第4話 冒険者
冒険者ライセンスを手に入れた私たちは、早速資金調達の為の依頼を受けることにした。
受付の真横にある広間の壁には巨大なコルクボードが設置されており、そこに毎日入ってくる様々な依頼が貼り付けてある。
私たちは、そのボードの前に集まる冒険者の後ろから目ぼしいものがないか探していた。
「私たちはまだ冒険者になったばかりだからね。難易度の高い依頼は避けた方がいいかも」
「うん。最初は簡単な奴を受けて勝手を知ったほうがいいかも」
私は後ろで頷くローザを横目に、目の前にある大量の依頼群を眺めて私は顎に手を当てる。
「となると、やっぱり採集系の依頼がいいのかな。でも、ものによっては討伐系より大変そうだし……あ、あれなんかいいかも」
そう言って私が手にしたのはピュリフ草採取の依頼。
ピュリフ草とは、あらゆる回復薬の素材となる魔草のことだ。
魔力のある場所に生える草で、場所によって色合いや含まれる成分なんかが異なる。依頼によっては場所を指定されることもあるようだ。
「これには場所の指定はないし、期限も定められてないから初めて受けるには丁度いい」
「アム……様は、草の見分け、できるの?」
「ん、島ではしょっちゅう薬草採取をしてたからね。それくらいはできるよ。あと、様は付けなくていい」
ボードから剥ぎ取った依頼書を受付に持っていくと、私たちの冒険者登録してくれた受付嬢がそれを受け取ってニコリと笑う。
「受ける依頼が決まったみたいですね。……なるほど薬草採取ですか。初めての依頼には丁度いいかもしれませんね」
「ん、まずは簡単なやつで勝手を覚えないとと思って」
受付嬢は依頼書の真ん中にハンコを押すと専用の道具で真っ二つに切り裂き、ハンコの下部が残る片割れを私たちに手渡した。
「これで依頼の受理が完了しました。その書類は依頼の報告をする際に必要となります。もし無くされた場合、その時点で依頼は無効となりますのでご注意ください。また、依頼を失敗、または途中で破棄された場合、違約金が発生することがありますのでこちらも注意してください」
「ん、分かった」
私は受け取った書類を二つ折りにして大事に抱える。これをしまうファイルと鞄を早急に用意しなければならないな。
「それじゃあ行こうか」
「うん」
「行ってらっしゃいませ。お気を付けて」
◆◆◆
所変わってエダフォスの森。
ライツを南下した場所にある大きな森で数多くの遺跡が残されている。
森全体が神聖な魔力に満ちており、入り口付近は他と似たり寄ったりな普通の森だが、奥へ進むにしたがって魔物の質が変化。魔法攻撃を主体にしてくる強力な魔物が増えていく。
このことからここは“魔力の森”と呼ばれているらしい。
その話を直前に聞いたからなのか、ローザは怯えた様子で私の腰マントを掴んで離さない。そんな彼女に、私は思わず苦笑する。
「そんな怯えなくて大丈夫だよ。ここにいる魔物はそんなに強くないから」
「ど、どうしてそんなこと分かるの……?」
ガサッ!
「ヒッ!?」
草木の揺れる音に声を上げるローザに苦笑しながら、私は目の前に現れた魔物へ視線を向ける。
私たちの前に現れたのは、浅緑の肌と小さな角を持つ人型の魔物だった。
ヒュームの子供ほどの大きさで、手には剣や盾に弓や棍棒などを持っている。
私たちを目の当たりにした魔物たちは「ギャッギャ」といやらしい声を上げて得物を構えた。
「ゴ、ゴブリン……!」
「ほー、これがゴブリン。初めて見た」
これが噂に聞くゴブリンか。
人間の五歳ほどの知能を持ち、武器や道具を作り出したり罠を張って獲物を捕らえたりする魔物。
単体の強さは大したことないが、基本的に集団で行動するのでとても厄介な存在らしい。特に角笛を首に掛けているヤツは真っ先に潰さないとどんどん仲間を呼ばれて大変なことになるのだとか。
里長の家にあった魔物図鑑で存在だけは知っていたが、島にはいなかったので少し感動を覚える。
「……にしても、数が少し多いな」
見渡す限りにゴブリンの群れがこちらを囲んでいる。この数……少なくとも三十以上は
「ア、アム様!早く逃げないと!」
――ギャギャギャッ!!
