好きという形

凛道桜嵐

第1話 好きという形

「好きです。」

学校の教室にある机に突っ伏して寝ていると頭上から声が聞こえた。

その声は高く優しい声で、でもどこか怖いのか震えていた。

私はその声に気持ちよく寝ていた睡眠を邪魔されたのだ、少しイラッとしながら私はその声がした方を見上げると一人の女の子が立っていた。

その子は私が起きると思わなかったのか驚いてその場に尻餅をついた。

「誰?」

と私が聞くと

「いや、あのすみません・・・・。」

とアタフタと夜空に浮かぶ星達のように散らばったそばかすと栗色の髪が印象的な

女の子はモゴモゴと何かを言っている。

「だから誰?」

と私は畳みかけるように言うと

「緑川・・・・」

何かボソボソとその子は顔を真っ赤にして俯きながら言う。

「緑川・・・・あー男子にモテモテ女子の緑川心瑠(みどりかわ みる)だ。それでどうして私を起こしたの?」

とあくびをしながら私は尻餅をついてまだ心が落ち着かないのかアタフタしている緑川さんに椅子に座ったまま見下ろして話してるとそこに担任の教師が教室に入ってきた。

「お~い!安藤に緑川~早く帰れよー。」

と言っては教室の窓が開いていないか確認をしてさっさと教室から出て行ってしまった。

「放課後の時間終わってるの?」

と私は教室私と緑川さん以外が居ない事に気が付いて言うと

「もう、10分くらい前に終わってるよ。」

と緑川が言う。私はその言葉に

「まじかー、寝過ぎたー。まあ良いか。ていうか緑川さん起こしてくれてありがとう。」

と言って鞄を手に取って教室から出て行こうとした。

教室を出て行こうとした時にさっきまで床に座り込んでいた緑川さんが立ち上がって扉の前に居る私に向かって

「あのさっきの事・・・」

と言っては言葉に詰まったのか何を言いたいのか分からないがモジモジと下を向いては指遊びをしている。

「なに?」

「あのさっきの・・・・さっきの事。聞こえてた?」

トイレにでも行きたいのかと思うくらいにモジモジとしている緑川の顔は真っ赤でさっきより鼻声なのは泣きそうになっているからなのか目を私に合わせないように下を向きながら言う緑川に

