ある日、自身がプレイしていたVRMMOの世界、その妖精のアバターに転生してしまった社畜気質な女性が主人公。
周囲を極寒に囲まれた常春の箱庭(農園)経営に努めるようになる。生前得ていた花とゲームの知識を駆使しながら、主人公は箱庭という“春”を拡げ、世界を覆う雪、そして冬の寒さを溶かしていく──。
視点を変えながら一人称で描かれる本作の魅力は、コミカルに描かれる、妖精の主人公の箱庭経営の様子でしょう。突然の転生に戸惑いつつも持ち前の社畜気質が幸い(災い?)して、前向きに世界と向き合い始めます。
主人公は植物を育てることで経験値を得てレベルが上がり、少しずつできることも増え、箱庭そのもの拡がっていくのですが、その様がふわふわのほほんと描かれていて、読みやすい。
加えて、三十路OLだった主人公の独白がウィットに富んでいて、読みながらクスリとさせられます。そんなコミカルさが本作のファンシーさと相まって、非常に読みやすい“軽さ”を生んでいる印象でした。
けれども、明るく温かいお花畑な世界は主人公のいる箱庭だけ。一歩外に出ればそこは雪吹きすさぶ極寒の地で、正しく神に見放された大地。
そこから訪れるシリアス味を帯びた「来訪者」と、地球生まれの主人公とのやり取りがまた痛快で、シリアスさの中にユーモアを交えてある。おかげで物語の軽さを損なうことなく“外”と“中”のギャップが映えることになり、世界観に深みを感じることができました。
個人的には、植物の知識が得られることも嬉しいです。現実で使うかどうかは別として、栽培方法や植生など、知らない知識を得るという読書ならではの楽しみがありました。
花それぞれにある「花言葉」もうまく物語に馴染んでいて、着想や構成含め、学ぶことができたのも嬉しかったです。
一部スキルのチートさからも伺えるように、どうやら妖精の主人公はその世界で崇め奉られる存在である様子。しかし、主人公はあまり気づいていないみたいです。そんな主人公がふんわりとした雰囲気で拡げていく箱庭こそが、一面の銀世界の希望になる気がしてなりません。
シリアスとコミカルを絶妙に合わせた読みやすい世界観。ファンタジーならではの不思議ワクドキ感。植物について新たな学び。すべてを堪能出来る、素敵な作品。一度手にとって見れば、サクサクと読み進めてしまうこと間違いなしです!