第10話襲撃①

 「今日はとても有意義な1日でしたね!」


 「ああ、無適性の正体がわかったからな」


 ボクと姉さんは夕陽に照らされながら隣り合って歩く。

 今日だけでボクがこれからどうするべきか決まった。


 1. 同じ無適性で属性魔法を使っている人を見つける(ボクが使える魔導具があるってことは、多分魔法が使える人もいるだろ)


 2. 自力で放出回路を確立させる(これはより深く魔力回路を理解する必要があるから時間がかかりそうだな)


 この2つを並行して取り組む。


 「それにこれも......」


 姉さんはポケットから例の銃を取り出す。

 メイヤが使える人に使って欲しいと言ってボクらにくれた。

 魔導具屋エンジェルから立ち去る際、メイヤは胸を貫かれたゴブリン人形を抱きしめながらボクらを見送った。


 「うぅ〜、私はこれからすぐにゴブッチの埋葬をしますぅ〜。そろそろ雨が降ってきちゃうんでぇー。お二人も早く帰ったほうがいいですよぉー」


 ほんの少しだけ悪いことをした気がした......が撃ったの姉さんだしボクにはかんけーない。


 銃はとりあえず、護身用に姉さんに持たせておいた。姉さん綺麗だし......。

 でも姉さんが銃を使う機会なんてない。

 ボクがそんな機会を作らせないから。

 ボクが絶対に姉さんを守る。


 ボクはひっそりと決意を胸にした

 

 ――――はずなのに。ボクの決意はものの数分で砕け散った。


 雨が蕭蕭しょうしょうと降る中


 姉さんは銃を撃った。


 ボクらは皇都の裏に巣食うクズ共に襲われた。




+++




 「姉さんこっちだ」


 「は、はい。テオ様」


 宿に向かって歩いている途中、突然大雨に見舞われた。あいつメイヤが言ってた通りだったわ。今は夏だし、夕立ってやつか。


 目の前が見えないほどの大雨の中、ボクは姉さんの手を取り先導していく。


 ボクはいち早く宿を目指す。だから近道しようと人気のない路地裏に歩みを進めて行く。


 「姉さん! ここ通れば近道できそう」


 「そうですね! 早く宿へ戻りましょう」


 道幅は前世の世界にありふれた車がギリギリ通れるぐらい。

 ボクと姉さんはそこを一直線に通り抜けて行く。

 

 「姉さん! あそこを右に曲がれば大通りに出れるぞ。宿まであと少しだ」


 「はい、もうすぐですね!」


 ボクと姉さんは宿のすぐ近くまで戻って来た。あと少しでこの狭い路地からも抜けられる。


 ――そのときだった。


 正面に見える分かれ道から突如怪しげなローブを纏った連中が5人現れた。そして連中はボクと姉さんの行く手を阻むように路地に広がった。


 なんだコイツら?


 明らかにボクと姉さんを待ち構えていた様子である。


 「お前らどこから湧いてきやがった?」


 ボクは警戒心をマックスにしてその場に立ち止まる。


 「はっはっは、ガキ。そんなに警戒しても無駄だ。お前たちはもう囲まれてる」


 大柄な男が馬鹿にした口調で言う。

 ボクはその言葉にハッとして、急いで後ろを振り返った。

 ボクと姉さんが今さっき通った道にも、既に怪しげなローブを纏った連中が5人いた。


 合計10人。


 ボクと姉さんは狭い路地裏で囲まれてしまったのだ。


 「はっはっは、お前たちが馬鹿でよかった。自分たちからこんな路地裏に入ってくれるとはな。おかげで宿を襲う手間が省けた」


 大柄な男が見下したように笑う。


 チッ、昨日の時点でマークされてたのかよ。

 皇都の騎士はこんな奴らを野放しにしてるのか? ちゃんと働けよ。


 ボクは心の中で文句を言いながら、ローブの連中をじっくり観察する。

 ローブのせいであまり顔は見えない。

 だが、腰あたりの膨らみから察するに何やら武器を携えてる。


 剣か杖か......他に何かあるか?