「好きですって事?」

と聞いたら無言で緑川は小さく頷いた。

「緑川ってそういう人なの?」

「・・・・・・え?」

「あんたって男子に人気なのにそういう噂聞かないから皆から高嶺の花って言われているけれど、本当は同性が好きなの?ってこと。」

「分からない、分からないけれど私はずっと安藤さんが好きなの。」

「いつから?」

「2年前から」

「てことは高校一年の時からって事?」

「うん。」

「え?同じクラスでもなった事あったけ?」

「一年の時は同じクラスだったよ。」

「え、ごめん覚えてない。本当にごめん、噂で緑川の事は知っていたけれども男子が騒いでいる女子生徒がいるくらいにしか頭に無かった。」

「うん、そうかなと思ってた。私の顔を見て誰って言ってたし。」

「本当ごめん、それでどうして男子に人気の緑川さんが私の事を好きなの?」

「・・・・男子に人気なのは関係ないよ。」

「え?」

「男子に人気なのは関係ない、私が好きになったのは安藤さんだから好きになったんだよ。だから男子に人気なんて安藤さんが言わないで。」

「ごめん、揶揄って私に言っているのかと思ってた。」

「そうじゃない、誰かに言えとか言われたわけじゃ無い。私は安藤さんが寝ているのが見えて言いたくなったの、聞こえるとは思わなかったけど。」

「そう、でも今の私は何も答えられないよ。」

「うん。」

「私は緑川の事を知らないから、だから教えてよ。」

「え?」

「だから緑川の事を教えてよ。」

「引かないの?」

「何が?」

「私が告白したこと・・・・・引かないの?」

「どうして引くのさ、緑川が私の事が好きならその気持ちを知りたいだけ。だからその気持ちを、想いを教えてよ。」

「想い。」

「そう、私の事が好きなら言えるでしょ?」

「今?」

「いや今は私まだ眠いし帰りたいから嫌。普通に帰らせて欲しいから明日からにして。」

「フフッ・・・やっぱり安藤さんだ。」

「何が?」

「私の気持ちを知っても聞こうとしてくれるから、そういう姿を見て私は好きになったの。」

「そう、私には分からないけれど。」

「うん。・・・・・・ねえ、明日から話掛けても良いの?」

「いいよ、だってそうしないと緑川の事を知れないじゃん。」

「そっか・・・・分かった。うん、有り難う。私明日から積極的に話掛けるね!安藤さん有り難う!!」

と言って私と教室の扉の間を通り抜けて廊下を走ってどこかに行ってしまった。

「あの子なんなの?」

と私は走り去る緑川の後ろ姿をただ見守った。



「おはよう!安藤さん!」

と下駄箱で靴を履き替えている為に下の方にある下駄箱の扉を開けていると声が頭上から聞こえた。

「この声は緑川?」

と言いながら私は下駄箱から上履きを出して靴を放り込みながら聞くと

「うん!正解!!おはよう安藤さん!!」

と笑顔でしかも朝から大きな声で言って来る。周りは緑川がそこに居るからか男子達はソワソワして緑川の近くを通る度にチラチラと見ている人が居たが緑川はその目線が気にならないのかむしろ目に入っていないのかキラキラした顔で私に話しかけてきた。

「朝から元気だね、緑川。」

「うん!!さって安藤さんに声かけて良いって言われたから!」

「言ったけど、ていうかいつもこの時間に来ているの?遅刻ギリギリだけど。」

「うん、だって安藤さんこの時間しか来ないじゃん。」

「待って、私がこの時間に来ているからこの時間なの?」

「うん!」

「緑川って実はストーカー?」

「え?・・・・・違うと思う。え?分かんない、どっちなんだろ・・・」

「自分でも分からないの?ていうか遅刻するから私教室行くけど緑川って何組?」

「A組だよ!」

「私F組だよ?しかも校舎の入り口違うじゃん。走って教室向かわないと間に合わないと思うけど大丈夫なの?」

「っは!!本当だ!!遅刻になっちゃう!安藤さん後で教室に遊びに行くから!また後でね!!」

と言って走ってA組の校舎の入り口に向かって走って行った。

朝から元気な緑川の姿は私が噂で聞いていた緑川の姿とは違って見えた。

私も早歩きで教室に向かう。

教室に着いた時にチャイムが鳴ってクラスの友達の鼓奈々(つづみ なな)が

「昨日、佑月(ゆつき)爆睡してて放課後の時間受けなかったでしょ。」

と言って来た。

「分かってたんならどうして起こしてくれなかったのさ。私かなり爆睡してて昨日寝るの遅かったんだから。」

「何回も私起こしたよ?ていうか先生も安藤佑月(あんどう ゆつき)起きろ!!て怒ってたのに起きなかった自分が悪いんじゃん。」

「まじか-。ごめんそれは気付かなかった。」

「だろうね、昨日LINEしようかと思ったけれど止めといたの。絶対怒った内容が来るだろうなと思ったから。」

「さすが私の親友の奈々様、よくお分かりで。」

「1年からの付き合いだからね。」

と言った所で担任が教室に入ってきた。

「こら~席に着け~」

という号令と共に私達はそれぞれの席に着いた。


「おはよう!安藤さん!今日は国語だよね?」

と朝の会が終わって担任と入れ違うように入って来たのは緑川だった。

「なんで次の授業知ってるの?」

「だって教室の前に時間割貼ってあるから、ちゃんとメモしてあるよ。」

と言って可愛いキャラクターの絵が描かれた掌サイズのスケジュール帳を出しながら見せてくる

「要らないよ、そんなメモ捨てちまえ。」

と言って緑川が持っているスケジュール帳を取り上げようとしたが上手くかわされて奪い取れなかった。

「何でそんなに私の事が気になるのさ。」

「それは教えられないかな、でも嫌だったら止める。」

「良いよ、別にそれくらい。家まで着いて来た訳でも無いし。」

「うん、家は知らないよ。そこまでがっつりのストーカーでは無いから。」

「でも若干のストーカー気質は認めるんだ。」

「少しはね、だって安藤さんと仲良くなりたいし知りたかったの。」

「うん、それさえ分かれば良いよ。それで何しに来たの?」

「え?ただお話がしたかったの。」

「話?」

「うん、会話がしたくて来ただけ。」

「そう、会話ね~・・・・」

と私が何の話をしようかと迷っていると

「あれ?緑川さんじゃん。どうしてうちのクラスに?」

とクラスの男子が話しかけてきた。緑川はそれまで私に向かって話していたのとは180度違う態度で

「何ですか?」

と少し怖い目つきで無表情に近い顔で答える。

「あ、友達と話してる時に割り込んでごめんって!怒んないで~まあ噂通りの緑川さんなら怒ったりしないか!ハハハ」

と笑う男子に私は

「緑川の噂って何?」

「え?安藤知らないの?緑川さんって1年の時に虐められてたけれども器が大きいから虐めてきた人に対して菩薩のような優しい心で許してあげて、男子からはその美貌だけでは無くて勉強も出来て運動も完璧の姿に惚れない奴はいないって言う噂だぜ。」