ローザの叫び声と同時にゴブリンたちは一斉に襲い掛かる。
剣や棍棒を持つ者は得物を大きく振り上げ、力任せに振り下ろす。背後にいた弓を使うゴブリンは精度の低い射撃を放ち、素手の者は手ごろな小石を拾って投げたり、そのまま殴りこんできたり攻撃方法は様々だ。
さすがは魔物の中でも頭のいい種類なだけある。だがこの程度、私にとっては攻撃ですらない。大振りの攻撃はそもそも見るだけで避けられるし、小石は当たっても全く痛くない。強いて注意すべきなのは弓による攻撃だけだろう。
「わわわ……!い、イタッ!痛い……!」
「っと、様子を窺っている場合じゃないか」
私がゴブリンの観察をしていると、後ろに隠れていたローザが悲鳴を上げ始めた。このままでは彼女が傷だらけになってしまう。
私は肩を竦めながら無数の剣を作り出すと、そのままゴブリンたちに向って撃ち放った。特に言うこともなく、あっという間に討伐を完了する。
「ん、やっぱり大したことない。
「す、凄い……」
ゴブリンたちを蹴散らした私、はそこら中に散らばる残骸を見て眉を顰める。この数の魔石を繰り抜くのは骨が折れるな。
「仕方がない。全部燃やすか」
「も、燃やすの?」
「ん。魔物は適切な処理をせず放っておくとアンデッドになって復活するからね。本当は魔石を回収しておきたかったけど、この数を二人でっていうのは難しいから、勿体ないけど全部燃やす」
こんな森の中で炎を出すのは気が進まないが一番簡単な処理方法が火葬であるため、細心の注意を払ってゴブリンを燃やしていく。
「ね、ねぇ、アム様……」
「ん?なに?」
「入り口付近なのに、一気にこの数の魔物が出てくるのはちょっとおかしくない?」
「ん……確かに」
ゴブリンを燃やし尽くしたタイミングで、何やら考え事をしていたローザがそんなことを言い出した。
確かにこの数の魔物が森の入り口近くで出てくるのは少し不自然だ。
集団で行動するゴブリンとはいえ三十以上という数が現れるのは明らかにおかしい。
近くに魔物の集落か住処でもあるのか?
ここは行商人も使う街道の近くだ。
もしも本当に集落なんか近くにあるのだとしたら、放っておけばいずれ森の外にも被害が及ぶ可能性が十分にある。
私は眉間に皺を作り大きくため息を吐いた。
「……はぁ、しょうがない。依頼は薬草の採取だけだけど、このまま放っておいて被害が拡大したら嫌だからね。様子を見るだけしてみようか」
私はゴブリンたちが現れた方角に視線を向けると、そのまま草木をかき分けて足を進めて行く。
進む先には獣道が続いており、何度も何者かが行き来していることが窺えた。
「この道、ゴブリンたちが普段使いしていそうな気配がある」
「うん……。かなり使い古されてるけど、人の足跡が一つもないね」
「よくもまぁ、こんな道が今まで見つからなかったものだ」
そうこうすること数十分。
道中ピュリフ草を探しながら獣道を進んでいくと、少し開けた丘の上に出てきた。
「ここは……」
「ん、下に村が見える」
丘から下を見下ろすと農村のような場所を発見した。
人の気配はしない。建物はギリギリ型を保てているとはいえかなり朽ちており、場所によっては骨組みだけが見えている状態になっている。
ここはいわゆる廃村というやつだろうか。
「見て!あそこ!」
ローザの指さす方へ視線を向けると、そこには大量の緑の塊を確認できた。
「ゴブリン……」
予想的中。
思った通り、ここはゴブリンの集落のようだ。
おそらく放置されていた廃村に住み着いたゴブリンが、長い年月をかけて数を増やしていき、集落にになってしまったのだと思われる。
これだけの数。普通ならば討伐依頼などが出ていてもおかしくない。しかし、話題にすら上がっていないということは、ここのゴブリンたちは最近になって外に出てきたということなのだろう。
早期に発見できてよかったと思うべきか。
「行こう」
「うん」
妖精のイデア - Moments of Fairy Tale - 月燈 @Tsukiakari421997
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