるとこういった濃い瘴気に溢れた場所でよく見つかるという。

 しかし、結局何も見つけられず途方に暮れていた。


「はぁ……目ぼしい物は見つかりませんし、そろそろ帰りましょうか。いつまでもこんな瘴気まみれのところに居たくありませんからね」

「そうね」


 そう言ってこの場を立ち去ろうとする二人。

 しかし、突然来た違和感にソフィは咄嗟に大きく蝙蝠のような翼を広げてジェロンを抱き抱えた。


「ッ……!!」

「ぐぇ!?ソ、ソフィさん!?」


 ――ズガガンッ……!!


 突然の浮遊感に驚くジェロン。

 ソフィが浮遊した直後、彼らのいた場所は大きな揺れと共に崩落を始めた。

 大地は吸い込まれるように、底の見えない奈落へと消えていく。

 瘴気も一緒に下へと流れていき、あっという間にクリアな視界と新鮮な空気に入れ替わった。


「な、何が起きたんです!?」

「……」


 ソフィたちは、すっかり様変わりした危険区域を目を丸くして見ていた。一体何が起きたんだ。

 彼らのいた場所は、まるでそこだけ世界に大穴が開いたかのように消えて無くなっていた。

 あまりに不気味な光景に、ソフィは珍しくポーカーフェイスを崩している。


「あっ、ソフィさん。助けていただいてありがとうございます」

「お礼はいい。とりあえず、着陸できる場所まで移動しよう」

「そうですね」


 ソフィは眼下に広がる不気味な大穴を見ながら、突然発生した異変に眉を顰めた。

 一体何があったのだ?ソフィは思い当たるものを頭の中に浮かべる。


「……この世界に何かが起きている?」

「何か……とは?」


 ソフィの独り言に、ジェロンが反応する。

 ソフィは彼の質問に一瞬眉を顰めるが、小さくため息を吐き、答えた。


「分からないけど、もしかしたら“ディザスターピラー”が関係しているかも」

「ああ。なるほどディザスターピラーですか。確かにそれなら可能性はありますね」


 約一年ほど前から確認されている輝く謎の柱。

 彼らはこの柱を災厄の導とし、畏怖を込めて“災厄の柱――ディザスターピラー”と呼んでいた。

 この柱が発生している場所は、必ず何かしらの異変が起きる。

 放っておけば周辺は侵され、やがて人の住めない地へと変化するだろう

 しかし同時に、壊してはいけないものであるとも感じた。壊すとこの星に何かしらの影響を及ぼすと考えたのだ。

 なので彼らは独自に柱について調査し、どうにか安全に処理する方法はないかと模索している。

 危険を承知でここに来たのもそれの一環だ。


「もしも、ディザスターピラーのせいなのだとしたら、早く鉱石を見つけ出さなくてはいけませんね」

「そうね」

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