「へえー、緑川ってそんなに何でも出来るんだ。凄いじゃん。」

「そうそう、それに緑川さんって噂によると誰とも付き合ったこと無いんでしょ?」

「そうなの?緑川。」

と緑川に聞くと何かを怒っているのか俯きながら下唇を噛んで

「知らない。そんな話、興味ない。」

とボソボソと言った後

「私授業の用意しなくちゃいけないから帰るね!!」

と急に笑顔に変わって言って去って行った。

「俺、なんか緑川さんに変な事言ったかな?なんか怒っていなかった?」

と聞く男子に私は

「知らない。でも大丈夫じゃ無い?後でクラスに言ってみるから聞いて来てあげるよ。」

と言うと

「助かるわ~俺達の女神を怒らせたらマジで他の男子達に怒られるから。」

と心底ホッとしているようだった。

「そんなになんだ。」

と言うと

「そりゃ、あんだけ美人で誰とも付き合った事が無い女子を彼女に出来てみ?自慢しか無いだろ?」

と何故か付き合っても居ないのに誰かに自慢するように胸を張って言う。

「それって別に緑川じゃなくても良くない?」

「何でだよ、緑川さんがそうだから皆夢中になるんじゃん。」

「じゃあ誰かと付き合ってたら?」

「その彼氏によるんじゃない?その人がイケメンならやっぱり顔か~てなるし、そうでも無ければ俺達にも希望が!と思うかも。」

「何それまるで緑川がアクセサリーみたいだね。」

「そこまで酷い事は言ってないじゃん。」

と笑いながら

「じゃあ俺トイレ行って来るわ」

と言って男子は去って行った。

私は緑川ってそんな風に皆に思われているのかと思う半分どうしてさっき怒った顔をしていたのか分からなくて後で行くしか無いかと思って授業が始まるのを待った。



『キーンコーンカーンコーン』

と授業終了のチャイムが鳴る。

「おい!佑月起きろ!!」

と奈々に起こされる。私はいつの間にか寝ていたらしくお昼の時間になっていた。

「佑月お昼まで爆睡はさすがに担任に後で怒られても知らないよ?ていうか早く起きて食堂に行こうよ。」

「やばい・・・完全に爆睡してた。ごめん、おはよう奈々。財布出すからちょっと待って。」

と言って私は開かない目を必死に開けながら言って鞄から財布を出して食堂に奈々と一緒に向かった。

食堂はいつもと同じく混んでいて、私達は空いている席を見つけて市販で売っている制服のカーディガンをそれぞれの椅子に掛けると食券を買いに列に並んだ。

今日はいつも以上に混んでいるのか長蛇の列を並びながら奈々が

「さっき席を取れて本当に良かったね、危うく取れずにコンビニまでダッシュしなくちゃだったね。」

と言うので私は

「確かに今日は何でこんなに混んでるの?」

と聞きながら列が進むのを待つ。

「そういやさっき何で朝の会の後に佑月の所に緑川さんが来てたの?」

「あ、奈々も気付いた?なんか友達になったみたいで。」

「え?あんた昔虐めから助けたの覚えてないの?」

「なんの話?」

「だから緑川さんが昔女子達に男好きだのそばかすが気持ち悪いだのって言われて虐められた時に助けたじゃん。」

「何それ初めて聞いたんだけど。」

「えー、私それ見てびっくりしたの今でもハッキリ覚えてるよ。女子トイレで虐められている緑川さんと虐めてた奴らにトイレ行きたいから邪魔って言って虐めてた奴が持ってたホースを持ってはその人達に水かけて追い出したじゃん。あの後先生達にトイレを水浸しにして怒られて2人で掃除したじゃんか~。」

「よくそんな事を覚えてるね、全然覚えてなかった。」

「それは佑月は日頃から先生に怒られているから慣れているのかもしれないけれども、あれは結構衝撃的な出来事だったよ。それから緑川さんが何度か話掛けてきたけれどあんた無視してたから嫌いなのかと思ってた。」