 ......わからんな。


 相手はそれなりに用意周到。

 やり慣れてる感もある。

 ......めんどくせぇ。


 「おい、ガキ。そこの女をおとなしく置いてけば、お前には痛い目を合わせないでおいてやるよ」


 大柄な男が言い放つ。


 狙いは姉さんか......まあ、そうだわな。


 大柄な男はローブ越しでもわかるいいガタイをしている。

 

 冒険者くずれか? クソだな。


 ランクが上がらずに挫折した冒険者が悪事に手を染めるという話しはよく聞く。目前の男は体型や話し方から何となく元冒険者な気がした。

 

 ボクは思考を加速させ、どうやってこの場を切り抜けるか考える。

 

 とりあえずは姉さんを少しでも安心させてあげないとな......。

 ボクがなんとかするから。

 そう思いボクは姉さんに声をかけようとした。


 「姉さん、ボクの側――」


 ――――バンッ


 ボクの声は突如発した大きな音にかき消された。


 ボクは反射的に音の源に目を向ける。


 姉さんが銃を握りしめていた。手を震わせながら。


 そして姉さんは銃を大柄な男に向けたまま、ボクよりも半歩前に出た。足を震わせながら。


 「テオ様! どうかお逃げ下さい!」


 姉さんは大柄な男を睨みながらボクに言った。声を震わせながら。


 「な、なんだその魔道具は?」


 「い、今の爆発音はなんだ?」


 弾は外れた。けれどもローブを纏う怪しげ連中の間に動揺が走っていた。


 「彼らの目的は私です。私が囮になるのでテオ様はそのうちにお逃げ下さい!」


 姉さんは手も足も声も震わせながらボクに叫ぶ。


 「ねえ......さん......」


 ボクは一瞬思考が停止した。


 ボクは一体何をしてるんだ?


 何も行動しないで考えてるだけだった自分に怒りが湧いてくる。


 どうして姉さんに闘わせてる?

 どうして姉さんに銃を撃たせた?

 いや、そもそも

 どうして姉さんに銃を渡した?


 ボクは、ボクはあの日誓ったのに......。


 「お前は今まで十分闘ってきた。だからもう闘う必要なんてない」


 そう言うとともに姉さんの首を覆う奴隷首輪を掴んだ。


 「これからはこのボクが守ってやるよ。だから......お前は......ボクの姉になれ!」


 そう言うとともに奴隷首輪を粉砕した。


 それなのに、ボクはこの誓いをたがえるのか?


 いやそんなわけない。絶対にダメだ。


 姉さんのことはボクが必ず守る。

 

 姉さんにはこれからもずっとボクの姉でいて欲しい。

 ボクの側にいて欲しい。

 ボクはそのことを強く欲する。強欲までに。


 姉さんを置いて逃げる?

 冗談じゃない。


 ......クククッ、皆殺しだ。


 どうやって2人で逃げようかと考えてた自分が馬鹿だ。

 姉さんを連れ去ろうする連中は全員殺せばいいだけだ。


 ボクは不気味に笑いながらゆっくりと姉さんの前に出て行く。そして姉さんから銃を取り上げた。


 「テ、テオ様......」


 姉さんは驚いた目でボクのことを見てくる。


 「姉さん。約束しただろ。必ず守るって」


 ボクは姉さんにニッコリと微笑んだ。純粋な笑みで。


 それからボクはゆっくりと大柄な男に銃を向ける。


 「お前ら全員死ね」


 ボクの冷たい声が、静かな路地に響き渡る。

 

 そして次の瞬間、ボクは銃の引き金を引いた。

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強欲平民による、凶悪な原作書き換え劇〜原作の物語よ、そこをどけ。ボクの物語が通る〜 エンジェルん@底辺作家 @suyaka

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