怪談:怪物

みにぱぷる

怪物

 むかしむかし、今からちょうど100年も昔のことでございます。ある町に、兵吾と陸という子供がいました。二人とも活発で好奇心旺盛な子供で、どんなことにも興味を示しました。そんな二人は仲良しで、いつも、一緒にいます。

 ある時、二人は森で昆虫採集をしていました。採集といっても、捕まえて観察して逃すだけのことでしたが、二人の好奇心を激しくくすぐる遊びでした。

「なあ兵吾。このクワガタめっちゃくちゃ大きいぞ」

「もっと大きいクワガタを見つけてやるわ」

 今日は、二人は捕まえたクワガタの大きさを競っているようです。

 陸に自慢されて悔しい兵吾は、森の奥へとどんどん進んでいきます。

 木々を調べながら、どんどん奥に進んでいくうちに日は暮れてしまいました。それでも、兵吾は奥に進んでいきます。

 もうそろそろ帰ろうか、と兵吾が思った時、突然目の前の茂みが揺れました。兵吾はその茂みに近付きます。大きなクワガタがいることを期待したんでしょう。

 茂みに近付いた兵吾は、恐ろしい物を見つけてはっと息を飲みました。

 そこにいたのは人のような形をした生き物でした。形は人ですが、人でないことは明らかでした。両目は真っ赤に充血して、鼻は逆さ、口は異常なほど大きく、耳は悪魔のもののように尖っており、顔は真っ黒でした。その生き物はしゃがんで、静止しています。

 兵吾は恐怖のあまりひっと声をあげ、それに気付いた異形の生物と目が合います。目が合った瞬間、そいつの異常な大きさの口から卵のような丸いものが出てきました。その物は唾液によってベタベタとしていて、ぬっとりとそいつの体を伝い、地面にぽとりと落ちました。

 落ちるとすぐ、ヒビが入ります。

 兵吾は悲鳴をあげて、踵を返しました。幸いにも一直線に森の中に入っていったので、真っ直ぐ降りれば、森を出られるはずです。

 たったったったった、と兵吾が走る音に重なって、とっとっと、と素早く兵吾の後を追う二つの足音が聞こえます。

 兵吾が恐る恐る振り返ると、先ほどしゃがんでいた背丈二メートルぐらいの物と、一メートルぐらいの小さな物が追いかけてきています。小さい方も見た目は大きい方と全く一緒で、歪な顔をしています。

 兵吾も全力で走ったので、一進一退のまま、森を抜けることができました。森を抜けると、兵吾の帰りを心配そうに待つ陸がいました。

「おい、何してたんだ」

「兎に角逃げろ」

 兵吾は叫びました。陸は兵吾の後ろにいる異形の化け物を見て、絶叫し、逃げ出します。

 そして、もうすぐ市街地に入れるというところで、とうとう兵吾は追いつかれてしまいました。化け物の体力は未知数でした。化け物は兵吾の首に向かって腕を叩きつけます。兵吾の首は一撃で九十度に折れ曲がり、兵吾は絶命しました。

 陸は市街地に入ると、交番に駆け込みました。

「お巡りさん、化け物が出た、化け物が。お巡りさんお巡りさん」

 陸は狂ったように繰り返します。

「化け物? 寝ぼけているのか」

 警察官は首を傾げながらも、念の為、拳銃を持って交番を出ます。すると、森の方向に確かに化け物が二匹、こちらに向かって走ってきています。最初は一メートルぐらいだった小さい方の化け物も大きくなったようで、二メートルの化け物が二匹駆けてきます。

 警察官は拳銃の安全装置を抜き、拳銃を構えます。その時、警察官と化け物の目が一瞬会いました。その瞬間、化け物の口からまたあの卵のような球体が生まれてきました。どうやら、目が合うと卵が生まれるようです。

 警察官は恐怖に精神をやられながら、ついに発砲しました。

 ですが、化け物には効きません。化け物は警察官と陸の首をまたも一振りで九十度折り、二人を絶命させます。

 こうして化け物は手がつけられないほどに増えていき、人類はその化け物によって、一人また一人と首を折られていきました。

 そして、2124年現在、彼らはどうなったのでしょうか。

 めでたしめでたし。

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怪談:怪物 みにぱぷる @mistery-ramune

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