「え、無視してないけど。」

「無視してたよ、結構グイグイ話掛けてくるのに対して結構冷たく遇うから酷いなーとは思ってた。」

「奈々ってさ、よくそんな奴と友達で居られるね。私自身の話とは言え今聞いただけでも凄く嫌な奴じゃん。」

「それねー、私もここまでクラスが一緒とか他の佑月の嫌な所があったら友達止めるわ。」

と笑う奈々に

「止めてー、捨てないでー」

と笑いながら私達は無事に食券を買えた。

食券を食堂のおばさんに渡して食事が出来るまで受け取り口の近くで待っていると食堂の入り口からあの栗色の髪が見え隠れしているのが分かった。私は奈々に

「ちょっと待ってて、もし食事出来て番号呼ばれたら教えて~。」

と伝えて私は入り口の方に行くと緑川がコソコソとピンクのお弁当入れを大事そうに持って入り口で誰かを探すような仕草をしていた。

「緑川?」

と声を掛けるとビックリしたのか

「うわ!ビックリした!安藤さん居たんだね!!」

と言って二重の目を何度も瞬きさせる。

「うん、私いつも食堂でご飯食べるから。それより緑川は一人で食堂に来たの?」

「え?・・・・・あ、うん。私お弁当派だから食堂来た事が無くて初めて来てみたの。」

「なるほどね。それで席を探してるって感じなんだ。」

「うん、どこに座って良いのか分からなくて。」

「そしたら~・・・・あ、私と鼓(つづみ)が座る予定の席の隣が空いてるから一緒にご飯食べない?」

「鼓さん?」

「そう、鼓奈々。なんか私ら1年の時に一緒のクラスだったんでしょ?覚えてる?」

「覚えてる、知ってる。でも一緒に食事しても大丈夫なの?」

「いいよー、奈々も絶対怒らないし怖くないから。じゃあその水色のカーディガンと茶色のカーディガンが掛かっている席があるでしょ?その隣に座って待ってて。もうすぐ番号呼ばれると思うから。」

と言って私は緑川の席を勝手に決めて緑川から離れて奈々の所に戻った。

「ねえ、佑月もう呼ばれるよー。」

と私が傍に行くと奈々が食事をもう受け取ったのかお盆を持って立っていた。

「お!良いタイミングで戻ってきて良かったー。後さ、さっき緑川に会って一緒にご飯食べる約束しちゃったから。」

「このタイミングで緑川さん一緒に食べるの?」

「まあさっき噂をしてたけれど、食堂の所でウロウロしてたから声かけたら食堂に来たの初めてみたいで座る席を悩んでたから私等の隣の席が空いてたからそこに座って貰ったよ。」

「ふーん、分かった。それじゃあ一緒にご飯食べるか~。」

「奈々怒った~?」

「あんたの振り回す性格に一々怒ってたらキリが無いでしょ。全く・・・」

と言って

「じゃあ私先に座ってるからね。」

と言って緑川が待つ席に行ってしまい、私は番号が呼ばれるまで受け取り口で待った。



「それでさー緑川さんのお弁当めっちゃ可愛いね!!」

と私が席に着いて話そうとしたが、緑川と奈々はとても息が合うらしく話がかなり弾んでいた。私は2人の楽しそうな顔を見ながらご飯を食べていると

「安藤さんはラーメンが好きなの?」

と緑川がいきなり聞いて来た。私は麺を啜りながら

「いや、今日はその気分だっただけ。」

と言うと

「佑月もう少し笑顔で返せないの?ねえ?緑川さんもそう思うでしょ?」

と奈々が何か言う。私はご飯を食べているからこのような言い方になったのであって得に緑川に冷たくしようとは思ってなかった。

「ごめん、何か冷たい言い方だった?」

と聞くと

「全然、大丈夫!!そんなこと無いよ。」

「そう良かった。特にこの食堂で気に入ってる食べ物は無いの。ただ弁当作るのも面倒だしそれにお母さんも作ってくれないからさお小遣いの中でやりくりして食堂で食べてるの。」

