第9話魔道具店②

 「おーーー、冷たい空気が出てくるな」


 「はい、今日みたいな暑い日には最高ですね!」


 ホントホント......エアコンかな?


 ボクらは魔道具を実際に起動して遊んでる。さっきの店だと起動できんかったからサイコーサイコー。

 あっ、もちろん起動させてのはメイヤ。ボクと姉さんじゃ起動させられんからな。

 ......クソッ。


 「もぉーやめましょうよぉー、魔力が全然残ってませんよぉー」


 メイヤが泣き言を言ってくる。

 店員なら客のために働け。


 「クククッ、魔力が尽きるその瞬間までボクのために魔道具を起動させておけ」


 「うぅ〜、ただ平民が貴族様に逆らえる訳ないですよぉー、私長生きしたいですもんー」


 クククッ、その通りだ。命が欲しくば貴族様の命令には――


「そういえばボク貴族じゃなかったわ」


 もうルーズ家じゃないんだ。

 ボクはただの強欲平民か?


 「えぇー、貴族じゃないのにそんな態度なんですかぁー。少年の将来が心配ですぅー」


 「それは問題ありません。この私がテオ様を立派な方に育ててみせます」


 メイヤは驚いてみせるが、姉さんが間髪入れずに口を挟む。姉さんは両手を胸の前で握りしめており、やる気は十分。


 (テオ君を育てる人の姉よ、まずは言葉使いから教えてあげなさい) かっ、神様!?


 「ボクはすでに自分でかねを集めてるんだから立派だろ」


 「ふふふ、そうでしたね」


 「へぇーーーそれは意外ですけどぉー、少年は立派なんですねぇー」


 メイヤは感心したような声を出す。


 「それでぇー、一体どんなことをしてお金を――「さっきからそれ起動してないぞ?」」


 メイヤが何か言おうとした気がするが、んなもん知らん。関係がない。

 メイヤはかれこれ5分以上目の前にある魔道具、ふんわりとした椅子(?)に座っている。

 

 こいつただくつろいでるだけだろ......。


 「さ、さっきからずっと魔力通してるんですよぉー。でもなんか魔力の通りが変な感じがして起動してくれないんですよぉー。壊れてるんじゃないですかぁー」


 メイヤは泣き叫びながら答える。


 ん、魔力の通りが変?


 「テ、テオ様!」


 ボクと姉さんは顔を合わせ、コクリと頷き合う。


 「お前いったんどけ。試しにボクがやる」


 早くどいたどいた。


 「うぅ〜、歳下にそんな風に言われると流石に傷つきますよぉー。でも少年無適性ですけど起動させられるんですかぁー?」


 クククッ、できたら全ての点と点が繋がるんだよ!


 「やってみないとわからんだろ。ここに魔力を通せばいいんだな」


 ボクは椅子に腰を下ろし、メイヤが手をかざしてたところに自分の手をかざす。

 それからそっと目を瞑り、魔力を手に集中させた。


 「「「!?」」」


 やっぱり通った!!!

 この魔道具は壊れてない。


 無適性。その正体は――


 「イタイッイタイッ」


 「テ、テオ様!」


 肩をぐりぐりするのはやめてくれ。

 これは......マッサージ機か?

 ボクには早いわ。ボケッ。


 「イテテテ。けど姉さん、やっぱり魔力回路が違ってたぞ。さらに言うと放出系回路が」


 だから身体強化だけは使えるんだな。


 「......! ですから適性が無だったんですね。適性検査機も魔道具ですし!」


 そゆこと。さすが姉さん、理解が早い。


 そんなボクらのやりとりをメイヤはポカン口を開けて見ていた。しかし突然ハッとしてドタドタとカウンターの奥の部屋へ入って行く。今度はボクらがポカンと口を開けた。

 少し経つとメイヤは何やら木箱を持って戻って来た。


 「これは祖母から貰った物なんですけどぉー、誰も使える人がいなくてぇー......」


 そう言って木箱を開ける。


 「こ、これは銃か!!!」


 テレビドラマに出てくるようなピストルがそこにはあった。


 「銃? テオ様、これは一体どういった魔導具なんですか?」


 ボクはめっちゃ興奮しながら銃を手に取る。だって銃だぞ? 男の夢だろ?


 「ああ、この引き金を引けばな。ここの穴から弾がもうスピードで......出てくるのか?」


 「ど、どうして最後が疑問形なんですかぁー!!!」


 メイヤがすかさずツッコミをいれてくる。

 お前まだまだ元気そうだな......。魔力切れはどこいった?


 「テオ様、どこに弾が入っているんですか?」


 姉さんが不思議そうにしてボクの手にある銃を見る。


 ......わからん。

 カチャッってできると思ったのにできなかった。


 なんとこの銃、弾を入れる場所がない。


 「撃つ前にここの穴から入れるのか?」

 

 「それは不便ですね」


 「不便ですぅー」


 2人して面白くなさそうな顔をする。

 ......なんか興ざめだわ。興奮が冷めてきた。


 「姉さん、あげる」


 「あ、はい。ありがとうございます」


 姉さんはおずおず受け取るが


 「これは変わった形をしていますね」


 ものの数秒後には興味津々になった。

 やっぱり姉さんはまだまだ子どもだな......。


 「本当ならここから弾が勢いよく出てくるんですね!」


 姉さんは銃口をしげしげと見る。


 「この口を狙っているものに向けて......」


 姉さんがなにやら銃を構え始めた。


 姉さんにもこういうところあるんだな。

 厨二病的なやつ。

 えっと、狙いの先は......ゴブリン?


 窓前にゴブリンらしき人形があった。

 クククッ、魔物はぶっ殺しちゃえ、姉さん。

 

 「......撃つんですね!」


 姉さんは弾んだ声とともに、引き金を引く。


 ――刹那


 鉛の音と窓ガラスの割れる音が店に


 「本当ならここから弾が出てくるんですね! 試しにこの引き金を


 


 「本当ならここの引き金を引くと弾が出てくるんですね」


 


 「......弾。出てきたな」


 「......はい、出てきましたね」

 

 「ああぁー! 私のゴブリン人形がぁー!」


 メイヤの泣き声だけが店内に残る。


 姉さんの撃った弾は、見事にゴブリンの胸を貫いたのだった。

 



 

 

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