「そうなんだ、じゃあさこの卵焼き食べてみる?」

「なに?その卵焼きくれるの?」

と私が言うとお弁当を私の方にずらして、どうぞと言うので私は頂きますと言って一つ卵焼きを貰った。

その卵焼きは出汁が入っているのか和風の卵焼きでどこかホッとするような家に帰って来たようなそんな味がフワッと口の中に広がる。

「何これ、凄く美味しい。」

と言うと

「良かったー私の自慢の卵焼きなの。」

と言いながら緑川は奈々にも一つ卵焼きを分けてあげた。

「自慢なの?」

「うん、私がお弁当作る中で一番卵焼きが得意なんだ~。」

「え?緑川ってお弁当自分で作ってるの?」

「え?うん、さっき鼓さんが安藤さんに話してたよ?」

「嘘、奈々ごめん聞いてなかった。」

「本当よ~最低~佑月は前からそうだけど人の話の8割方は聞いてないもんね。」

「ごめんよー奈々―。」

「まあこの卵焼きで許すわ!本当に美味しいねー。毎日お弁当作ってるの?」

「うん、毎日朝早く起きて弁当を作ってるよ。」

と2人の会話が始まったので私は会話に入るのを止めたが緑川のお弁当の中にある唐揚げが気になって一口パクリと食べた。

「あ!!佑月!!緑川さんが優しいからって黙って食べたら駄目でしょ!」

と奈々は怒ってきたが、緑川は顔を真っ赤にして

「食べたかったら食べて良いよ」

と言ってお弁当を差し出してきた。私は

「いや、この唐揚げ美味しそうだったから。それに本当に美味しいよ。」

「美味しいよ、じゃないわよ!全く。緑川さんごめんね?この子本当にこういう所があるから」

と奈々が緑川に言うと緑川は顔を真っ赤にしながら俯いているのでやっぱり怒らせたかな?と思っていると

「・・・・・作って・・・?」

「何?聞こえない。」

「お弁当、明日から作って来ようか?」

と聞いて来た。私は

「マジで?良いの?やったー!あ、材料費は渡すからそれで良いかな?」

と言うと緑川は俯いていた顔を上げて

「大丈夫、材料費は要らない。その代わりまた一緒に2人とご飯食べても良いかな?」

と聞いて来た。私と奈々はお互いの顔を見て

「「もちろん良いよ。」」

と言うと真っ赤に顔を染めた星空のようなそばかすの顔をパアッと明るくさせて大きく頷いた。



私達はご飯を食べ終わると食器を片付けて教室に戻ろうと食堂を出ようとした。

すると知らない男子が

「え?緑川さん?」

と声を掛けて来た。緑川さんは先程まで笑顔だったのが消えてスッと無表情になると

「なに?」

と冷たい声で言う。私と奈々はその変わりように驚きながら見守ると

「何で緑川さんが食堂でご飯食べるの~?イメージが違うから食堂で食べないでよ~なあ?お前等もそう思うだろ?」

と周りに居る友達なのか3人の男子に声を掛けると

「本当、緑川さんのイメージが崩れるから止めて欲しい。」

「緑川さんは俺達の高嶺の花だからそこは気を付けて欲しい。」

とそれぞれ勝手なことを言い出した。私はその言葉を黙って浴びさせられる緑川の姿を見てあの日の事を思いだした。


確か2年前、朝ご飯のキュウリが傷んでいたのか寝坊した私は冷蔵庫に入っていたしなったキュウリを持ってそのまま走りながら丸かじりしながら学校に向かったのだ。

そのせいかお腹が急に痛くなってトイレに駆け込もうとすると私の状態を心配してくれた奈々が心配して付き添ってトイレの前まで着いてきてくれたのだ。

私は女子トイレに入ろうとしたら中から複数の女の子達の笑い声や何かを大きな声で言っているのが聞こえたので中を見ると、4人の女子達が1人の女の子にホースで水を掛けているのが見えた。その水を掛けられた子は地べたに座り込みビッショリと頭から水を被って抵抗もせず俯いている。

「おい!緑川さーん!聞こえてますかー?」

「おい!聞こえてんのかよ!緑川!!返事しろよ!!」

「あれだよ、水が足りないんじゃ無い?もっと要りますかー?」

とキャハハと笑う女子達に何も抵抗しない女の子。私はその光景を唖然と見ていたがお腹の痛みが最高潮に達したのでもう限界だと思ってどうしようか悩んだけれど、ここから違うトイレに行くのは危険と判断した時に知らずのうちに私はホースを持った生徒を思いっきり蹴り飛ばしていた。

「何すんのよ!!」

と怒るその子はトイレの床に這いつくばっていたので私はその子に床に落ちてまだ水が出っぱなしのホースを持ってその這いつくばっている子に

「邪魔だからどいて。」

と言って思いっきりホースの水を掛けた。

その子は悲鳴を挙げて抵抗し他の子達も私を取り押さえようとして来たので顔面に向かってホースの口を向けたりして抵抗しそいつらが去るまで水をその子達に掛けまくった。

その子達は私が水を掛けたからかあっさり居なくなってその様子を奈々が呆然として見ていた。私はその頃にはお腹が痛いのが無くなっていて黙ってホースの水を止めてホースを片付けるとその場に座り込んでいた子に

「いつまでも黙ってたって仕方ないから困った事あったら私にいつでも言いなよ。一人で耐えない方が良いよ。」

と言ってその後は忘れていた腹痛が急激にきて私はその後は全部が水浸しになってしまってここのトイレは使えないと思った私は水浸しになっていない他の女子トイレに向かって廊下を走った。

あの後、その子がどうなったのか知らないけど担任が私と奈々にトイレをモップで綺麗にするようにと言われて掃除しなくてはいけなくなったのは覚えている。


「あの子が緑川だったのか。」

と独り言を言うと奈々が

「え?」

と聞き返してきたが私はそれに反応せず、私等の前に居る男子達に

「ねえ、それってあんたらの妄想だよね?」

と聞いた。

「あ?」

と男子の一人が言ってきたが

「だってそうでしょ?緑川の友達でも何でも無いのにどうしてあんたらに緑川の生活を決めつけられないといけないわけ?」

「お前には関係ないだろ?引っ込んでろよ。」

「あ?お前の方が関係ないだろ。ていうか、緑川が何も言わないからって甘く見すぎじゃないの?あんたらが勝手に緑川の性格や生活を決めつけて言ってんじゃん。あんたらの方が緑川からしたら迷惑だし、関係ないじゃん。それを考えたらどっちが引っ込むべきか考えて発言しなよ。」

と何故か完全に緑川の代わりに私は怒りの感情が抑えきれなくなった。

周りは私達が喧嘩しているのを遠巻きに見ていたが途中から冷やかすように

「女の子に振られて食堂でご飯を食べるのを否定するとか気持ち悪い。」

「ていうか、男子が逆ギレしてんの?」

という声が大きくなり私達の周りには人集りが出来た。

人集りの目線を気にしてか言いがかりをつけて来た男子達が

「行こうぜ。」

と言って教室に向かって行った。その消える姿を見て奈々が

「良かった、もう佑月急に何で突っかかって行くのよ。」

と怒ってきた。私は

「明日から食堂使えなくなるの私が困るから。」

と言って私はこっちをポカンとした顔で見ている緑川の頭を優しくポンポンと撫でた。



私には好きな人が居る。

その人は私と同じ女性だ。その人との出逢いは私が虐めを受けている時だった。

彗星のごとく現れた彼女は無言で虐めてきた奴らに対して私がやられて来た事をやり返してくれた。

私は虐めてきた人達を追い出すだけでは無くてやり返す彼女の後ろ姿はとても美しく力強さを感じた。

私はお礼が言えず、何度か話掛けたが彼女は興味が無いのか生返事で友人の鼓さんが何度か注意したが気にも留めていなかった。

私はもしかしたらこの気持ちがバレてしまったのかもしれないと思って離れ、ただ同じクラスの一員である事や学年が上がって別のクラスになってからは廊下ですれ違うだけで私の心は満たされていた。

ただ、この気持ちが何かは私には分からなかった。この感情は恋愛なのか人間としてなのか。

私は同性を今まで好きになった事が無い。初恋も今まで片想いをした人も男性だった。

だけれど誰にも私は相談できなかった、この学校では友達が一人も居なく中学の友達は受験勉強で忙しいからだ。

そんな時私はたまたま担任の先生に頼まれていた資料を片付ける時にフッと安藤さんのクラスを通ると彼女は寝ていた。周囲には人が居なかった、私は胸がドキドキと早くなるのを感じたがそのまま見なかった事にして通り過ぎた。

(もし教室に戻る時にまだ居たらコソッと言ってみよう。もしそれで起きたら勇気出して聞いてみよう、気持ちが悪く思われるかもしれないけれどもうすぐしたら受験の試験でそれ所じゃなくなって卒業を迎えてしまう。それまでに1回でも良いから想いを伝えたい。)

その気持ちで資料を片付けに行って急いで戻るとそこにはまだ机に突っ伏して寝ている安藤さんの姿があった。

私は密かに抱いていた気持ちを伝えた。


「好きです。」

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